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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
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6-39:オペレーション・サジタリウス㉒

新年度ですね。進学に就職、色々と変化のある時期。

私は、特に変わりませんが……。


ランドロッサ陣営も平常運転です。

 大口径の火砲から放たれる、高威力の砲撃。戦艦の要とも言えるそれらを、捨ててまで無数の対空砲を搭載した文字通りハリネズミと形容する以外に言葉が思い浮かばないその艦。戦艦特有の厚い装甲による打たれ強さと、搭載量の多さから圧倒的な対空弾幕を形成出来るが、悲しいかなそれだけである。


 どれだけ濃密な弾幕を展開しようとも、限界と言うものがあり必ず穴は生まれる。今回で言えば、ヘイスァ達が囮になることで、ホンスァが機体特性を利用して入り込む隙が出来た。1度でも穴が出来れば、後はそこを拡げるだけの作業となる。勿論、敵もそれを理解しているから埋めようとするが、それを上回る速度で拡げれば良いだけだからな。


 ホンスァが沈めた最初の1隻。そして、オッサンが沈めた8隻。合計9隻の対空戦艦と呼ぶべきハリネズミが爆散したことで対空網に大きな穴が開いた。これが、バラバラの箇所であったならば近隣の他の艦が直ぐにその穴を埋めただろう。だが、悲しいかな被害は1ヶ所に集中している。そして、攻撃と言うのは連続性を持つものである。


 「……」


 

 1度に狙うは8隻。かつ一撃で沈められるポイントに砲撃を撃ち込める位置取りの艦。自分自身の経験からくる勘と、機体に搭載された戦闘補助AIによる適格な算出によって、『不知火』は1発とて無駄撃ちすることなく敵艦を沈め続ける。勿論、機体はその間も対空砲火を掻い潜る為に出鱈目な機動を描き続ける訳だが。


 通常、人型の機体と言うのは機体各部に傾き等を検知するセンサー類を取り付け、転倒しない様にシステムが自動的にバランスを取る様に設計されている。しかし、この『不知火』にはそれらのシステムが根本から存在していない。正確に言えば、最低限のオートバランサー機能は搭載されている。しかし、無重力の宙や低重力圏内ならまだしも、重力圏内では外部からの補助なしでは直立することすら不可能なレベルの代物でしかない。


 ゆえに、機体の制御について必要な情報をパイロット自身が絶えず入力し続けることが必須になる。その結果として、通常の姿勢制御システムでは制止必須レベルかつ、敵からすれば予測が不可能な動きを機体にさせることが出来るわけだ。まぁ、機体に掛かる負荷も相応のものになるがな。それでも、姿勢制御システムとこちらの要求が真っ向から対立しないだけ負荷は少ないのだが。


 良い言い方をするならば、踊るように。悪い言い方をするならば、新人がパニックを起こして無茶苦茶な操縦をしているかのごとく。新たなる愛機である『不知火』は、対空砲火をものともせず縦横無尽に駆け巡る。まるで、回転軸が狂いまくったコマのように。


 『かずー』

 「ヘイスァ、どうした?」

 『ハリネズミ』

 『足止め』

 『フライホイホイ』

 『すたこらさっさー』


 しばらく、ハリネズミ狩りを続けていたところ、対空砲火の引き付け役をしていたヘイスァ達から通信が入る。なるほど、どうやらハリネズミこと対空戦艦が殿になって、フライホイホイこと母艦を後方へと逃がす算段のようだ。確かに、既にこの宙域での戦況は決しており、今後を考えるならば少しでも戦力を温存したいという判断が下るのは必然だろう。


 「ハリネズミは俺が相手をする。ヘイスァ達は母艦を追ってくれ」

 『あーい』

 『まかせんしー』

 『ぎったぎたにー』

 『してやんよー』

 「それと、相手が降伏を申し出てきた場合だが。艦を捨て、『ディクソン』に降りる様に指示してくれ」

 『『『『りょ!』』』』


 降伏するのは自由だが、無価値なので捕虜を取るつもりは毛頭ない。なので、艦だけ宙に乗り捨ててもらい、乗員達には搭載されている小型艦艇を使うか、宇宙港を経由して惑星『ディクソン』に降りてもらう。完膚なきまでに敗北した彼らを、惑星の住民達が優しく受け入れてくれるかは、彼らの日頃の行い次第だろう。まさに神のみぞ知るってところだろうな。


