2-27:バイセル・オルガ支部長①
コロニーからまだ帰れないの巻。
「オルガ支部長が?」
「はい。一馬さんと個人的に話がしたいとロビーに来ているそうです」
「昨日の今日で何だろうな……。わざわざ情報を渡しに来るとは思えないし」
「どうされますか?」
翌朝、朝食を終えて部屋に戻ったらフロントから連絡があり、対応に出たソフィーによると来客が来たそうだ。しかも、その人物は昨日会ったばかりのオルガ支部長。昨日の会談の中で出た宙賊情報ならば、スキンヘッド紳士を通して貰う手筈になっていた筈だが。予定より早く準備が出来て渡しに来るにせよ、支部長自らが出向く必要などない。となると、別件だろうか?
「取り合えず、客室係に頼んで部屋まで案内して来て貰おうか。ロビーじゃ、人の目があるからね」
「了解しました。その様に伝えます」
ソフィーとフロントとのやり取りを聞き流しつつ、状況を整理を試みる。来客はバイセル・オルガ支部長。此処、コンラッドコロニーにあるパルメニア教団のコンラッド支部を預かる立場の人間。おいそれと、1人歩き出来る立場だとは思えない。となると、他に誰か同行者でも居るのか? でも、オッサンと個人的に話がしたいって言っている以上は、それは考え難いな。サントス氏経由では渡せない情報があるとか? まぁ、向こうは大物犯罪者だしな。教団の闇とも言える情報を流す危険性はあるだろう。でも、昨日はそれを了承した訳だし、今更になって止めますってのも変だ。それなら、あの場でそう説明すれば良いだけだしな。理由を説明されれば、此方だって嫌だとは言わない。
「一馬さん。数分で来るとの事です」
「ありがとう。取り合えず、お茶の準備をお願い出来るかな?」
「了解しました」
来客になる訳だし、お茶の用意位はしておかないとね。持て成す気ありませんって事になってしまう。はてさて、どの様な要件だろうね?
「香月さん。朝早くから、押し掛けてしまい申し訳ございません」
「いえ、特に予定もありませんでしたので、お気になさらずに」
「ありがとうございます。それで、今日来た理由なのですが……」
そこで、チラリと俺の背後にいるソフィーとクロシバに視線を送るオルガ支部長。どうやら、2人には聞かせたく無い話の様だ。どうせ、後でオッサンから話をするから隠したって無駄だとは思うんだけどね。でも、此処は彼の顔を立てるとしよう。
「ソフィー、クロシバ。悪いけど、席を外してくれないか?」
「分かりました」
「承知した」
「ありがとう」
一礼して部屋を出る2人。その様子を見送った支部長は、此方へ振り替えると表情を変えた。それまで浮かべていた穏やかさが消え去り、雰囲気も一変する。へぇ、そんな表情も出来るのか。まぁ、支部長って立場である以上、そういった場合もある得るか。
「穏やかではありませんね? 何か問題でも?」
「彼女について、何処まで知っている?」
「彼女……。あぁ、星女様ですか?」
「……」
「無言は肯定と取りますよ?」
最初から、穏やかじゃないな。今の支部長が纏っている雰囲気は、非常にピリピリとしているものだ。昨日の星女との一件で、何か彼の不興を買う事でもあった様だ。まぁ、支部長と言う立場上、彼女の事も色々と知っていてもおかしくは無いが。それを、教団外部のオッサンが知っている可能性に思い至り、わざわざ朝から探りを入れに来たと? まぁ、確かに教団を揺さぶるネタと言えば、見方によってはそうなるか。
「手持ちの情報が多いに越した事はありませんからね。無論、それで教団に対してどうこうって考えはありませんよ」
「それは、彼女に対してもか?」
「……その質問に答える前に、貴方の立ち位置を教えて貰えませんか?」
「……」
彼は何をそんなにも気にしているのか。教団か、星女か。或いは自身の保身か? それらの方向性がハッキリとしない限り、此方としては動きようが無い。単身で乗り込んできたのは、自身の考えか或いは誰かの差し金か。それすらも不明な以上、これ以上の会話は無毛だよな。
「お答え頂けないのであれば、お引き取り下さい。我々も暇じゃない。お出口は彼方ですよ?」
「……他言無用を誓えるか?」
「無理ですね。最低2人には話します。私1人で出来る事なんぞ高が知れていますからね?」
「……」
クロシバやアイザフ大佐ならまだしも、ソフィーやシャンインにまで秘密となると、いざって時に助力を求められ無いからな。適当な嘘を付いた所で、彼女達ならば立ち所に見抜いて追及されるのが目に見ている。ならば、最初から情報を共有してしまった方が早い。
「其方には其方の都合があるように、此方にも此方の都合があるんですよ。それすら嫌だと言うならば、此方としては何も出来ないし、する気も無い。ボールは先ほどからずっと其方ですよ?」
「……彼女が星女に選ばれた経緯は知っているか?」
「……調べられる範囲で」
「ならば、彼女が本来は不適格者だった事は?」
「不適格者ですか……」
教団の資料を読み解く限り、姉妹の何れも星託の才があった。でも、どちらとも断定出来ず、最初は血統上位者の姉を教団は望んだが、両親が拒否した。教団は止む無く妹を星女へと選出して今日に至る。彼女が不適格者なのだとしたら、やはり姉の方が星女になるべきだったという事を支部長は言いたいのだろうか? 未だに彼の立ち位置が曖昧なのが気になるが、今は話に乗った方が良い気がする。
「それは、双子のお姉さんが星女になるべきだったという事ですか?」
「そこまで知っていたか。だが、私が言っている意味は別にある」
「……その言い方だと、あの姉妹がそもそも星女候補として、どちらも不適格だったって話になりませんか?」
「……その通りだ」
「……」
その返答に、思わず腕を組んで天井を見上げる。……ため息が出る。はい、そうですかと鵜呑みには出来ない情報だが、もし事実だとしたら厄介過ぎるネタだな。現役の星女も、彼女と共に候補に選出された双子の姉も星女として不適格者だった? 前代の星女が星託を受けて、彼女達が選ばれたはずだよな? いや、正確には前代の星女から齎された星託を、教団が解読した結果によるものだな。もし、支部長が言う様に彼女達が不適格だったのだとしたら、その理由は何だ? オッサンの頭がフル回転を始めた。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。