1-5:フォルトリア星系
また、説明ばかりだって?
作者が開き直っただけさ。
ある程度、世界感の説明をしないと話が進まないんだ、すまない。
昨日は、あの後、食事をして疲れから寝てしまった。考えたら、昼前にはこの要塞に来てたけど、初めての食事が夕食だった。一食抜いて少しは痩せただろうか。ちなみに食事は、某チェーン店の味に激似な牛丼に生卵、豚汁だった。いやはや、日本人として食べ慣れた日本食が選択出来るのは本当にありがたい。ちなみに、和洋中以外にもエスニック料理だったりと、元いた世界各国の料理が端末から注文出来る様になっていた。船盛とかあったけど、生産ブロックで魚の養殖をしているのだろうか。流石に、宇宙に浮かぶ要塞での最初の食事が船盛はどうかと思ったので、止めておいた。
少し前に、ソフィーに通信で起こされた。シャワールームの使用方法を聞いて朝シャンと洒落こんでから朝食だ。シャワールームの横にジェットバスも有ったので、夜はゆっくり入浴を楽しみたいな。まぁ、今は朝飯を片付けよう。うん、美味い。高級旅館の朝食セット、明日も頼もう。
「おはようございます、香月司令官。ゆっくりお休みになれましたか?」
「おはよう、ソフィー。お蔭様で、朝までゆっくり休めたよ。食事も美味しかったしね」
「それは何よりです。睡眠と食事がしっかりと取れれば、日々の活動も良い結果が導けるというものです」
「確かにね。活力が漲っていると、やる気が出るしな」
まぁ、会社員時代の俺は活力が結果に繋がっていなかったのは秘密だ。多分、営業ってのが根本的に合って無かったのだろう。まぁ、今は余計な事を考える必要は無いな。
「さて、本日ですが昨日建造を開始した駆逐艦2隻が間も無く完成します。ですので、完成したら2隻で分艦隊を編成して周辺宙域で試験航行を兼ねた偵察行動をさせた方が良いかと。ランドロッサ要塞周辺宙域の情報は今後の事を考えると必要になりますので」
「確かに。未知と既知じゃ、選べる選択肢が変わるからな。よし、完成次第、偵察行動を行わせよう」
「了解しました。艦隊の出撃方法は後ほどご説明します」
「宜しく。ちなみに、完成まで何をすれば良いのかな?」
「そうですね。宜しければ、このフォルトリア星系で争乱を起こしている3大勢力についてご説明しましょうか?」
「将来的に、戦う相手って事だよな?」
「そうですね。この3大勢力を排除するなり、支配下に置くなりして星系に平和を齎すのが香月司令官の最終目標となります」
「なら、知っておかないとな。お願いするよ」
「了解しました」
フォルトリア星系における3大勢力とは以下の国々を示す。
惑星フォルマを主星として、大小合わせて25の惑星からなる連邦制国家、コールマフ連邦。
惑星ステッサを主星として、大小合わせて23の惑星からなる共和制国家、ボルジア共和国。
惑星モリビアを主星として、大小合わせて26の惑星からなる君主制国家、ワルシャス帝国。
何れの国家も複数の有人惑星から構成される国家であり、人口はボルジア共和国が420億人、ワルシャス帝国が490億人、コールマフ連邦が610億人となっている。どの国家も重工業が発展しており、非常に強力な軍事力を誇る。中でもワルシャス帝国は現皇帝ゲルニア・フォン・ワルシャスに代替わりしてから領土拡張意欲を強く見せる様になり、3大勢力による入り乱れての戦乱を引き起こす切っ掛けとなったのが、帝国によるボルジア共和国領への武力侵攻だった。
その後、コールマフ連邦へと飛び火した戦禍はフォルトリア星系全体を巻き込む形となった。2年3か月余りの戦乱によって、既に2つの自治国家と、5つの独立コロニーが占領下に置かれたという。
「何ていうか、この要塞だけでどうにか出来るレベルじゃないと思うんだけど……」
最も、人口の少ないボルジア共和国ですら420億人。総人口の1%が軍人だとしても、4.2億人。その内、6割が後方勤務だと仮定しても、残り1億7千万人弱が戦闘部隊に配置されている事になるのではなかろうか?
