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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第2章:星女と宙賊と戦艦
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2-43:シャングリラ宙域戦①

再びの第三者視点。戦闘はこっちの方が書きやすいよね?

 ボルジア共和国軍、第6機動艦隊隷下、第211任務部隊(TF211)。戦艦や空母等で編成される複数の主力艦隊に加え、後方支援を担う工作艦と大型補給艦からなる支援艦隊、そして陸戦要員たる海兵隊員15,000名及び多数の戦闘車両を満載した10隻の揚陸艦から構成されている。TF211の総旗艦を務めるのが、戦艦フォートスティールである。現在、フォートスティールの船体中央部、分厚い装甲に護られた艦隊指揮所は俄かに騒がしくなっていた。そんな状況の指揮所に、1人の偉丈夫が姿を現した。丁寧に整えられた皺1つ無い軍服を身に着け、足早に室内へ歩みを進める壮年の男性将校。指揮所要員の誰もが彼の姿を目に止めると、敬礼や黙礼にて出迎える。それらに丁寧に返礼を返しつつ、指揮所中央まで歩みを進めた将校。彼こそ、このTF211を預かるアルフレッド・ヴァルドリッジ中将である。


 「状況は、どうなっている?」

 「お休みの所、申し訳ございません。ヴァルドリッジ中将」

 「構わん。従卒の話では敵襲との事だったが?」

 「はっ! 10分程前より宙域に展開する艦隊全体にてレーダー及び通信機能に大規模な障害が発生しております。それと時を同じくして、艦隊左前方10時の方向より出現したと思しき所属不明艦隊より攻撃を受けており、現在は前衛及び左翼の艦隊が迎撃戦を行っております」


 指令所における、定席についたヴァルドリッジに手短に状況を報告するのはボルド・ガバナー少将。艦隊指揮官たるヴァルドリッジが不在の時に、艦隊の指揮を預かる立場の人物である。手元の小型端末を操作しながら、ヴァルドリッジへと視線を向ける。


 「判明している敵勢力の数は?」

 「なにぶん、レーダーも通信も機能しない状況ですので、対応部隊の目視による報告では駆逐艦から巡洋艦クラスが合計で20~40隻程度との事。他に艦載機と思しき小型の機影も複数確認されております」

 「此方の被害状況は?」

 「現時点迄で、巡洋艦3隻と駆逐艦8隻が撃沈確実。他に駆逐艦5~10隻程度が被弾している模様です」


 現況を聞き、顎髭に指を這わせながら思案するヴァルドリッジ。目の前の、逐一変化していく戦況図を睨み敵の動きを見極めようとしている様だ。


 「障害と言ったが、最初に発生した地点や方角は分かるか?」

 「少々、お待ちを。分析担当! 障害発生地点を割り出せるか!?」

 「はっ、直ちに!」


 ガバナーは自身の端末を操作しながら、レーダー等で情報分析を担当している士官に最優先での割り出しを指示する。その間、彼も自身の観点から情報分析を続ける。その様子を満足気に眺めながら、ヴァルドリッジは思案を続ける。敵勢力が何を狙っているのか……。


 「出ました! ポイント8、4から6方面より順次障害が発生した模様です!」

 「ご苦労。ヴァルドリッジ中将。どうやら、方角からすると事の始まりはコンラッドコロニー方面の様ですな」

 「ふむ。この宙域における磁気嵐の予報は無かった。そうなると、これらの障害は人為的な妨害と見て良いだろう。偽装航路を用いている可能性はあるが、仕掛けて来ているのは、報告にあった例の組織の連中と見て良いな」

 「最近、コンラッドを含めた周辺宙域で確認されている武装組織ですな? 確か、民間防衛組織ランドロッサとか言いましたか」

 「そうだ。ガルメデアコロニー宙域での一件にもその組織が絡んでいる様だ。此処に来た理由は知らんが、向こうから出張ってきたのならば、一勝負お相手願おうじゃないか」


 ヴァルドリッジの表情が更に引き締まり、鋭い眼光に強い意思の力が宿る。歴戦の艦隊司令官として彼がやるべき事はシンプルなものだ。敵を潰す。ただ、それだけ。


 「現在、応対している前衛と左翼の艦隊は密集陣形を維持し面で敵の頭を抑えさせろ。迂闊に腹の内に入らせるなよ。敵艦載機の抑えとして、此方も空母から艦載機を向かわせる。必ず数機で1機に当たらせるように。数の利をむざむざ捨てないよう厳命しておけ。それと後方の艦隊から高速艦を抽出、敵艦隊の退路を抑えさせろ。それから、あれだけの艦艇数だ。後方に支援の為の補給艦なり、簡易式の補給拠点を持っている筈だ。余裕のある右翼の艦隊から30隻……、いや現状を鑑みると20隻程度で限度か。それだけ選抜してコンラッド方面へ先行し捜索、見つけ次第叩かせろ。(ただ)し、無理は禁物。抵抗が激しいならば、情報を持ち帰る事を優先させろ」

