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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第2章:星女と宙賊と戦艦
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2-9:星女

フットワークが軽い星女。

 自ら船に乗り込んで、宙賊掃討を思い留まる様に説得にきた行動派の星女様。しかも、ご実家は宙賊家業を営んでいるとか。現在のトップは双子のお姉さん。オッサン的に、お腹一杯です。


 「宙賊の掃討を止めろと言いますが、彼らによって生じている被害をご存じかと思いますが?」

 「無論、承知しております」

 「それなら、何故?」

 「……貴方様は、元々宙賊と呼ばれる者達がどの様な存在だったかご存じでしょうか?」

 「はて?」


 宙賊ってのは、一般的に言えば海賊の宇宙版だろう。商船や客船を襲い、金品や場合によっては船そのものや人をも奪い去る連中だ。元いた世界では、海賊対策に各国が艦艇や軍用機を派遣していたな。少なくとも、それらの連中に情けを掛けてやる必要を感じないよな。


 「私の実家も含め、この宙域を拠点に活動している宙賊と呼ばれる者達の主な仕事は、商船や客船から金銭を受け取る代わりに安全を保障するものでした。言わば、貴方様の言う民間防衛組織の様なものなのです」

 「なるほど……」


 確か村上水軍とかも、略奪とか破壊行為をする一方で、安全を保障する代わりに通行料とか得ていたって何かで読んだな。彼女の言う本来の宙賊の在り方ってのは、それに近いって事の様だ。


 「ところが、5年ほど前から一部の宙賊達が、略奪や破壊行為に特化し始めたのです」

 「護衛して地道に儲けるより、全て奪った方が儲けが大きいからでしょうね」

 「はい。そして、その頃から教団関係者との繋がりが以前にも増して強くなった様なのです」

 「過激化した宙賊と教団関係者。繋がる動機は何でしょうか? (いたずら)に信徒を危険に晒す連中との繋がりを持つメリットが今一分かりませんが」

 「教団は大勢の人によって構成されています。当然、権力を巡り醜い争いも……」


 確かに、組織が大きくなれば大なり小なり権力争いは起きるだろうな。それでなくても、星系最大の宗教組織ともなれば、地位によって得られる権力もかなりのものになるだろうしな。で、それと宙賊がどう繋がる?


 「自身のライバルに肩入れしている商人や上流階級の者達を、宙賊に襲わせるのです。そうすれば、ライバルは大きな痛手を被る一方で、自身の立場はより強固になります。また、宙賊は教団側からの正確な航路情報を元に、労せずして大きな儲けを得る事が出来ます」

 「つまり、幾人かの教団関係者は敬虔な信徒達や、善良な商人達よりも自身の地位を護る事に重点を置いていると?」

 「残念ながら、その通りです」


 教団関係者は宙賊を都合の良い道具にしているって事か。一方の宙賊も確実に大金を稼げるとなれば、話に乗るだろうな。双方にメリットが出てくる訳だ。


 「お話を聞く限り、やはり宙賊は潰すべき存在に思えますが?」

 「……問題行動を取っているのは、一部の宙賊だけです。ですが、貴方がたにはそれを判別出来る情報がありますでしょうか?」

 「つまり、我々が良い宙賊と悪い宙賊を判別出来るのかって事でしょうか? 例えば、貴女のご実家がどちら側とか、ですかね?」

 「その通りです。一纏めに潰すのは、戦力さえ揃えれば不可能ではありません。ですが、それは元々この宙域の安全を守ってきた宙賊をも、一緒くたに排除する事になります。その結果待っているのは、宙域の不安定化なのです」


 何となく、星女の言いたい事は理解出来た。この宙域の安定の為に、必要悪としての宙賊を幾らか残したいって事の様だ。恐らく実家もそちらのグループに入るのだろう。一方で、教団にも宙域にも悪影響を及ぼしている連中は出来れば排除したいって所かな?


 「我々に、それらを見極めて潰せと?」

 「無駄な血がこの宙域に流れるのを阻止したいのです。我が神『ルーフェス』は争いを好みませんから」

 「お考えは立派だとは思いますが、結局のところ力を背景に金を得ている事に双方代わり無いと思いますがね?」

 「それは……」


 教団関係者と繋がって利益を上げている宙賊も、安全を担保に通行料を取っている宙賊も、結局は同じでは無いだろうか? 確かに、後者の方が流れる血の量は少ないだろう。でも、本来ならばどちらも不要の存在で無くてはならないのだ。まぁ、警察みたいな組織が宙域パトロールでもしてない限り、後者には止むを得ない部分もあるのは分かるが……。ん? 腐った宙賊は切り落とした上で、残りの宙賊を1度解体して、教団直下の宙域防衛組織にでもした方が良いんじゃね? 或いは、民間の防衛組織にでも作り直すかだな。


 「素人考えですが、古き良き宙賊達を教団の傘下なり、民営の治安維持組織にでも改変した方が良いのでは?」

 「それは私も考えた事がありますが、元々宙賊とは何らかの縛りを嫌い宙へと上がった者達なのです。彼らは自由を愛し、束縛を嫌います。そう言った組織に彼らを縛り付ける事は、かえって反発を招くだけになります」

 「なるほど。良くも悪くも今の形が最良の結果だと」

 「はい」


 う~ん……。今の形を維持しつつ、一部の非道を重ねる宙賊だけを討伐すれば良いのか? でも、元々はフォラフ自治国家へ向けた侵攻ルートの安全確保が目的だからな。古き良き宙賊達が、それに協力してくれるって言うなら吝かでは無いけれども、通行料とかほざくなら潰した方が速いよな。


 「我々はフォラフ自治国家方面への、安全な航路確保を目的としています。無論、そこを通る上で宙賊へ通行料等を払う心算はありませんし、邪魔をするなら武力で排除するだけです」

 「当該宙域にて、貴方がたの船を素通りさせるならば手を出さないと?」

 「まぁ、そうなれば宙賊をわざわざ探し出してまで叩く必要は無いでしょうね。あくまでも、我々の行動の障害になる者達を排除したいだけですから」

 「……なら、互いに協力出来るとは思いませんか?」


 協力ね。此処までの話から互いの目的を整理してみるか。彼女の目的は、本来の宙賊としての姿を取り戻す事だろうな。その為には、過激派と化した一部の宙賊を排除する必要がある。その後は、実家を始め伝統を守る宙賊達を今まで通り必要悪として、宙域の治安を維持する役目を続けさせたいのだろう。一方で、我々はフォラフ自治国家方面への安全な航路が確保出来ればそれで良い。該当宙域に宙賊が居たとしても、我々の通行を邪魔しなければそれで良いからな。


 「此方の目的は、フォラフ自治国家方面の安全な航路の確保及び宙賊からの不干渉ですね」

 「私の目的は、罪なき信徒達を苦しめ続ける宙賊過激派の排除と、彼らと繋がっている教団関係者を処分する為の証拠の確保。そして、必要悪としての宙賊の存続です」

 「互いにどの様に協力出来ますか? 現状だと我々は実行戦力の提供ですか。其方は?」

 「私の実家を含めた、反過激派の宙賊との仲介。それから教団内で信頼出来る方々との仲介も行えます」

 「なるほど」


 まぁ、星女の立場として出来る事は限られているだろうからな。その中で可能な範囲が仲介役って事なのだろう。此方としても、この宙域における敵味方の区別が付けられるようになるだけでも彼女と協力体制を築くメリットはあるな。…とは言え、即決するのは余計なリスクを背負う事になる。先ずは、保留した上で星女とその周囲を洗うか。オッサン、馬鹿正直に信じたりはしません。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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