 彼らが好き勝手できる衛星軌道上の軍事ステーションに関しては、1つ残さずきっちりと破壊をしておく。だから、ちゃんと現地の人達に頭を下げて、資源採掘のアルバイトでもさせて貰うといい。そうすれば、友軍が救援に来るまでならば食いつなぐことも不可能ではないだろう。……そもそも、救援が来ればの話だが。その時はその時で必死に考えて貰えば良い。良い人生の勉強になるだろう。


 「さて……。時間も惜しい。一気に片づけるか」


 鬱陶しい位には濃密だったハリネズミ共の対空砲火も、母艦の追撃へと移ったヘイスァ達にその多くが振り分けられた分、かなり薄くなった。それでも殿としてそれなりの数が残っているが、これらを平らげるのは時間の問題だ。


 直掩のランドグリーズ隊も、現時点で未だ被撃墜機はゼロを記録している。ヘイスァ達を守る為に被弾して後退した機体が10機ほど出たのみだ。常に搭載されている戦闘AIがアップグレードされているお陰で、その動きは目を見張るレベルで上昇し続けている。下手な有人機じゃ、時間稼ぎにすらならないだろう。最終的に、無人機には無人機を充てるしかなくなるだろうな。もしくは、味方諸共やるしかない。


 「……」


 対空砲火をかわすための急加速から、急減速。そし機体を横スライドさせつつ、背面の荷電粒子砲を周囲の敵艦へとお見舞いしていく。そこから、更に後方へと宙返りするように機体を制御しつつ、対艦刀を抜刀、荷電粒子砲により撃ち抜かれ爆散し果てる敵艦の閃光を目くらましに利用しつつ、残存艦との距離を詰めていく。


 荷電粒子砲なら、それほど場所を悩まずに撃ち込めるが、対艦刀はそうはいかないのが惜しい。駆逐艦~巡洋艦クラスまでの装甲ならば一太刀で致命傷までいけるが、戦艦クラスの装甲ともなれば追撃が必要となる。とは言え、単純に同じ場所へと斬撃を加えるだけなので大して難しい作業ではない。精々、敵艦との距離が近いと言うかほぼゼロなせいで対空砲火が鬱陶しいだけだ。つまり、大したことではない。


 通常の戦艦であれば主砲の下部にある弾薬庫を第1の目標とするが、対空砲マシマシのハリネズミの場合は艦橋か後方の機関部を狙うのが手っ取り早く済む。まぁ、艦橋だけだと艦内に戦闘指揮所があるので有効打とはなりにくいが、機関部を潰せば確実だ。……対艦刀とは言え、戦艦の厚い装甲を易々と切り裂けるのがそもそもオカシイとか言ってはいけない。


 絶えず変化する対空砲火の網を躱しつつ、遠近織り交ぜた攻撃で敵艦を減らす。僅かなミス、遅れが死に直結しており常に神経が擦り減る作業なのだが、独特の高揚感がそれを麻痺させる。どう見ても立派なバトルジャンキーです、本当にありがとうございます。


 さて、ヘイスァ達も無事に撤退を図っていた母艦群へと取り付いたようだし、最後の仕上げだな。既に、敵の艦載機群を薙ぎ払った友軍の艦隊群は、砲火を連邦軍の艦艇へと集中させつつある。圧倒的な数と火力による砲火の暴力は、装甲で劣る駆逐艦や巡洋艦の船体を五月雨の如く貫きピンボールの様に弾き飛ばしながら爆散させていく。装甲の厚い戦艦は、少しだけ寿命が長い。それを幸運とみるか不運とみるか。


 圧巻と言うか、哀れと言うか。無人艦ゆえの容赦ないその攻撃に晒される連邦軍の艦艇達。彼らは、最後にどの様な光景を目にしているのだろうか。少なくとも、それを見る側に回ることだけは絶対になりたくないもので。……勝つしかない、最後まで勝ち続けるしかない。


 それから30分も経たぬ内に、惑星『ディクソン』に駐留していた連邦軍の艦隊戦力は文字通り壊滅したのであった。質も数も連邦側が劣っていたとは言え、それでも攻め落とすまでにこれだけの時間が掛かるのだから、やはり連邦が決して侮れない大国なのは間違いない。勝って兜のなんとやらだ。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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