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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第2章:星女と宙賊と戦艦
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2-44:シャングリラ宙域戦②

今話も共和国視点。

 「敵艦隊の動きはどうか!」

 「はっ! どうやら、中将の予想が当たったようですな。前衛及び左翼艦隊に対する攻勢圧力が、明らかに低下しております」

 「良し、そのまま全艦隊の後退を継続。前衛及び左翼艦隊の損傷艦は後退を急がせろ。……さて、ボルド少将。敵は次にどう動くと考える?」

 「……そうですな。敵の狙いが攻勢を装った誘引を目的とするのであれば、再度攻勢に出てくる可能性が高いかと思われます。既に此方の艦隊からかなりの数がコロニーの裏側へ向かったのは、彼方も察知しているでしょうから。慌てるのでは?」

 「ふむ」


 ヴァルドリッジとしても、ボルド少将の予想に対し特に異論は無い。攻勢による誘引が目的ならば、このまま此方が後退をし続ける事を良しとはしないだろう事は彼も予想している。とは言え、敵の主力が此方側では無い場合は状況が大きく変わるのも事実。推定40隻未満の敵艦隊に此処まで良い様に翻弄されている現状において、それを上回る艦隊が出て来た場合、戦力の逐次投入に等しい形での指示を出したのは愚策となるのだ。


 「一先ず、敵の動きを見る。ちなみに、後方へ遮断に向かった部隊はどうなっている?」

 「距離を維持しつつ、敵陣を掻き乱す様に徹底させております。脚の差はありますが、最高速に入らせなければ、十分対応出来るかと」

 「よし。そろそろ、敵が痺れを切ら……動いたか」

 「何があった?」

 「はっ! 敵艦隊。再び前衛及び左翼艦隊に対し攻勢を開始しました!」


 どの時点で再び仕掛けてくるか、ヴァルドリッジがそろそろかと思った正にそのタイミングで、敵艦隊による再度の攻勢が開始された。シャングリラ宙域における戦闘において初手は譲ったものの、それ以降の流れは凡そ彼の思い描く形に沿っている。では、次にどう戦況が動くかの。既に、予想は付いていた。


 「次は、向こう側だろうな」

 「この状況で動きますか? 既にかなりの友軍艦が彼方側に展開を開始しましたが……」

 「このタイミングを逃せば、次が無い事くらいは分かるだろう。彼方側にどの程度の戦力を振り分けているかまでは戦端が開かれん限り分からんが、これまでの情報を元に保有している戦力を予想するのならば、精々此方側を襲撃している連中と同数程度だろう」

 「そうなると、彼らは予想される保有戦力から半数近くを投入した攻勢による誘引戦術を取っている事になりますな。そこまでして実行に掛ける真の狙い……。我々の背後にあるシャングリラはパルメニア教団の総本山であり、あそこで暮らしているのは大部分が教徒達のはず」

 「あれだけの戦力を投入して、わざわざ教徒達を脱出させるとは思えん。そうなると……」

 「教団の幹部或いは……」


 ボルド少将の呟きに対し、ヴァルドリッジの脳裏に浮かんだのは此度の艦隊派遣において確実に身柄を確保する様に厳命されていた、とある女性の姿であった。パルメニア教団の精神的トップたる星女。シャングリラコロニーから大規模な戦力を用いてまで救出するだけの価値がある人物など、彼女以外はいない。ボルド少将の表情を見るに、彼も同じ答えに至っているとヴァルドリッジは確信した。


 「確か、教団は高速艦を複数隻保有していたな?」

 「……その様ですな」


 手元の端末に目をやりながら、教団の情報を洗い直すボルド少将。そこには確かに教団が高速艦を複数隻保有している旨の記載があった。何れも脚の速い艦であり、逃亡用にはうってつけであろう。


 「あの手の組織が根城としているコロニーだ。表にされていない、秘密裏に使用出来る発着スペースもあるだろう。恐らく、そこから脱出し何れかに向かう予定なのだと考えれば、此度の襲撃も辻褄は合うな」

 「高速艦ですので、最高速に乗られる前に抑えないと厄介ですな。しかし、かと言って撃沈は出来ないと」

 「無論、乗っていればの話ではあるが、可能性としては高いだろう。警戒を厳にする様に伝えるしかあるまい」


 3次元で動ける宇宙空間において、特定の艦のみを撃沈せずに捕らえると言うのは中々に骨の折れる作業となる。脚の遅い大型艦ならばいざ知らず、高速を売りとする高速艦ともなると難易度は跳ね上がる。とは言え、最高速にのる前であれば決して不可能ではない。そこへ、2人に取っての吉報が齎される。


 「上手く行くと……」

 「報告します!」

 「……どうした?」

 「警戒部隊より入電! シャングリラ第16ブロック付近にて、発進シークエンスにあった不審な高速艦2隻を発見。発進を阻止し拿捕したとの事です! それから、右翼艦隊先遣隊より入電。所属不明艦複数隻と交戦中との事!」

 「そうか、ご苦労! 引き続き情報収集に当たれ!」

 「はっ!」


 ヴァルドリッジとボルド少将の会話に割って入ってきた士官の報告に2人は思わず顔を見合わせ笑みを浮かべる。最も懸念された事態を避けられそうだと言う事に。


 「此方の動きに対し、慌てて穴倉から出ようとした様ですな?」

 「しかし、僅か複数隻での突入とはな……。此方側が主力だったのか?」

 「保有戦力からギリギリのラインで戦力を割いたか、或いは損害を嫌って後方で温存させたのかもしれませんな?」

 「だとすると、後方部隊を叩きに行かせた艦隊が危険やもしれん」

 「確かに。しかし、通信が回復しない限り連絡は難しいかと」

 「早々、無理をして全滅などと言う事にはならんと思うが……」


 一先ず、教団が保有する艦艇の逃亡を阻止出来た事にヴァルドリッジは安堵感を覚えた。万が一、その船に星女が乗っていた場合、彼が与えられた任務を達成する事が難しくなるのは明らかだったからだ。勿論、搭乗していなかった場合はコロニー内を隈なく探す心算では居たが。


 「どうにも、敵の動きがチグハグに思える」

 「そうですな。序盤こそ流れを取られましたが、ヴァルドリッジ中将が指揮を執られて以降は完全に此方のペースに傾きました。例の組織で指揮を執る者は、戦術面で慣れていないのやもしれませんな?」

 「優れた戦力はあるが、経験が圧倒的に不足していると言う事か……。そうであるならば、出来れば此処で徹底的に叩きたい所ではあるが」

 「同感ですな。艦隊を……何だ!?」

 「この光は!?」


 2人が、この機を逃さず更に敵勢力に打撃を与えんと追撃プランを練り始めた矢先、指揮所の周囲に設置されている船外モニターから、画面が焼き付くのでは無いかと思えるほど強烈な閃光が迸った。思わず、片腕を盾にし目を守る2人。モニター越しにすら感じる強烈な閃光は数秒程続き、やがて収束へと向かう。彼らが漸く腕を下ろし、再びモニターへと視線をやると、閃光によって外部カメラが破損したのか、映像が途切れていた。果たして何があったのか……?

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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