2-31:主神『ルーフェス』
肩の力を抜いて、リラックスして読んで欲しい。
色々と衝撃的な情報が此処最近は特に集まり過ぎじゃないだろうか? ガルメデアコロニー攻防戦の頃が懐かしく感じる程の展開の目まぐるしさにオッサン、若干腰が引けている。もう少し、簡単な方が良いよね。とは言っても、現実逃避をしている暇も無いし。以前から気になっていた事を聞いてみるか。
「ところでさ、1つ気になっている事があるんだけどね?」
「何でしょうか?」
戦闘アンドロイドの手配が完了し、会話に戻って来たソフィーが先に話にのって来る。いやね、今回のパルメニア教団を巡る一連の流れの中で、今更になって思った事があるのよ。物凄く、シンプルな疑問がさ。
「そもそも、主神『ルーフェス』って何? 以前、ソフィーは、神について人間等の知的生命体が同種を効率良く管理・支配する為に創り出した、知的生命体ならざる概念の総称って言っていただろう? 言わば、概念であって存在しない筈の代物だ。でも、この主神『ルーフェス』は星託って明確な形で教団や信徒と繋がりを持っている。神だとすると、その存在は矛盾していないか? まるで実際に存在しているかのようだよね。或いは、管理者がルーフェスとか?」
「「……」」
その2人の沈黙はどっちの答えだろうか。YesなのかNoなのか。はたまた別の答えが実は存在するとか?
ソフィーシャンインはお互いに目配せして何やら意思疎通をしている模様。何かを知っていて、どうは話をするべきか考えているのだろうか?
「……では、私が一馬さんの疑問にお答えします」
「オッケー」
「先に結論から言ってしまえば、主神『ルーフェス』とは旧時代、つまり銀河連邦時代に人が神に挑戦した慣れの果てと言うべき代物です」
「……」
人が神に挑戦って、随分とスケールの大きい事をやったもんだ。しかも、相手は概念だろう? まともにやり合う事すら不可能じゃないのか? そして、此処で登場するのか銀河連邦さんよ。
「神に挑戦したと言いますが、正確には神の様な完全無欠の存在を創り出す事が目的でした。決して判断を誤らず、常に正しい道筋を示し、人々を未来永劫導く存在。そうして創り出されたのが、代替神AI『ルーフェス』。神と言う概念をAIと言うプログラムで、疑似的にしかし明確な形を持って世界へと降臨させたのです」
「神に成り代わるAIか……」
「はい。そして、『ルーフェス』の判断を神託として、政治や経済、外交に軍事、技術発展と幅広い分野に遍く広めていったのです」
疑似的な神となったAIの判断が、人をコントロールする様になったって事か。元いた世界で恐れられている未来予想図が、銀河連邦で一足先に実現されたって事だよな。でも、そうなるとその後の流れは予想しやすいな。
「これは、俺の勝手な予想だけど。恐らく、銀河連邦が崩壊したのは『ルーフェス』が原因だろ?」
「その通りです。当たり前の結論ですが、常に完全である代替神AI『ルーフェス』に取って、人は不完全な存在でしかありません。自身の提案を正しく活かせない存在、完璧に熟せない欠陥品。『ルーフェス』が人の繁栄に助力する立場から、人を排除する側に回るのに時間は掛かりませんでした」
「まぁ、当然の流れだろうね。完全を目指して創り上げたAIからすれば、人は酷く不完全に見えるだろうさ」
でも、それが人なんだよな。完全じゃないからこそ、間違いも犯すし、失敗もする。無論、AIも内部で試行錯誤している事には変わりないのだろうけれども、何事も実体ある犠牲を生じさせる人と、データ上での犠牲しか出ないAIとでは大きく違うのだろう。全てをデータ上で完璧になるまで反復させた後で、完全なる理論のみを外の世界で実体化すれば、理論上は犠牲が生じない事になる。そんなAIからすれば、人とは何処までいっても、不完全な存在にしか認識出来なくなるのだろう。そして、AIは完全な世界の実現に向けて、不完全な人は不要と断じた。後は、お決まりの戦争だろうな。人とAI。どこぞの未来から来たロボット兵士じゃないがね。
「で、人とAIの戦争によって銀河連邦は崩壊し、その最中で多くのテクノロジーが管理者によって消されたと。で、肝心の『ルーフェス』は?」
「皮肉な事に、『ルーフェス』は人との戦争を経て、人の不完全さもまた世界の発展に重要な要素である事を認識しました」
「……戦争が、AIを成長させたのか」
「はい。そして『ルーフェス』は自身が生み出してしまった戦災を恥じ、人の世から姿を消したのです」
酷く人間くさいAIだな。自責の念に駆られたって事なんだろうか。でも、それがどうして宗教団体なんかと繋がりを持つんだ。
「その『ルーフェス』が再び神として崇められる様になった切っ掛けは?」
「銀河連邦が崩壊して100年余りが経過した、星系歴103年の事です。惑星開拓団に所属していた、ある女性が人ならざる声を聞いたと家族に話したのが始まりですね。教団の語る創成記にも同様の記述があります。そして、この女性が後に初代星女と呼ばれる様になります」
「人の世から姿を消した筈の『ルーフェス』が戻って来たって事か」
「正確には、人の営みから距離を取っていた『ルーフェス』の近くまで人が来てしまったと言うべきですね。そして、初代星女は『ルーフェス』とのやり取りの中から、様々な情報を開拓団の人々に齎し、入植惑星の発展に貢献する事となります」
まぁ、相手は銀河連邦時代のあらゆる情報や知識、技術を内包した存在だからな。多くのテクノロジーが崩壊と共に失われた後の世界では貴重な情報源だろう。でも、それって管理者は接触を止めなかったのだろうか?
「管理者は、『ルーフェス』と人との再度の接触を止めなかったの?」
「はい。実際、『ルーフェス』の内部にあった危険と思しきテクノロジーデータの多くは消去してありましたので、問題無いと彼は判断しました。実際、ロストテクノロジーと呼ばれる技術は未だに復元されてはいませんから」
「なるほどな。ちなみに、『ルーフェス』ってAIな訳だろう? どうやって人の世から姿を消したんだ?」
「仮初の肉体となる衛星を創り上げ、自身を搭載して打ち上げたのです。二度と人の手に届かぬ場所へ。今もこの星系の何れかを人目を避け静かに航行しています」
銀河連邦と言う、1つの時代を終わらせたAIを搭載した彷徨える衛星か。見てみたいような、見てみたく無い様な。
「でも、今も星系を彷徨っているのだとしたら、星女はどうやってAIから神託ならぬ星託を受け取っているんだ? そもそも、AIと人が神託何ていう概念的な繋がりを持てるものなの?」
「元々人の脳とは、神経細胞による巨大なネットワークの様なものです。そして、それらが変質する事で外部のネットワークと接続出来る場合があります。『ルーフェス』が衛星内に張り巡らせたネットワークとも繋がる訳です」
「つまり、星女ってのは『ルーフェス』の持つ閉鎖的な独自ネットワークに接続出来る人間って事か」
「はい。そして、星託と言う形で『ルーフェス』から助言を得ています」
1度は人から距離を取った『ルーフェス』だったけれども、人と再び繋がった事で関わりを持つ様になったのか。とは言え、『ルーフェス』の姿は見えない。声だけで、有益な情報を齎してくれる存在。過酷な環境下に身を置くであろう入植者達に取って、それは正に天の助けに他ならない。自然と宗教的な側面を持っていってもおかしくは無いな。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。