2-12:方針会議①
何やら、雲行きが?
7月29日午後6時。司令ブロックにある共用食堂で、食事会を兼ねた今後の方針決めをする場を設けた。参加するのは、俺、ソフィー、シャンイン、アイザフ大佐、ナターシャ嬢、マザルスさん、クロシバの総勢7人だ。流石にディーシー号の主要メンバーまで加えると人数が多くなってしまうので、アイザフ大佐から後ほど伝えて貰うようにお願いした。ナターシャ嬢とマザルスさんは参加者って言うよりかは、現在の状況を把握しておいてねって形だな。で、最初に全員に対して今回の一連の流れを掻い摘んで説明しておいた。当事者からすれば、再確認って感じかな。そして、これからが本番となる。
「さて、取り合えず星女からの依頼をどうするかって事ですかね?」
「私としては、メリットがある様に感じるが?」
「私も同感だな。何割かでも対処すべき宙賊が減らせるのなら、幾分かは楽になるだろう」
「アイザフ大佐、クロシバは賛成と……」
星女からの依頼。簡潔に言ってしまえば、過激派をぶっ飛ばして、教団関係者の腐敗の証拠を抑えて、教団と宙賊の双方を浄化するって事だわな。で、それに協力する見返りに、我々はあの宙域を安全に通行出来る訳だ。勿論、通行料などは必要無い。
「2人は、どう思う?」
「……情報の裏取りは必要ですが、聞いた限りでは手を組んでも良いかと思います」
「そうですわね。ただ、相手はフォルトリア星系最大の宗教団体ですわ。その辺の付き合い方だけは気を付けた方が宜しいかと思いますの」
「2人は、条件付き賛成と……」
ぶっちゃけ、多少の条件はあれど既に過半数の賛成が集まった訳だ。で、オッサンはどうかって? ん~、何か違和感を覚えるんだよな。要塞までの3日間。船内でウンウン唸りながら考えていたんだけど、何かまでは見えてこない。でも、これまでの人生経験から何かが引っ掛かっているのは間違い無いんだよ。それが分からなくて、困っている。
「司令官様はどうお考えですの?」
「んー」
何と答えれば良いだろう? 腕組みして天井に視線を向ける。私室と同じ無機質な灰色の天井。そこに暖色の間接照明が温かみを与えている。うん、良い雰囲気だよね。って、違う違う。星女の話を受けるかどうかって話だ。
「香月君は、何か気になる事でもあるのかな?」
「……上手く説明出来ないんですけどね? 俺はあの星女がどうも信用出来ないんですよ」
「それは、香月殿の直感かな?」
「直感……。確かに、そう言った感覚かもしれませんね」
「ふむ……。アイザフ殿は、星女から何か感じられたか?」
「そうだな。強いて何かを言うならば、香月君と話をしている時の彼女は僅かにだが強張っていた様な感じがしたな」
強張っていた、ね。確かに、最初に会った時に怯える様な表情を一瞬だけ見せられたりはした。結局、その理由までは分からなかったけどな。俺が違和感を感じたのはその辺が理由なのか? でも、どうして俺を見て怯えたり、身体を強張らせるのか分からないな。最初に会った時、ソフィーは貨物デッキに彼女が忍び込んだ理由がカギになりそうだと言っていたな。で、その後の協力体制にの申し出に繋がるが……。結果的に、彼女が怯えていた理由は結局のところ不明のままで別れてしまった。ん~、やっぱり何か大事なピースが抜けている気がする。それが何か分からないと、後々で痛い落とし穴に嵌りそうだな。
「私は直接その星女に会った訳では無いので何とも言えないが、直感というのは強ち馬鹿には出来んものだと思っている」
「実際、軍人をしているとその手の感覚に助けられる事も多々あるからな」
「如何にも。……香月殿。その星女が何か表には出さない企みの様な物を、内心では抱いている前提で動かれたらどうか?」
「それは……。右手で握手をしつつ、左手に銃を持つって事ですか?」
「そうだ。銃でもナイフでも良い。ようは向こうがふざけた真似をしたら、その首を即刻刎ねれば良い」
首を刎ねるって、物騒な言い方するなぁ、クロシバ。とは言え、彼の言う事は尤もだろう。そうだな、星女様とやらに対して油断せずに向き合うしかないだろう。情報の裏を取り、出来るだけ余計な言質を向こうに取られない様に細心の注意を払う。中々にハードな展開になりそうです。
「あの、香月さん。質問しても宜しいでしょうか?」
「ナターシャさん? どうぞ?」
明確な答えの出そうに無い思案に嵌りかけていたオッサンに声を掛けて来たのは、意外にもナターシャ嬢だった。要塞に来てから、食事を一緒にしたり、会うたびに世間話などをしている内にだいぶ彼女とも打ち解ける様になった。まぁ、流石にソフィーやシャンイン程とはいかないけどね。で、そんな彼女が何やら気になる事があるらしい。以前の追悼式典の提案の件もあるし、何か違う切り口から突破口になる様な事を聞けないかと少しだけ期待する。
「素朴な疑問ですが、宙賊の過激派と穏健派の区別は付いているのでしょうか?」
「要塞としてって事ならば、現状では難しいですね。如何せん、情報が少ないので」
諜報を担う管理AIに以前から宙賊と教団それぞれを洗わせているが、宙賊側の情報は正直なところ期待している程には集まっていないのが実情だ。どうやら、彼ら独自の閉鎖されたネットワークを用いている様で、そこに入り込めていないのだ。教団側からも調べているが、宙賊とどの様に連絡を取り合っているのかも判明しておらず、此方側からの調査も行き詰りを見せている。なので、現状では過激派と穏健派の区別が付かない状況だと言える。
「そうなると、星女様にご紹介頂く穏健派の方々が、本物かどうかの確認も出来ないという事ですよね?」
「っ!?」
「確かに、現状では確認する術がありませんね」
「穏健派と言って、過激派に引き合わされる可能性もありますわ?」
「シャンイン、それって星女と過激派に実は繋がりがあるって事か?」
「あくまで、可能性の話ですわ。ですが、何れにせよナターシャさんが言う様に、確認する術はありませんわ」
シャンインの言う通り、もし星女が実家を含めた穏健派だけでなく、過激派とも繋がっているとしたら、あの宙域を巡る構図はどの様に変化する? 彼女は何を得て、何を失う? あくまでIFに過ぎないが、放置しては不味いとオッサンの胸中がざわつく。嫌な感じだ。凄く嫌いな感じがする。
「星女、パルメニア教団、パルメニア聖戦師団、パルメニア殉教師団、過激派と穏健派の宙賊、そして我々ランドロッサ要塞。一見すると揃っている様に見えて、実は駒も手札も欠けているのかもしれないな。そして、その欠けている何がか、致命的な毒になりかねないって事か?」
何だ? 何が欠けている? 人か組織か、物か、或いは何らかの出来事か。駒か手札か、或いは両方か。何れにせよ、何かが足りていない。その何かを早く探し出さないと、致命的な結末が待っている気がする……。
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次回もお楽しみに。