「勿論、いきなり何処かの勢力と正面切って戦闘を開始するのは愚行です。まずは此方の戦力を増やしつつ、占領下にある自治国家やコロニー等へ秘密裏に支援を行い、彼らを味方に付けるのが得策だと思われます」
「そうなると。やっぱり人材が必要だな。俺達だけじゃ、どう考えても手が回らない」
「そうですね。ですので、香月司令官には人材採用も並行して進めて頂く必要が有ります」
「人材か。そもそも、この要塞がある空域じゃなくて、宙域って近隣に人が住む惑星とか有るのかな? 後は、各勢力の支配領域との距離も知りたい」
今更ながら、この惑星がある場所を正確には把握していない事に気が付く。各勢力との距離も正確に把握しておかないと、下手に目を付けられたら数で潰されるよな。
「このランドロッサ要塞を含む小惑星群は、フォルトリア星系の中心となる大恒星から見て最外部に位置しております。この要塞から最も近い有人惑星は11時方向、距離にして15光分の所に惑星ポッシュがあります。ポッシュはボルジア共和国寄りのフォラフ自治国家が統治する惑星ですね」
「ごめん。話の途中で悪いんだけど、15光分ってどの位の距離?」
「1光分が凡そ1,800万kmですので、15光分で2億7千万km程です」
「途方も無い距離に感じるな。ちなみに、この世界の宇宙船の速度は?」
「駆逐艦等の高速艦で毎時300万km程ですね。ポッシュまで90時間程で到着します」
毎時300万km!? 新幹線で時速300kmとかじゃなかったか? それの1万倍とか恐るべし、駆逐艦。その速度で航行しながらでも戦闘行動が出来るって事なのかな。出来るのなら目まぐるしく変化する戦いになりそうだ。いや、逆に速過ぎてゆっくり見えるとかあるのだろうか。
「ちなみに、ワープ航法は有るのかな?」
「残念ながら、ワープ航法の技術は疾うの昔に失われています。現状、各国が復元を目指していますが、成功した国家は有りません」
「そうか、無い物は仕方がないな。中断させて、ごめん。続きをお願い出来るかな?」
「では、各勢力圏最外部までの凡その距離をご説明します。ボルジア共和国は、9時方向に26光分ほど。コールマフ連邦は、2時方向に35光分ほど。ワルシャス帝国は、11時方向に40光分ほどの距離になります」
「此処は、何れの勢力圏に入っていないの?」
「はい。この辺りは既に廃棄された資源衛星ばかりですので、どの勢力に取っても占領する魅力に乏しいのが現状です。後は第16コロニーも原因でしょうか」
「第16コロニー?」
コロニーって、宇宙空間に浮かぶ円筒上の人工居住空間の事だろうか?
「此処から12時方向に5光分程の所にある、資源採掘の為に建設されたスペースコロニーです。このコロニーは、採掘労働者として各地から多数の受刑者達が集められました。採掘終了後は、そのまま彼らをコロニーに置き去りにしたのです。結果として管理する者はおらず、事実上の無法地帯になっているのが現状です」
「体の良い厄介払いって事か。必要な資源さえ手に入れば、後は野垂れ死にしてくれれば、手間も省けると」
「はい。受刑者の中には、重罪犯だけで無く、政争に負けた有力者達も多数います。その多くは恐らく既に生きてはいないかと……」
「邪魔な連中の処分場って事か。胸糞悪いな……」
もし、生きている有力者達が居たら力を借りられないだろうか。いや、下手に有力者と繋がりを持つのは、此方が取り込まれるリスクがあるかな。その辺の対応はソフィーと話し合いながら慎重に行動しないとな。
「香月司令官。此処までお伝えした情報を収めた小型の情報端末を後でお渡ししますので、時間のある時にでもご確認下さい」
「ありがとう。助かるよ。正直、覚える事が多くて頭が混乱しそうでさ」
「いえ、お気になさらずに」
そう言ってくれるソフィーはマジ女神だと思う。何となく彼女に後光が差している気さえする。女神ソフィー万歳!
「一番近い中立勢力が犯罪者の集まりか。流石に接触は避けるべきかな?」
「相応のリスクが有りますが、彼らの持つ裏社会とも繋がる独自ネットワークを介した情報収集には、一考の価値が有るかと思います」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずか……。何とも前途多難だな、こりゃ」
思わず、天井を仰ぐ。
何処かに優秀な人材が転がってませんかね? どの勢力とも距離を置いていて、一定の信頼が出来て、将来性のある有望な人材。どうやら人材不足は、遠い宇宙でも変わらない様だ。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。