1-7:予期せぬ遭遇①
色々設定考えるのが楽しくて、話が進まない罠。
昼食後の食休み。自室のベッドに横になりウトウトと微睡んでいた所に、ソフィーからの通信が飛び込んできた。
「香月司令官。お休みのところを申し訳ございませんが、司令室までお越し下さい」
「あー、りょうかーい」
寝ぼけ眼でいまいちシャキッとしないながらも、司令室へと顔を出す。既に司令室で待機していた彼女の表情を見るに、何か予期せぬトラブルでも発生したのだろうか?
「お待たせ。どうかした?」
「第1分艦隊が撤退を開始しました」
「……撤退条件って、非友好戦力との邂逅だったよね?」
「はい。この要塞から500万㎞程の場所で所属不明艦1隻と偶発的にコンタクトし、その後で艦隊は事前設定条件に従い即時撤退を開始しました。なお、撤退コースはAIの判断の下で複数ある欺瞞ルートの中から設定済みです。所属不明艦は追尾はして来なかった模様です」
「了解。コンタクトってのは、何らかの呼びかけなり攻撃が有ったって事か?」
「記録を見る限り、無警告での艦砲射撃だったようです。2隻とも即時回避行動を取りましたので、損傷は有りません」
「……行き成り撃つってのは随分と乱暴だよな。偶発的って事は、此方は感知出来て無かったのか」
「どうやら、相手艦はレーダーの効き難い小規模なデブリ帯に潜んでいたようです」
計画的な待ち伏せって事か? それとも、この要塞の存在が何らかの事由から疑われて、何れかの勢力が調査に来た可能性も有り得るか? でも、それなら1隻ってのが引っ掛かるな。1対2で仕掛けるって事は、余程自信が有ったのだろうか? 或いは、他の艦艇が到着するまでの時間稼ぎか……。
「ソフィー。今更だけど、アスローン級駆逐艦って他の勢力で配備されている駆逐艦と比べて、戦力としてはどうなのかな?」
「アスローン級駆逐艦は、かつてこのフォルトリア星系に存在していた銀河連邦軍が保有していた駆逐艦になります。現状の、3大勢力の主力駆逐艦と比較して……。そうですね、1対10でも負けないと思います。流石に勝てるとまでは言いませんが」
「へぇ、銀河連邦なんて有ったんだ。もしかして、失われたワープ航法とかを持っていたのがその銀河連邦?」
「そうです。銀河連邦の崩壊と共に、多くのテクノロジーが消されました。現在の3大勢力を含め、連邦崩壊後に台頭してきた何れの勢力も復元を試みていますが、未だ成功した勢力は有りません」
ん? 失われたでは無く、消された? 誰かが故意に技術伝承を阻害した様な言い方だな。
「もしかして、管理者ってのがテクノロジーを消したのか?」
「……ご明察通りです。行き過ぎたテクノロジーの発展に歯止めを掛ける為に、連邦が崩壊する中で管理者が一部の重要知識を人々から奪い去りました。ただ、そう言ったテクノロジーが有った事自体は無くなってはいません。今では連邦時代の多くのテクノロジーがロストテクノロジーと呼ばれ、各国が再現に向けた研究開発に勤しんでいます」
「テクノロジーを奪ったのに、それらの再現研究は許すってのは矛盾してないか? 将来的な争いの火種にもなるだろうに」
「香月司令官の懸念も最もです。ですが、その研究過程で生まれた派生技術は、人々の生活を豊かにしています。それらの副次的効果を管理者は重視しています」
「まぁ、軍事は科学の発展に貢献はするだろうけどさ」
戦争は、科学技術の発展を目覚ましく促進させる。人々の生活が豊かになるのも確かだろう。でも、何ていうか管理者のやっていることはチグハグな気がするな。やるなら、徹底的にやるべきだろうに。それとも、意図的にそうしているのか? そもそも、管理者と名乗る割に、世界に対して介入し過ぎじゃないだろうか。連邦崩壊時の介入もそうだし、俺をこの世界に呼んだ事もそうだし。意図が読めないな。
「もし、当時の銀河連邦の一部テクノロジーを再現出来たら、管理者はまた介入するのか?」
