2-4:コンラッドコロニー④
何事も時間が掛かる。
此方の説明を聞いて、オルガ支部長が思案していた時間は凡そ1分足らずだった。視線を1度外し、再び此方にと向けた彼の表情からは、何も伺えない。
「私としては、この宙域に平穏が齎されるのは喜ばしい事です。ですが、貴方がたと宙賊との戦闘が起これば、それを知って少なからず不安を感じる信徒達も居るでしょう」
「……」
「ですので、この件に関しては私に1度預からせて頂き、教団本部での上役会議に掛けたいと思います」
「つまり、その会議の結果次第と言う事ですね?」
「はい。少しお時間を頂く事になりますが、本件は私の一存で決められる内容を超えていますので。態々お越し頂いたのに申し訳ない」
そう言って、頭を下げるオルガ支部長。とは言え、彼を責めるのはお門違いだろう。そもそも、今回の提案は、支部長1人で受け入れを決められる事で無いのは当初から明白だったのだ。なので、此方としては特に異論は無い。
「此方としては異論ありません。会議の議題に挙げて頂く機会を頂けただけで、足を運んだ甲斐があったと言うものです」
「そう言って頂けると、此方としても助かります。ちなみに、皆様は暫くコロニーにご滞在を?」
「いえ、当初の予定通り、明日の朝には1度ガルメデアへと戻ります。ですので、会議の結果が出ましたらサントス氏にお伝え頂ければと思います」
「そうですか。では、その様に手配致します。また機会があれば、是非コンラッドコロニーに遊びに来てください。我らが主神『ルーフェス』は何時でも皆様を歓迎致します」
「ありがとうございます。次の機会は、もっとゆっくりと滞在させて頂きます」
宗教施設が数多くあるって事は別として、中々に風光明媚な光景が広がるコンラッドコロニー。今度は、のんびりと観光がてら来るのも悪く無いだろう。ただ、殉教師団だけは勘弁だけどな。
「では、私はこれで失礼しますね。申し訳無いが、実務が詰まっておりまして」
「いえ、お忙しい中でお時間を頂きありがとうございました」
「此方こそ。皆様に『ルーフェス』のご加護がありますように」
「感謝します」
オルガ支部長と握手をして別れる。実務に戻る彼を見送った我々は、先ほど案内してくれた女性に再びロビーまで送られて支部を後にした。
支部を後にした我々は、近くの駅からモノレールに乗り滞在しているホテルへと向かった。今回予約したホテルは、コロニー中心部にある観光客向けの高級ホテル。別に安いホテルでも良かったのだが、シャンインから気分転換にも良いのでわと言われ、お高い部屋を取ったのだ。まぁ、1泊位なら贅沢しても罰は当たらないだろう。
「ふぅ……。取り合えず、議題に挙がる方向に持っていけて良かった」
「そうですね。門前払いされる可能性もゼロではありませんでしたから」
「何れにせよ、第1段階はクリアと言う事だな?」
「そうそう。後は、明日の帰路の何処かで、宙賊からの襲撃を受ければ第2段階もクリアだな」
上役会議の議題については、事前に参加者間で共有されるという話だ。なので、宙賊と繋がっているであろう、教団関係者にも俺達の動きが直ぐに伝わるだろう。コロニーへの入港や入国審査の際、ホテルのチェックインでも民間防衛組織『ランドロッサ』の名は明確に示している。オルガ支部長との面会の際は言うまでもないな。その場において、宙賊への武力行使を示唆した此方の動きを、向こうも注視するだろう。
「流石に、指をくわえてお見送りしてくれるとは思えないだろ?」
「……仕掛けてくるならば、コロニーから離れた所で狙って来るだろうな」
「コンラッドコロニーも、小規模とは言え自警用の艦艇を持っています。流石に彼らの目の前で仕掛ける事は考えにくいですね」
そもそも、宙賊と教団が繋がっている以上、コロニー付近での戦闘は絶対に避けるだろうからな。パルメニア教団と宙賊。同じ宙域に居を構えながらも、宗教団体と犯罪者集団が不思議と共存しているのは何故か。それは、双方にメリットがあるからに他ならない。流刑地であるガルメデアコロニーとの繋がりも、似たような理由だ。コロニーの様な閉鎖的な土地では、メリットの方がデメリットよりも大きければ、犯罪者とも手を組むって事の様だ。勿論、全てのコロニーがそうだって事では無いが……。
「第1艦隊は、予定通り?」
「はい。コロニー側の監視網の外側で待機しています」
「しかし、宙賊は仕掛けてくるのだろうか? 少なくとも、武力制圧を宣言している組織が最低限の護衛も無しとは、向こうも思わないだろうしな」
「その辺は、賭けだな。来なければ、来ないで宙賊が臆病風に吹かれたと噂を流せば良い。どっちにしろ、俺らには損が無い」
仕掛けて来れば、護衛としてコロニー宙域近郊で待機させている新生第1艦隊で迎え撃つ。出てこなければ、宙賊は我々に恐れをなして引き籠ったと噂を流布する。何れにせよ、彼らはダメージを負う事になる。そして、パルメニア教の方針がどの様に決まろうと、傷を負わされた宙賊は我々との戦端を開かざるを得なくなる。そのまま、黙っているのは彼らのプライドが許さないだろうし、他の宙賊グループから下に見られる事にも繋がるからな。この宙域には幾つかの宙賊グループがあるらしいが、どの組織と戦端を開こうと何れは全ての組織が出てくるだろう。下位の宙賊グループほど、名を売る絶好の機会だからな。
「とは言え、コロニー内で仕掛けて来ないとも限りません。明日の出航まで十分に注意して下さい」
「そうだな。先ほどの連中の1件もある。香月殿も気を付けられよ」
「勿論。要塞に帰るまでが遠足だからな。此処で果てるなんぞ、あの馬鹿に何て笑われるか……」
「……えぇ、同感です。あの馬鹿に笑われるのは癪です」
「?」
あの馬鹿に心当たりの無いクロシバが首を傾げているが、気にしなくていいぜ。君は、その純粋なままでいてくれ。あの馬鹿とお知り合いに等ならない方が幸せだと、オッサンは思います。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。