2-25:君の
もう少しだけシリアスちっくなの我慢して。
激昂し、心の奥底から叫ぶ星女様。髪を掻き乱し、歯を剥き出しに俺を睨み付ける。漸く、彼女の内面が表に出て来たな。ただ、首を絞めるのは止めて欲しいかな? 若い女の子に窒息プレイされて興奮する趣味は無いのよ。
「お前に何が分かる!? 両親にとって、私は何時も予備だった! 何事も姉が全て! 何時だって私は影だった! ろくに愛された覚えも無い! 宙賊の部下達だって、腫れ物に触れる様な扱いだった! 私が何をしたって言うのだ!? ただ、ほんの少しだけこの世に生を受けるのが遅かっただけで! それは罪か!? 私は、大罪を犯した罪人か!? 」
「お、落ち、着け……」
「あの日、あのクソ親父は言ったのさ! お前にも役割が出来たってな! 姉を手放さないで済むって! 予備がやっと役に立ったってな!」
「……」
物凄く、首が締まってます。でも、彼女の心の奥底からの慟哭を吐き出させるには耐えるしかない。首絞め耐性とかって何処かにありませんかね? いや、本当にそんなに持ちませんよ?
「教団に生活の場を移してからも同じだった! 私の人生は何も変わらなかった! 星託が上手く聞こえなければ、馬鹿にされ、貶される! 事情を知っている連中に姉の方だったら良かったのにと、何度言われた事か! 血統下位者だから! 姉のスペアだから! 私は何時も! 姉の代用品よ!」
「つ、辛かっ……」
「誰も、私を見てくれない! 私は此処に居るのに! 誰も私を見ない! 何時も、姉を通してしか私を認識しない!! 私が、この世界に生まれた意味は何だって言うのよ!?」
「お、落ち……」
いや、本当に落ちそうなんですが……。彼女の溜まりに溜まった魂の慟哭が止めなく溢れ出てくる。声を荒げ、顔を拉げ、涙を流し、それでも叫び続ける彼女。取り合えず、少し落ち着いてくれ。
「だから、望んだ! 全てが終わる日の到来を! 何もかもぶっ壊して、全てを終わらせてくれる日が来る事を! そうすれば、私は解放される! こんな価値の無い人生から解放されるのよ!! もう……、終わらせてよ! 誰でも良いから! 私を殺して!! アンタでも良いわ! お願いだから、私を殺してよ!?」
「……」
もう、彼女の言い分は支離滅裂になってきているな。死んで解放なんぞ、無意味だ。死は終わりであって、何かから解き放たれる訳では無い。死んでしまったら、永遠に囚われるのだ。永久に其処に閉じ込められる。解放を望むならば、立ち向かわなければならない。自分を苦しめる原因と、対峙して勝たなくてはならないのだ。そうしなければ、永遠に苦しみから解放されない。
「何とか言いなさいよ! 宙賊ぶっ潰すんでしょ!? だったら、ついでに私も殺しなさいよ!」
「ちょ、ちょっ、ま」
俺の首を絞めている彼女の両腕をどうにか力尽くで抑え込み、解放させる。あぁ、新鮮な酸素が上手い。いや、今はそんなボケをしている暇無いな。些か、強引にだが彼女をソファーに座り直させ、更に暴れない様に両肩に手を置き1度抑え付ける。で、それからとっておきをお見舞い。
「落ち着け!」
「なっ……!?」
バチンっと良い音が室内に響き渡る。赤くなった左頬に手をやりながら、茫然と俺を見上げる彼女。やっぱ、平手打ちは正気に戻すには最適の手段だわ。そこ、暴力とか言わない。これは愛のムチです、愛無いけど。つまり暴力(以下ループ
「死んだって何も変わらないだろ。そのまま負け犬として皆から記憶されるだけだ」
「……なら、どうしろって言うのよ」
「そんなの、君が嫌うもの全てに立ち向かうしか無いだろ?」
「はっ? アンタ馬鹿? 自分で何を言っているのか分かっている訳!?」
「勿論、難しいって事は理解しているさ。でも、今のままなら君は何れ最悪の結末を迎えるだけだ。それを、君は望むのか? 今からでも、自分だけの人生を取り戻そうとは思わないか?」