 「シャングリラ周辺の警戒部隊はどうしますか?」

 「此方に合流と言いたいが、現状を維持させろ。もし、あれらが何らかの意図を持った行動ならば、コロニー側で呼応する動きがあるやもしれん。警戒を緩めるな」

 「了解しました!」


 ヴァルドリッジの指示を各所へと送るボルドを横目に、戦況図へと再び視線を落とすヴァルドリッジ。大規模な障害によって、各艦隊の動きは精度を欠いており対応が後手に回ってしまっている部隊も多い。戦況図の更新も、目視と発光信号によるものを反映させているのでタイムラグが発生している。その中、数個の光点が戦況図から消滅した。大きさから見て駆逐艦サイズの艦艇が撃沈と判断された様だ。撃沈確実は既に10隻を超えている。戦闘艦全体から見れば、まだ数%の損害とは言え、徐々に艦隊の防衛網に綻びが生じるのは間違い無いだろう。どう動くか、ヴァルドリッジは脳をフル回転させ始めた。見えない敵司令官の先読みする為に。


 「空母ギャレッド、グレンロッグの艦載機隊を向かわせろ。それから、現在の最新の被害状況を送れ!」

 「ギャレッド・グレンロッグ両艦載機隊、順次発艦を開始!」

 「被害報告、順次発光信号にて受信中! 駆逐艦オリン、アルビン、バッグス撃沈確実!」

 「敵艦隊。依然、前衛艦隊及び左翼艦隊と交戦中! 此方が与えた損害、残念ながら軽微との事!」

 「敵艦は脚が速い! 掻き乱されたら内側を一気に喰われるぞ! 面による制圧射撃を続け、少しでも機動戦に持ち込ませるな!」

 「巡洋艦ローリンズ撃沈確実! 他に20隻以上の艦艇に被弾を確認! 前衛艦隊及び左翼艦隊の第1防衛ライン突破されました!」


 敵は寡兵ながら、数で勝る自軍の防衛網を喰い破らんと怒涛の勢いで攻撃を繰り出し、激しい抵抗に対しても決して手を緩める様子は見せていない。しかし、ヴァルドリッジはその敵艦隊の動きに疑念を覚えていた。確かに、敵の攻撃は苛烈であり、短時間の内に相応の被害を被っているのは事実。しかし、その動きの何処かに、これまでの経験から来る違和感を感じていた。この動きには、何か狙いがある。そう、確信めいた思いが彼の脳裏へと浮かび上がる。


 「……ふむ。一手打ってみるか? ボルド少将!」

 「はっ! 何でありましょうか?」

 「全艦隊に発光信号。先の指示を維持し敵艦隊を此方へと喰らいつかせたまま、シャングリラへと徐々に後退を開始せよ! それと、右翼及び後方の残存艦隊をコロニーの反対側に急行させ、周囲に不審な艦が居ないか確認させろ」

 「それは、もしや?」

 「今交戦している敵艦隊の狙いは、我々に対する攻勢を装った陽動かもしれん。だとすれば、真の狙いは死角となり手薄になるコロニーの裏側だ。そちら側に敵が主力艦隊を差し向けた可能性もあるからな」

 「確かに。では、直ちに!」


 新たな指示を各艦隊へと割り振るボルド少将。長年に渡り自身の片腕として手腕を振るう彼の様子を見つつ、椅子に深く腰掛けるヴァルドリッジ。軍帽を外し、手櫛で白髪交じりの髪を梳く。敵艦隊の攻勢により、既に損害は艦隊全体の1割にも達しようとしている。しかし、その状況下に置いて、ヴァルドリッジは僅かに唇の端を釣り上げ、獰猛な笑みを浮かべている。その瞳は獲物を確かに見定めていた。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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