2-14:方針会議②
方針会議はこれにて閉幕。
天井と睨めっこして、どれくらいの時間が経過しただろうか? 思考がグルグルと高速で回転していたが、漸く落ち着いた。まぁ、悩んだ割に大した答えが出た訳じゃないけどな。結局のところ、オッサンには他人の心なんぞ読めないのよ。だから、星女が何かを企んでいたとしても、実際に動きが起こるまでは何も出来ないんだよな。ナターシャさんが言っていたように、穏健派と偽って過激派と引き合わされたりしない限りはね。
だから、思い切って此方から星女を振り回してみようかと思う。向こうの予定に合わせて此方が動かされるのではなく、此方の都合で星女を動かす訳だな。何をするかって? 目には目を、歯には歯をの精神だよ。
「……シャンイン。君に頼みがあるんだけどね?」
「何なりとお申しつけ下さいな?」
「宙賊やってみない?」
「ふぇっ?」
「丁度、旧式の改アスローン級駆逐艦が沢山あるからさ? あの宙域で過激派にも穏健派にも属さない、第三勢力としての伝統派宙賊とでも名乗ろうか。此方に都合の良い勢力を作り出そうと思うんだよね」
宙賊には宙賊をぶつけるのが1番だよねって考えに思い至った訳だ。星女が過激派か穏健派の何れか、もしくは両方と繋がっていようとも関係ない。どうあっても彼女と繋がりが無い宙賊勢力を此方で用意してしまえば良いのだ。そして、その勢力こそあの宙域における古き良き伝統を継承する伝統派宙賊として、我々が大々的に持ち上げる。活動を邪魔をするならば、過激派だろうと穏健派だろうと、伝統派と手を組んだ民間防衛組織『ランドロッサ』が相手になる。盛大なマッチポンプなのは間違い無いが、星女のコントロール出来ない状況を作り出すには、これが1番手っ取り早い方法だろう。
「シャンイン率いる伝統派宙賊と、民間防衛組織『ランドロッサ』による盛大なマッチポンプだよ。星女が過激派と穏健派の何れか乃至両方と繋がっていようとも、伝統派とは絶対に繋がれないだろ? だって、今はまだ存在しない訳だからさ」
「ふむ。つまり香月君は、星女を盛大に振り回す事で企みを失敗させるか、或いは著しく変更せざるを得ない状況に追い込む心算か」
「現状で1番不味いのは、知らない内に彼女の企みに加担させられて、取り返しの付かない状況に追い込まれる事です。ならば、先に此方が彼女を振り回してしまう方が都合が良いじゃないですか? それに、彼女が何も企んでいないのならば、伝統派の宙賊誕生はむしろ喜ぶべき事でしょうしね」
星女である彼女が何も企んでいないとして、我々を前にあの時語った事が本心だとするならば、伝統派の宙賊が誕生する事を非難は出来ないだろう、だって、彼女自身があの宙域における必要悪としての古き良き宙賊を、必要だと認めているのだから。
「確かに、あの時の彼女は宙賊を必要悪として宙域に存続させたいと言っていました。ならば、それに見合った宙賊を此方で用意しても、彼女が表立って非難する事は出来ないですね。それをしてしまったら、実家を含めた穏健派も一緒くたに非難しなくてはならなくなる訳ですから」
「強引な手法ではあるけれども、星女の動きを縛るにはこれしか手段が無いかなと思う」
「香月殿。星女が紹介してくるであろう宙賊は如何する?」
「そっちは、基本的には理由を付けてのらりくらりと後回しにします。ぶっちゃけ、伝統派の宙賊が出来てしまえば、彼らとの繋がりの方が我々には都合が良いので。何と言っても、星女が欲する必要悪としての宙賊ですからね」
