2-30:要塞は我が家です③
何だかんだ、1章を超える長さになるのは確定した今日この頃。話が進まなくて、スマナイ。
はい、帰って来ましたランドロッサ要塞! コンラッドコロニーからの帰路、宙賊と仲良く戦争ごっこする様な事は無かった。まぁ、コロニーを出てから暫くは宙賊と思しき連中の追尾を受けてはいたけどね。でも、数時間程でコロニーの方へと帰って行ったので、追尾してきた目的に関しては不明。
「いや~、やっぱ我が家は良いわ!」
以前もその様な事を言った気もするが、許して欲しい。数か月とは言え、毎日寝起きしているこの要塞は最早第二の故郷と言っても過言では無いのだから。それに、どうしても要塞の外ってのはアウェーだからね。ディーシー号は要塞に次いで落ち着ける所ではあるのだけれども、やはり要塞の安心感には一歩劣るのは否めない。
「それで、一馬様。お話とは何ですの?」
「あぁ。今後の方針に付いて、2人のアドバイスが欲しくてね?」
「お任せ下さいですわ」
「同じく。お任せ下さい」
要塞に帰ってきて、軽く昼食を済ませた後で何時ものメンバーで密談と相成った。まずは、このメンバーで方針を固めておきたいのだ。前回はアイザフ大佐やクロシバ、ナターシャ嬢も加えていたけれどね、色々と状況が変わってきたので、先ずは最も信頼出来るメンバーで話をしておきたい。
「先ずは、状況確認からだな。シャンインに頼んておいた建造の状況はどうかな?」
「現時点で、カンターク級巡洋艦(電子戦型)とウェクスフォード級駆逐艦がそれぞれ2隻ずつ建造完了しましたわ。今は更に2隻のウェクスフォード級駆逐艦を建造中ですの」
オルガ支部長との会談中に考えていた事を、ディーシー号からシャンインに隠匿回線経由で依頼しておいた。流石に艦艇の建造には時間が掛かるからな。しかも、今回は今までの様なチビチビとした建造では無く、連続して行う事になる。時間を無駄にしない様に手配は必須だった。
「順調だね。残りの6隻中2隻は通常のままで建造。残り4隻は派生型の簡易補給型で建造するから」
「補給艦は確か2隻を追加建造でしたか?」
「そう、都合4隻体制にする。2隻は前線に艦隊と共に配備。残り2隻は護衛を付けて要塞と前線との推進剤輸送を行わせる予定」
「それでしたら、此方からの輸送と平行して利用出来る様に、宙賊達の拠点を接収して利用しては如何でしょうか? 彼らの拠点には推進剤の原料となる氷がありますし、簡易式ながら生産プラントもあります。後は簡単な修理程度なら出来る設備もあるかと。要塞との往復を主体にした場合、戦場想定宙域との距離的な制約が大きいですし、輸送にも時間が掛かりますので」
なるほど。確かに考えてみると現地調達出来るのならば、それに越した事は無いよな。どの程度の量を確保出来るかは不明だけれども、悪く無いアイディアだ。宙賊と言う主人達の居なくなった拠点を、我々で有効活用するだけだしさ。前線である程度の推進剤を確保出来れば、此方から移送する回数や量は減らせる。場合によっては、補給艦を1隻予備に回しておける安心感も大きいな。実際、要塞からコンラッドコロニーの周辺宙域まで、補給艦の脚だと片道で丸3日の時間が掛かる。向こうでの補給艦同士の推進剤移送を行って再び帰路で丸3日。実質、1度の補給で1週間は時間を見て置く必要があるだろう。それが少しでも減らせるメリットは大きい。修理拠点としては艦のサイズ差から考えると、気持ち程度に考えておいた方が良さそうだ。
「シャンインが鹵獲した宙賊艦から情報は?」
「バッチリでしたわ。各宙賊達の主要な拠点から、艦艇数や人員配置など、主要な情報は抜き出したましたわ。ただ、その後で彼らのネットワークから締め出されましたけど……」
「向こうが、鹵獲に気が付いたか」
「恐らく、そうだと思いますわ。元々、独自のネットワークですから切り離しも簡単ですの」
「まぁ、欲しい情報を得られただけ儲けものだよ。ご苦労様、シャンイン」
ソフィーのアイディアを活かす情報は手に入った。なら、リスクを背負っての鹵獲行為は決して無駄にはならなかって事だ。後は、これをちゃんと活用していけば良い。向こうも警戒はするだろうが、拠点をそう簡単に他の場所に移すってのは無理だろうしな。
「よし、ソフィーの提案を採用して現地に簡易補給基地を設けるとしよう。シャンイン率いる宙賊艦隊の拠点としても使えるのがありがたい。現地の警備用に戦闘アンドロイドを増備出来るかな?」
「元々、要塞内の人員増加に伴う増備を準備していましたので、直ぐにでも可能です」
「よし、早速取り掛かって貰えるかな?」
「了解しました」
早速、手配を開始するソフィー。後は、教団からの情報分析と、共和国方面の情報だな。
「シャンイン。教団から情報は来た?」
「まだですわ。サントスさんにも確認しましたが、特に何も無いとの事ですの」
「オルガ支部長辺りが止めているかもね……」
「催促しますか?」
「いや、そっちは教団を信じて暫く待とうか。その間、此方は戦力の拡充と対共和国を想定した情報収集を行う。そして、……どうにかして星女を救い出してやりたい」
……星女を救うか。大言を放ってはみたものの、四方が丸く収める妙案ってのは中々浮かんでは来ないものだ。彼女の様子からして、星女の役割を宙賊をしているお姉さんに押し付けるのは無理そうだし、かと言って教団が自主的に星女を退任させて後任を選ぶとも思えない。むしろ、後任者も彼女同様の被害者になるかもしれないしな。星女と言う制度そのものを廃止させる方向しかないか? でも、それって教団の仕組みを大きく変える必要があるよな……。何れにせよ、一筋縄ではいかない事だけは確かだ。
「一馬様。星女に関してご報告がありますの」
「何か見つかった?」
「AIと共に教団のネットワーク内に存在する内部資料を再度洗い直した中で、有益そうな資料を見つけましたわ」
「へぇ? 使えそう?」
「えぇ。かなり古い物で解読に時間が掛かりましたが、その価値はあったと思いますわ」
何だろうか? シャンインの表情からするに、悪い情報では無さそうだ。解読に時間が掛かるって事は、過去の星託に関係するものかもしれないな。今回の件の大きな手助けになってくれる情報だとありがたいが、果たして……。
「彼らが信奉する主神『ルーフェス』は、150年も前に星女を廃する旨を星託にしていましたわ。でも、未だに星女は担ぎ上げられ続けていますの。一馬様がオルガ支部長からお聞きになった、次代の星女を告げる星託が下りない事が過去に幾度もあったというのは、もしかすると主神『ルーフェス』から彼らへの再三に渡るメッセージなのかもしれませんわ」
「それは……」
それが事実なのだとしたら、既に教団は主神『ルーフェス』からの信を失っている様なものだろう。彼らのやっている事は、言わば信奉する神への反逆に等しい。そこまでして、星女に何故拘る必要がある? 長き歴史によって凝り固まってしまった教団としての形が、制御不能になって暴走しているとでも言うのだろうか……。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。