2-28:バイセル・オルガ支部長②
ま、まだオッサン同士が続く。
双子姉妹2人とも星女として不適格か。教団の資料では、2人共が主神『ルーフェス』からの星託を授かる才を持っていたとある。星託の解読が難航し、双子の何方かまでしか絞れなかった。その後、色々とあって、結果としてパメラ嬢が選ばれた。でも、支部長の言う事が事実だとしたら、その大前提が崩れる可能性が出て来た訳だよな。何故、不適格な彼女が今代の星女に選ばれたのか?
「信じられんという表情だな……」
「……」
「まぁ、それが普通の者の反応だろうな……」
支部長の話が事実だとした場合、原因は何処にある? まずは、教団による星託の解読が間違っていた可能性だな。それが偶然、星託を授かれる才を持つ双子姉妹に当て嵌まってしまった。でも、それは星託を授かれる人物が他にも居るって事になるよな。
「……星託を授かる才ってのは、複数の人に宿る物なんですか?」
「過去に、星女以外にも才を持つ者が見つかった例は多数ある。ただ、教団により星女に選ばれた後の調整が行われない限り、実際に主神『ルーフェス』からの星託を授かる事は無い」
「なるほど」
星託ってある意味で電波みたいな物なのか? 教団で特定の電波を受信できる様に調整される事で、星託を受託出来ると。つまり、授かる才を持つ女性なら星託による指名が無くても星女には出来る訳だ。彼女達が不適格と言うのは、本来ならば星託に選ばれていなかった事を意味するのか? でも、そうなると何故その様な事態になったかだな。教団が何を考えて、星託で指名されていない双子を候補に選出した上で、妹を星女に仕立て上げたのか。そもそも、星託は本当にあったのかすら怪しくなってくるな。
「オルガ支部長。前代の星女の時代に、次代の星女を示す星託は本当にあったのですか?」
「……」
おいおい、返答は沈黙かよ。しかし、その沈黙は事実を雄弁に語っているとも言えるな。此処までの支部長の語る内容が全て事実であるという前提にはなるが、教団はとんでもない事案を自ら作り出した事になる。でも、やはり理由が分からないよな。本来、星女ってのは教団及び教徒と主神『ルーフェス』を結ぶ橋渡しの役割を果たす重要な存在だ。今回の場合は、その存在を教団側の一存で選出したって事になる。教団が、神に成り代わったと言えなくもない。流石に、それは不味いんじゃないか? 神への背信行為と取られかねないだろう。
「星託が無かったのだとしたら、どうして彼女が星女に? 星託を授かる才を持つかどうか、調べる方法でも?」
「……方法はある」
「なるほど。それで、星女に仕立て上げる女性を探した訳ですか……」
「これまでにも何度か、次代を告げる星託を主神『ルーフェス』から受けられない星女がいたのだ」
「前代の星女もそうだったと。それで、慣例に倣って才を持つ女性を探した」
「そうだ」
支部長の話を聞いていると疑問が湧いてくる。主神『ルーフェス』に取って、自身が選んだ星女も教団が選んだ星女も意味合いは変わらないのだろうか。あるいは、そもそも星女が誰でも良いとか? だとしたら、星女って何なんだだろうな……。
「主神『ルーフェス』に取っても、教団に取っても、星託が受けられる人間でさえあれば誰でも良い訳ですね」
「……それは」
「事実じゃないですか。主神『ルーフェス』は自身が選んだ星女であろうと無かろうと、星託を授けるのでしょう? それでいて、理由は不明だが次代の星女を指名しない時もある。随分と身勝手な神だ」
「……」
教団関係者の前で彼らが信ずる神を批判するってのは、どうかと思うが言葉が出てしまうから仕方が無い。主神『ルーフェス』と教団の双方に、パメラ嬢は弄ばれたとも言える。まぁ、家族の元にそのまま居たとしても、今より良い人生を送れたかは不明だ。少なくとも、両親が居なくならない限り、彼女を取り囲む環境は変わらないだろうからな。
「……まぁ、今はその辺は置いておきましょう。それで、そもそも今日此処へ来られた理由をお聞きしても? まさか、私が星女について何処まで知ったのか、ただ探りを入れに来た訳じゃないですよね?」
「……それを確かめる意味は確かにあった。相当、優秀な諜報部門を持っている様だ」
「まぁ、ご想像にお任せしますよ」
管理AIによる情報収集は反則レベルだからな。教団が独自のネットワークで管理している情報なんぞ、片手間レベルの時間で根こそぎ拾い集められる。まぁ、管理AIの助けが無かったら、星女の一件に付いて気が付く事も無かったけどな。これも、不幸中の幸いって言うのだろうか?
「それで、本当の理由は?」
「君達、いや、君の本当の狙いが知りたい」
「本当の狙いとは?」
「……宙賊をこの宙域から、ただ排除したい訳では無いのだろう?」
あぁ、なるほど。そっちの目的が知りたいと……。まぁ、オルガ支部長はガルメデアのスキンヘッド紳士とも懇意の様だし、教団が持つネットワークは星系中に広がっている。各方面からの情報を繋ぎ合わせて行けば、今、この辺境で起こり始めている事に薄々とは思い至るかもしれいないな。で、それを直に確かめに来たと。でも、それを親切に教える必要性は無い。
「我々の行動に邪魔な宙賊を排除する。それが目的ですよ。それ以上も以下も無い」
「そうか。それで、その後はどうする?」
「これは異な事を聞かれる。コンラッドからガルメデア方面の安定化こそ、我々の目的。それで終わりですよ?」
「……その先へと進まぬと?」
「あぁ。他の教団お膝元のコロニーへは赴きますよ? 安全な通商航路の拡充は、民間防衛組織である我々に取っても大きなビジネスチャンスですからね」
「……」
教団のお膝元である、第8コロニー『コンラッド』、第11コロニー『サリッサ』、第13コロニー『メルフィス』、そして星女ことパルメ嬢が普段暮らしている第10コロニー『シャングリラ』。何れのコロニーも今後ランドロッサ要塞からガルメデアを経由して、物資を輸出する先として重要になるだろう。ガルメデア相手だけじゃ利益は早々上がらないからな。それに、ガルメデアとしても経由地になる事で懐が多少は潤う。直接これらのコロニーと取引をしないのは、スキンヘッド紳士にエサをやる為だ。今は大人しくしているが、将来的に余計な事をしないとも限らない。だから、エサを与えてやる必要がある。無論、欲をかいたら相応の対処はするがな。
「それだけの目的の為に、正規軍の艦隊を一方的に叩けるだけの戦力を保有していると?」
「それが弊社の売りです。誰だって、安心して任せられる護衛を欲するでしょう?」
「あくまでも、商売の為だと?」
「全ては、我々の利益の為ですよ……」
通商航路の確保も、邪魔をする宙賊の排除も全ては我々の将来的な利益となる。故に、何1つとして嘘は言っていない。結果的に、フォラフ自治国家への侵攻ルートを手にするだけだしな。えっ? 元々はそれが目的だろうって? 確かにね。でもそれを彼に説明する必要は無いからな。オッサン、事実しか言っておりません!
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。