我々は独自に伝統派の宙賊と手を結ぶ。それを大々的に発表してしまえば、星女の仲介なんぞ最早意味が無くなる。彼女が何れの勢力と繋がっていようと、伝統派の前には両陣営とも討伐すべき宙賊として此方の判断で処理出来る。勿論、伝統派に参加したいと名乗りを上げる宙賊は歓迎するよ? 共に、必要悪としてあの宙域の安定化に貢献すると言うならば、此方としては文句が無いからな。
「シャンイン。宙賊は閉鎖的なネットワークを使用しているって話だったよね? なら、適当な宙賊を1隻鹵獲してしまえば、システムへ入り込む足掛かりにはなるかな?」
「えぇ。それならば、いけると思いますわ? 伝統派の宙賊として活動しつつ、適当に鹵獲すれば宜しいですね?」
「お願いするよ。シャンインの名代として、要塞内の戦闘アンドロイドを宙賊に仕立て上げれば良いな。そうすれば、万が一の場合の損害も減らせるからね。シャンイン自身は此処から指揮を取れば良いしね」
「了解ですわ。伝統派の宙賊、見事演じきってみせますの!」
シャンインの了承を得られた所で、改めて会議参加者達の方へと向き直る。此処まで駆け足で俺の意見を述べただけなので、オッサンとしては皆の反応を知りたい。
「アイザフ大佐はどう思います?」
「ふむ。事態を此方でコントロール出来る形に持っていくのは悪く無い手だと思う。後は、星女がそれでも自身の企みの為に動いた場合に如何に対処するかだな。自暴自棄になって暴走する可能性も無視は出来ないだろう?」
「そうですね。万が一、彼女が破滅的な思考に染まっていた場合は、相応の覚悟が必要になるかと思います。ただ、出来ればそうなる前に止めたいですけどね……」
星女の企みが何かは不明だ。もし、それが自身を含めた周囲の破滅を望む様なものだった場合、如何にして被害を抑えるか。正直、ベストな答えは無いだろう。でも、敢えて選ぶのならば……。
「最悪の場合、星女の排除でしょうね。勿論、その時は教団側の良識ある人間の協力が必須ですが……」
「……そうだな。彼女に何の企みも無い事を祈ろう」
「同感です」
出来るならば、星女の排除などしたくはない。彼女の存在はパルメニア教の信徒達において精神的な支えとなっている。そんな彼女が例え狂気に囚われていたとしても、何とか繋ぎ止めてやりたいと思うのだ。平和裏に次代へとバトンを渡せるだけでも良いな。勿論、最悪を想定しての準備だけはしておこう。
「クロシバはどう思う?」
「私も懸念はアイザフ大佐殿と同じだな。後は正直その時次第ではないだろうか? 適宜、関係者で細かく打ち合わせをして動くしかないと思う」
「確かに、それは必要だな。こういった機会を必要に応じてまた用意しよう。ちなみに、クロシバには俺と一緒に星女及び教団側との交渉乃至折衝役として付いてきて貰うから、頼むよ?」
「了解した。客将として恥じない働きをしてみせよう」
何だかんだで、ランドロッサ要塞の客将の立場に落ち着いたクロシバ。感情に敏感に反応して動く尻尾が何とも愛くるしいマスコット。フォラフ自治国家解放、そしてその後の対共和国戦に向けて活躍を期待する所ですな。勿論、裏切られる可能性は常に考慮せざるを得ないのが難点だけどね。互いに銃口を向け合う関係にならない事を願うよ。
「じゃ、当面の方針はこんな感じで進めるとしよう。何かあれば、その都度関係者で打ち合わせして調整をお願いするから。他に何かあるかな?」
「……特に無いようですね」
「よし、方針会議はこれで終了! お疲れ様でした、各自ゆっくりと休んで下さい」
内容が内容なので楽しい食事会とはいかなかったが、概ね道筋は見えたと思う。無論、適宜対応を求められる事は間違い無いが、それでも少しはやり易くなったのでは無かろうか。まぁ、オッサンの自画自賛だがね。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。