2-8:宙賊②
この話、妙に難産だった。内容は薄いのにね。
※誤字報告ありがとうございます。
「あれで、民間組織とは……」
「明らかに正規軍並みの武装だよな?」
「少なくとも、俺達が今までやり合ってた連中とは訳が違うぜ」
「どうします、ボス?」
「ん~、一旦手出しは保留にしましょう。どうにも情報が少なすぎるわ」
「了解、ボス。漸くレーダーと通信も回復しましたし、戻りますか」
「そうね。さっさと我が家に帰って、一杯やって寝ましょう」
「「「おうっ!」」」
教団の情報提供者から、私達を含めた宙賊へと明確な敵対宣言を出した民間組織とやらがコロニーを今朝出航するとの情報が入ったの昨夜の遅い時間だった。情報が情報だけに、訝しみ様子見を決め込んだ連中も多かったが、私達は力を見せる為に打って出る方を選んだ。名前も聞いた事も無い連中に一方的に宣戦布告されて黙っている程、私達は大人しくはない。ただ、結果からしてみれば力を見せつけられたのは私達の方だった。距離はあったし、レーダーも突然の不調で効かなくなったから正確な判断は出来なかったが、駆逐艦クラスだけで無く巡洋艦クラスまで向こうは用意していた。それに艦載機部隊も居たとなると空母とその護衛部隊も近くで待機していた可能性が高い。脚の早い武装艦ベースの私達の艦では逆立ちしたって勝ち目の無い相手だ。
「それにしても、変形する戦闘機なんて聞いた覚えが無いんだけど?」
「俺も無いな。技術的に進んでるらしい帝国辺りが開発した新型機か?」
「それが本当だとしたら、例の民間組織ってヤツの背後に帝国やらが居るって事になるわね……」
「だが、こんな辺境にわざわざ虎の子の新型機を送り込むとも思えないぜ?」
「でも、帝国の皇帝はパルメニア教を嫌いって話があるわよ?」
「確かに、それは小耳に挟んだ事はあるが……。それだけで新型機を含む艦隊を派遣するか?」
「さぁ? 何れにせよ情報を洗いなおすわよ? 決定的に何かが足りてないわ」
そう、何かが足りないのだ。帝国、共和国、連邦。何れの勢力が関与しているにせよ、情報が明らかに不足している。提供者からの情報も、あくまで私達に対して敵対を宣言したってレベルでしかなかった。民間防衛組織『ランドロッサ』、その正体を暴く必要がある。取り合えず、拠点としているらしいガルメデアコロニーに誰か送り込む必要があるわね……。
「さて、どうする?」
「流石に、ガルメデアコロニーへ連れて行く訳には行かないしな……」
「不在が判明し、足跡を辿って港の監視映像なりを確認すれば、彼女がこの艦に乗り込んだのは確認出来ると思います。自発的な行動と分かれば、パルメニア教側も事を荒げる事なく対処してくるとは思いますが、何れにせよ騒ぎにはなりますね」
「化粧を変えていても、流石にバレるのは時間の問題か」
「パルメニア教もその辺は想定していると思います」
「だよな」
そもそも、星女ともなれば世話をする側付きの人間が多数いるだろう。その連中の目を何らかの方法でやり過ごすにしたって、稼げる時間はそう長くは無いはず。彼女が居ないと判明すれば、直ぐに捜索は始まる。目撃者探しに、監視映像のチェック。それらしき人物が見つかれば、後は情報を追っていけばいい。元の世界でも、監視カメラの映像を追跡して犯人を見つけるってのは実際に行われている捜査手法だと聞いた事がある。教団にも、それ位は出来る力があるだろう。幾らなんでも星女が見つかりませんじゃ、話にならないだろうしな。
「此処は、大人しくコンラッドに引き返……」
『艦長! ちょっと、良いですかね?』
「ベルスか。どうした?」
『例の星女様が、艦長と話がしたいって言ってやして……』
「……分かった。客室に行くから待ってろ」
『了解です!』
どうやら、その前に星女様の話を聞く事になりそうだ。彼女と宙賊との関係が、今後の我々の方針にも大きく影響してきそうな予感がする。オッサン的に、嫌な予感がビンビンです。マジで、ビンビン。
宙賊の脅威も取り合えずは去ったので、副長に再び操艦を任せ俺達は星女が滞在している客室へとやってきた。今回はクロシバは部屋で留守番して貰っている。ぶっちゃけ、貨物デッキに行った時も空気だったしね。さて、星女様に気を使ったのか、彼女に与えられた客室は艦内でも1番広さのある部屋だった。まぁ、それでも合計5人も入れば手狭感が出てくるのは仕方が無い。
「さて、改めて事情を伺えるだろうか?」
「はい。先ずは、無断で船へと乗り込んだ事をお詫び致します」
そう言って、頭を下げる星女。先ほどもそうだったけど、星女と呼ばれ崇められるであろう立場の女性にしては腰が低い様に感じる。もっと、取りつく暇も無い様なイメージを勝手に持っていたからさ。そう言った教育方針なのだろうか? まぁ、信徒から見て身近で親しみを感じられる星女の方が人気も出るか。
「謝罪は受けよう。それで、事情を聞かせて貰えるだろうか?」
「はい。実は、私の実家は宙賊でして……」
「「「「はっ!?」」」」
それは正に俺、ソフィー、アイザフ大佐、ベルス、4人の心が1つになった瞬間だった。実家が宙賊って何ですか? 宙賊が家業って事かな? その家の娘さんがパルメニア教の星女? 想定外過ぎるだろ!?
「両親は既に一線からは身を引いてサポートに専念していまして、今は双子の姉が組を率いています」
「組?」
「はい。紅の蠍団です」
「ネーミングセンス!!」
「……変でしょうか?」
いや、中二病レベルのセンスだろ、ソレ!? 星女様の実家が中二病丸出しネームの宙賊一家とか、予想の斜め向こうどころの騒ぎじゃねえよ!
「あー、組織名は今は置いておこう。それで、貴女の実家が宙賊である事と、この船に乗り込んだ事にどういった関係が?」
「そちらの方々が、宙賊の掃討戦を計画していると側勤めの者から聞きました。それを聞き、どうにか話をして思い留まって頂けないかと思ったのです」
想定外過ぎて頭がパンクしそうなオッサンに代わり、アイザフ大佐が話の続きを促してくれる。流石は、優秀な艦長さんだ。衝撃からの立ち直りが早い。そして、星女様も行動力あり過ぎだよね? 話がしたいから直接、船に乗り込んで来るって……。会談したオルガ支部長辺りを通して話を寄越しても良かったと思うけどね。まぁ、流石に実家云々を星女の立場で話す訳にはいかないにしろ、何らかの理由を付ける事は出来ただろうに。それをしない理由が何かあるのだろうか? 取り合えず、此処からはオッサンが彼女と話をする必要がある様だ。アイザフ大佐に引いてもらい、オッサンが彼女の前に立って声を掛けるとしよう。
「我々と話をする為に、この船に乗り込んだって事ですか?」
「はい」
「宙賊の掃討を思い留まれと?」
「その通りです。どうか、考え直しては頂けないでしょうか?」
そう言って、頭を下げる星女。何だか、オッサンが悪者になっている気分です。どうしてこうなったのやら、ランドロッサ要塞が恋しい今日この頃です。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。