1.5-10:ランドロッサ要塞の日常⑩
だいぶ駆け足気味だったけれども、1.5章はこれにて終了。次回より第2章へと物語は進みます。
※誤字報告ありがとうございます。
俺と、シャンインは無事にコロニーからランドロッサ要塞へと帰還していた。そして、ナターシャ嬢と彼女が幼い頃に乳母をしていたという、アルヌ・マザルスという女性も一緒だ。政治家の夫を支える為に留守がちだった母親に代わってナターシャを実の子の様に可愛がってきたそうだ。今回の逃避行でも、彼女の精神面での支えとしてディーシー号に乗り込んでいたと言う。今回、要塞にナターシャ嬢の身柄を移すにあたって、彼女も同行を申し出てきた。気心知れた間柄の人物が居た方が、ナターシャ嬢にもきっと良い影響を与えるだろう。これから、どうしても不自由な生活が続くからな。
ちなみに、柴犬ことタロ・ローガン中佐は監房エリアに収監してある。まぁ、一時的な措置って所だ。少し様子を見てから、共和国の和平派と接触を図る心算でいる。
「さてと……、帰ってきた訳だし、何から始めるかな」
「追悼式典も終わりましたし、当面この宙域で大きな出来事は無いかと思います。共和国の動きを探っていましたが、フォラフ自治国家を占領下に置いて以降は目立った軍事的行動はしていない様ですね」
「そのまま、こっちには手出ししてこなければ楽だけどな。次は、前回より戦力を増やしてくるだろうし……」
「ですわね。ただ、殴られっぱなしで終わるとも思えませんわ」
「何らかの手段は講じてくるか……」
直接的な戦力の投入以外に、どの様な手段が有るか? 現状では、要塞とボルジア共和国圏との間に何らかの取引等は存在しない。狙われるとしたら、要塞からコロニーへと生産品を輸送するディーシー号だろうか。コロニーの共和国派が情報を流すかもしれないしな。念の為、周辺宙域の警戒を強化するか。
「取り合えず、周辺宙域の偵察は強化しようか。ネズミに入り込まれると厄介だし」
「そうですわね。後は、コロニーからフォラフ自治国家方面に出没する宙賊への対応ですわ。将来的な障害になる可能性が有りますもの」
「あの一帯は、廃棄されたコロニーや資源衛星以外にも潜伏に向いた小規模なデブリが多数あります。宙賊の様な者達に取って、隠れ家としては最適ですね」
「フォラフ自治国家解放には、その手前の大掃除が必須か……」
「基本的には排除か従属させるかの、2択ですわね」
排除か従属。確実なのは排除だとは思うが、どの程度の規模でいるのかも不明な状況で虱潰しに宙賊を探すってのは非効率だよな。それに廃棄されたコロニー内に潜伏しているとなると、内部を捜索出来る部隊も必要になる。捜索及び戦闘用の兵器開発を進める必要もあるか。逆に従属させるなら、あの宙域を根城にしている宙賊の中で、最大勢力の連中を落とすのが手っ取り早いだろう。どちらにしろ情報収集が必須になるな。
「該当宙域には、コロニーや資源衛星、デブリ等は正確にはどの程度の数が在るんだ?」
「……そうですね。人が暮らしているコロニーが4基、廃棄されたコロニーが2基、放棄された資源衛星が24ヶ所、デブリは大小合わせて16ヶ所となります」
「有人コロニーが4基も在るのか。現時点では共和国の勢力下かな?」
「いえ、あれらのコロニーは何れも独立を維持していますわ。正確には何れの勢力とも距離を取り、中立を表明していると言うべきですわね」
3大勢力とは距離を維持する中立コロニー群か。でも、中立とは言えど何れかの勢力に情勢が大きく傾けば、必然に迫られて動く可能性はあるよな。それを考えると、どう向き合うのがベストか……。
「一番此処から近い有人コロニーは?」
「それですと、第8コロニーです。名称はコンラッド。距離は要塞から10時方向に10光分といった所ですね」
「ガルメデアコロニーの倍の距離か」
「現行の艦隊で無補給でも往復は可能ですが、万が一を考えるならば補給艦の同行が必要となりますわ」
「……だよな」
