2-36:困った、困った
想定外ってのは起こるもので。
「おはよう!」
「おはようございます、一馬さん」
「おはようございますですわ、一馬様」
起床し、朝食やら朝のルーチンを終わらせて司令室へと顔を出すと、既に2人は仕事に取り掛かっていた。まぁ、司令官たるもの、出勤は優雅にね? ってのは冗談で、彼女達より早く司令室に顔を出せた試しが無いだけです。勤勉過ぎるよ……。もう少し人数が増えたら、しっかり休日を増やす様にしないとな。
「さてと、早速で悪いけど昨晩から今朝迄の情報を貰える?」
「では、私から先にお伝えしますわ。先ず、昨晩遅くに過激派に属する宙賊『ビッビス』と『バーセル』から拠点へ仕掛けて来ましたので、応戦。8隻を撃沈し、残りは逃走しましたの。此方の損害は軽微ですわ」
「『ビッビス』ってチョイチョイ名前聞くね? 何度も来て、ソイツらはよっぽと暇なの?」
「どうやら、我々が占領している拠点を根城にしていた組織と仲が良かった様ですわ」
つまり、仲良しのお友達の家が乗っ取られたから、取り返しに来たって事か。でも、結構な数の艦艇を失っているけど廃業の心配はしてないのだろうか? それとも、余程諦められない理由でもあるのだろうか……。
「『ビッビス』は組織の規模的に後回しにしていたけれど、続くなら先に潰そうか?」
「いえ、流石に主力艦隊を投入するまでは無いですわ。適度に削って戦闘AIの経験値にしますわ」
「了解。その辺は、シャンインの判断に任せるよ。他には何かある?」
「後は、護衛の依頼が今日明日と順調に入ってきている位ですわ」
「それは、上々だな。じゃ、次はソフィーの方だね? 何かあった?」
端末片手に何やら、少しばかり難しい表情をしているソフィー。あまり宜しく無い事が発生したかな。可能性としては、教団・共和国・ガルメデアコロニー辺りだろうな。むしろ、それ以外で厄介事が発生してたら勘弁して欲しいわ。まだ、それ以外とは関わって無いしね!?
「2つ動きがありました。ガルメデアコロニーと、共和国です」
「予想通りって言うか……」
「まぁ、想定外で無いだけありがたい……ですわ?」
「ガルメデアコロニーは予想の範囲内なので問題はありません。問題は共和国の方です」
共和国か。主力艦隊がコンラッドコロニー宙域へと進出した事で、刺激されたのだろう。元々、共和国艦隊が出てくる事を想定して艦隊強化を進めて来た訳だが。ソフィーが想定外って言う以上、何かあったの様だ。
「一先ず、ガルメデアコロニー側の状況をお伝えするならば、宇宙港に係留してあった元共和国艦隊の駆逐艦2隻と、補給艦6隻が共和国軍の捕虜達によって奪われました。どうやら、ガルメデアコロニー側で手引きした人間が居る様ですね」
「アイザフ大佐達は?」
「サントス氏が事前に避難させていたらしく、騒動には巻き込まれてはいません。通信文で、無事も確認出来ています」
「それは何より。それで、連中の行先に見当は?」
「宇宙港出航の航路から見て、ほぼ間違い無く此方方面かと?」
ランドロッサ要塞か。まぁ、確かに戦力は皆無、警備も手薄とは漏らしたが、普通は疑いもせずに仕掛けてくるかね? 余程の馬鹿じゃない限り、罠だって分かるだろうにさ。可能性としては、戦後処理の際に騒いでいた海兵隊の何とかって馬鹿が1人で勝手に気勢を挙げたとか? まぁ、何れにせよ戦艦を含む待機艦隊で相手するしかないな。
「此処に向かっているとして、推定到着時刻は?」
「通常航路で進んだ場合、明後日26日の午前1時から2時前後だと思われます。迂回航路の場合は更に数時間を見て頂ければ」
「夜中か……。確かに襲撃側には都合の良い時間だろうな」
「ですが、此方には24時間営業の戦闘AIがありますわ。正直、私達が寝ていても問題ないですもの」
「まぁ、流石に全員で寝ているのは不味いから、俺と後はどちらかが……」
「やります(わ)!」
「あっ、はい……」
結局、2人の勢いに押されて3人で先に仮眠を取って対応する事となった。まぁ、これも経験を積むって事だよね? 合計8隻とは言え、実質的な戦力になるのは2隻の駆逐艦。しかも、前回の戦闘で一方的に打ち負かされた事実がある訳だが……。喉元過ぎれば熱さを忘れるって事なのだろうか? それとも、捕虜生活で鬱憤が溜まっているとかかね?
「ガルメデアはそれで良いとして、共和国の方について教えてくれるかな?」
「はい。現在、フォラフ自治国家宙域に治安維持名目で展開している第6機動軍2,500隻余りの内、400隻程の規模の艦隊に出撃準備が掛かりました。海兵隊による陸戦要員も確認出来ますので、大規模な上陸戦を想定している様ですね。帝国及び連邦方面での戦線は現状では膠着していますし、フォラフ方面からでは何れの戦線も距離があります。迂回路を経由して其方方面へと派兵する可能性はゼロではありませんが、可能性はかなり低いかと。そうなると、向かう先はコンラッドコロニー宙域乃至ガルメデアコロニー宙域かと思われます。とは言え、これだけの規模の艦隊となりますと、準備だけで10日以上は掛かりますので、先ずは情報収集を強化します」
「400隻とは、想定よりかなり多いな。上陸用戦力となると、こっち方面だと前回捕られた捕虜の奪還とかかな?」
「可能性は高いかと。1人や2人ならまだしも、あれだけの人数ですからね。捕虜の家族や戦死者の遺族も明確な行動を軍に求める頃でしょう。共和国としても、ここ等で大きく動く必要が出て来たのかもしれません。勿論、我々の艦隊がコンラッドコロニー宙域へ進出した事も、彼らを大いに刺激したのは間違いないでしょう。或いは、パルメニア教団に対して何らかの示威的行為の可能性もありますが……」
400隻の内、戦闘艦は恐らく300隻前後って所だろう。揚陸艦や補給艦は少なくとも宇宙空間に置ける艦隊戦では戦力としてカウントされる事は無い。一方で迎え撃つ此方の戦力は、守備隊と補給艦を除くとシャンイン傘下の宙賊艦隊も含めて戦艦2、巡洋艦12、駆逐艦37隻の合計51隻。現状での戦力差は単純に艦艇の数で比較すると6倍。正面から馬鹿正直にやり合うのだけは避けた方が良いな。そうなると……。
「爆雷なりを宙域に大量にばら撒くか……」
「でしたら、思考爆雷から開発して生産可能となる機動爆雷はどうでしょうか?」
「機動って事は、敵艦を感知したらスラスター吹かせて接近した上でドカンって事?」
「はい。推進剤の搭載量が少ないので、距離がある敵艦には届きませんが、不用意に近づいた艦には十分な脅威となります」
「よし、早速開発しようか。流石に資源を考えると建造追加は厳しいしな」
機動爆雷のアンロックに必要なシステムポイントは僅かに1だけ。まぁ、初期も初期の兵器だからね。現地までの運搬も考えると生産出来ても数百が限度かな。でも、準備を考えるとコンラッドコロニー宙域では無く、ガルメデアコロニー宙域を主戦場にすべきだろうか。或いは、2段階で待ち受ける手も有りか……。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。