「平和的に使われる分には黙認すると思います。以前もそうでしたから……」
要は、使い方次第って事か。包丁だって調理器具である反面、人の命を奪える凶器だからな。車なんかもそうだ。結局は、使い手次第。テクノロジーも同様か。
「まぁ、良いや。取り合えずは、第1分艦隊が遭遇した所属不明艦の方への対応を考えよう。帰投したらもう一度、出撃条件を変更して出すべきかな。そのままには出来ないだろうし」
「そうですね。次は戦闘を考慮しつつ、出来れば相手の所属を探りたいところです。何れかの勢力の所属艦だった場合、此処の存在が露呈した可能性が出てきます。そうなると、近いうちに何らかの追加戦力が送り込まれる可能性も考慮しなくてはならなくなります」
「幾ら10倍の敵を相手取れるとは言っても、予備戦力も無い現状じゃ数で潰されるだけだな。再出撃に加えて、追加で建造をした方が良さそうだな」
「係留エリアにはまだ余裕が有ります。資源の残量を確認した上で、何隻か追加で建造しては如何でしょうか?」
考えたら、建造には資源が必要なんだよな。金属とか非金属は管理者から定期的に送られて来ると言っていたから、計画的な建造が求められるか。駆逐艦以外の艦艇も建造したいしな。SPを消費して開発ツリーを先に進めるのも有りか。
「えっと、資源の量は要塞の項目で良いのかな?」
「はい。要塞の項目を開いて頂くと、資源と言う項目が有りますので、そこで確認が出来ます」
「資源と……」
金属15,000t 非金属4,000t 推進剤3,900ℓ(+500ℓ/日) 弾薬1,260t
実に、シンプルで分かりやすい。
「建造前の時点で、管理者より金属2万t、非金属5千t、推進剤5千ℓ、弾薬1,500tが提供されています。アスローン級駆逐艦は1隻辺り建造に金属2,500t、非金属250tを使用します。また推進剤は満載で800ℓ、弾薬は120tを搭載します」
「同じ駆逐艦なら、追加建造は4隻が限度か。搭載する推進剤ってのは、一度の補給でどの程度の距離を航行出来る?」
「そうですね。メインエンジンで一定速度まで加速してしまえば、後は慣性に従って航行しますので、推進剤の消費はエンジンを起動している間のみです。加減速、旋回などでメインエンジンや制御スラスターを使用した回数や時間によって、航行出来る距離は大きく変わりますね」
「なるほど。今回みたいな偵察任務で丸1日航行したからといって、推進剤を全部使い切るって事は無いって認識で良い?」
「何らかのトラブルが発生しない限り、相当量が艦艇には残ると思います」
「戦闘だと、消費が激しくなるって事か」
「そうなりますね」
次の出撃は戦闘になる可能性が高い。そうなると、推進剤と弾薬の消費は相応の物と考えた方が良さそうだ。推進剤は要塞内で生産されているからまだしも、弾薬は管理者からの供給だからな。出来るだけ、節約しながら戦わないと……。出撃した駆逐艦が撃沈でもされたら、目も当てられないな。
「香月司令官。どうされますか? 駆逐艦を追加で建造されますか?」
「んー。念のために昨日と同様に2隻建造しておこう。それに加えて艦艇の開発ツリーを先に進めて巡洋艦の建造を可能にしておきたいかな」
「良い判断だと思います。後は、兵器を生産して要塞の守備隊として配備するのも宜しいかと」
「そう言えば、守備隊ってのが有ったね。艦隊が出撃している間、無防備になるのは拙いか」
別動隊が居て、第1分艦隊が出て戦力ガタ落ちのタイミングを狙われたら洒落にならん。まぁ、実際には今もその状況なんだけどな。ソフィーもまさか初回でそうなるとは思いもよらなかったのだろう。取り合えず、次からは俺が慎重に判断をしないとな。
あぁ、緊張感が増してきたせいか余計に温かいベッドが恋しくなってきた。せめてもう少し横になって休みたかったなぁ。今夜は早く寝よう。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。