コンラッドコロニーか。何れの勢力にも与しない独立コロニー。他の3基のコロニーもそうだが、独立を維持しているって事は、何らかの対抗手段を持っているって事だよな? 或いは、最も近いであろうボルジア共和国から見て重要性が低いって事なのか。
「独立を維持出来ている決め手みたいなのが、何か分かるかな?」
「……4基、何れのコロニーもパルメニア教の拠点ですわ」
「パルメニア教?」
「このフォルトリア星系最大の宗教ですわ。そして、コンラッドコロニーを含めた4基のコロニーは、パルメニア教を信仰する信者達が大勢暮らす一種の宗教都市ですの」
「宗教的な観点から、3大勢力は何れも手を出しては居ません。ただ、帝国の現皇帝ゲルニア・フォン・ワルシャスは、パルメニア教を良く思っていないとの噂もあります。それが戦乱の遠因と言う話も」
「宗教か……」
厄介な事、この上ないとしか言い様が無い。個人的に、宗教絡みの連中とは出来るだけ距離を置きたいのが本音だ。信仰心が強過ぎて、話の通じない相手とかオッサン的に勘弁。勧誘は不要、教え何ぞは興味ない、とにかく口を閉じて黙っていてくれと、かつて友だった男に言った苦い記憶が蘇る。
「俺としては、出来るだけ宗教団体とは距離をおきたい」
「同感です」
「私もですわ」
どうやら、全員一致の様だ。信仰を持つことは個人の自由だが、組織だった宗教ってのは危険すぎる。とは言え、宙域の安全確保を目指す上で、彼らと全く無関係で居られるかと言うと判断に悩む所だな。目の前で宙賊とドンパチやってて、彼らが何もリアクションを起こさないとは思えないし。どうするか……。
「最低限の礼節だけ通して、距離を置くのがベストかな。喜ばれそうな品って何だろうか?」
「そうですね。酒や煙草、上質な布に毛皮、絵画などの美術品、貴金属、貨幣辺りでしょうか?」
「いやいや、俗物過ぎないか!?」
「パルメニア教は、そう言った供物を微塵も拒否しませんわ。全ては彼らの信ずる神への捧げ物を代理で預かるだけですもの」
「……うわぁ」
俗物過ぎる宗教団体ってどうなの? そう言った欲求とは、信仰を通して距離を置くのが本筋なんじゃないかと思うんだけど。酒を飲み、煙草を吸い、上質な衣類や毛皮を身に着け、並べられた美術品を鑑賞し、宝石をゴロゴロと身に着け、金を数えて悦に浸る。いやいや、ただの成金レベルじゃねえか!
「……神は死んだ」
「ただ、一方で様々な慈善事業に惜し気も無く大金を投じていますし、後発惑星の開発などにも積極的ですの。ですので、その手の恩恵を受けている層からの支持は絶大ですわ」
「なるほど。上手く出来ているもんだな」
「更に、昔から女性の地位向上を求める運動を大規模に展開してきた経緯もあり、女性信者の数もかなりの数に上ります」
「……」
一般的に、人口の半分は女性だからな。それらを味方に出来るってのは強みだわ。聞けば聞くほど、関わり方の最適解を導き出すのが難しく感じる。取り合えずは、供物かね?
「ちなみに、現在のパルメニア教団のトップは女性です。確か、20歳を超えたか超えない位の方でしたか。何でも、奇跡をもたらす星女と呼ばれているとか」
「ネーミングからして、関わったら間違い無く厄介事がおまけで付いてくるな。管理AI。その星女?の動向に最大限注意していてくれ。間違っても関わり合いにはなりたくないからな」
『指令、受託しました。動向監視を開始します』
ソフィーから最大限警戒すべき情報が入ってしまった故に、対策を講じる必要が出てきてしまった。ナターシャ嬢も女性だったしね? 何となくだけど、女性との関わりが後々の厄介事へのフラグな気がするのだよ。……今、フラグが立ったって思ったヤツ。怒らないから出頭しなさい。オッサン的に、立ててしまったと思います。この手のフラグを折る方法を教えて下さい。マジで。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。