「そんな事、簡単に言わないで……!」
勿論、俺が言っている事は所詮は赤の他人が好き勝手に喚くだけの綺麗事に過ぎない。彼女自身だって、これまで何度も自分自身を取り戻そうと苦心した筈だ。少なくとも、全てを諦めた様な目は決してしていないからな。どちらかと言えば、執念深くチャンスを待ち続けている肉食動物の様だろう。どれだけ空腹でも、飢えに苦しもうと、確実に獲物を得られるチャンスを待ち続けている様な、そんな感覚すら彼女からは感じる。まぁ、全ては俺の勘違いかもしれないがね。他人の機微なんぞ完璧に理解するのは不可能だから。
「少なくとも、宙賊の方は直ぐに片づけられると思うよ? 君の実家を過激派として掃討してしまえば良いだけだしね」
「ウチの実家は、教団と繋がっているわ。長い付き合いだから、ズブズブの関係。それを潰したら教団が黙ってはいないわよ?」
「でも、他に利益を齎す宙賊が出て来れば、話は違うだろ?」
「……アンタ、ウチの家業を乗っ取る心算?」
「いや、潰して別ので置き換えるだけだよ」
「……」
シャンイン率いる伝統派を、彼女の実家である中二病な宙賊の代替として教団に近づけさせれば良い。教団に取って重要なのは、特定の宙賊と言うよりかは自分達の利益に繋がる使い易い宙賊だろうからな。より多くの利益を齎す宙賊が出現すれば、靡くヤツは少なくないだろう。勿論、昔からの付き合いを維持したい連中もいるだろうが、潰してしまえばその付き合いが物理的に消滅する。
「過激派は繋がっている教団関係者と一緒に纏めて潰せば良い。君の実家は潰した後で、此方が用意する宙賊を勢力圏へとスライドさせる。金蔓を失った教団関係者は、何れ靡くだろうな。金の為に宙賊と繋がっている連中だ、背に腹は代えられないさ」
「……」
「で、適当なタイミングで梯子を蹴り飛ばし、証拠の数々と共にそいつ等も始末する。出来れば、君を侮辱して来た連中もこれに巻き込んで一緒に始末するとしよう。残りの、教団と繋がっていない穏健派宙賊は、自主的に廃業して貰うのがベストだろうな。抵抗するならば、宙域に対する脅威として排除。残るのは、俺の指揮下にある宙賊だけだ。これも将来的には民間の防衛組織へと改変して、宙域の安定化に努めさせる」
取り合えず、反応は薄いけれども無視とかはされていない様だ。こっちをジッと見ているし、頭の中で色々と考えているのだと思う。
「最後に君の処遇だけどさ。星女の役割を君のお姉さんに全部押し付けちゃえば良く無いか? 宙賊排除のドサクサに紛れて、お姉さん1人を確保する位は難しく無いと思う。で、君はお姉さんの代わりに自由を手にすると。例え、お姉さんがどうこう喚こうと、教団は君を探さないだろうさ。だって、本当はお姉さんの方が欲しかったんだから。拒絶していたご両親が居なくなれば、後は教団の思うがままだろうね。ま、ざっと今考えた青写真はこんな感じかな?」
「……アンタ、そんな事が本当に上手く行くと思っている訳?」
「さぁ? でも、やらないで現状に嘆いているよりかはマシだろ?」
「……」
所詮は、全部素人の俺が考えた青写真に過ぎない。ソフィー辺りに聞かせれば、次から次へと欠如してる部分を指摘されるだろうさ。一思いにバッサリと切り捨てられるかもしれない。それでも、何もしないよりマシだと思う。彼女達に全部を任せて、俺はただ承認だけすれば良いのならば確かに楽だろう。でも、それでは意味が無い。新米司令官だろうと、考える事を止めては意味が無いからな。俺なりの価値を、彼女達に示さなければならない。さて、彼女の反応はどうだろうか?
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。