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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
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6-37:オペレーション・サジタリウス⑳

暖かくなってきましたね。もう直ぐ春ですよーと。

まぁ、宙だと季節感皆無ですが…。

 「ようこそ。……戦場へってな!」


 久しぶりの実戦だ。シミュレーションや実機訓練では無い、実戦特有の肌がひりひりとする感覚。そして、アドレナリン放出による形容し難い高揚感が全身を駆け巡る。雨あられの様に降り注ぐ膨大な数の砲火を掻い潜り、敵艦隊へと肉薄していく。


 帯同しているヘイスァ達は勿論のこと、ランドグリーズ隊もその砲火に絡めとられることなく次々と艦隊の懐へと入り込んでいく。ヘイスァ達の動きも大概なのだが、ランドグリーズ隊もまた見れば見るほどにイカレた動きをしているのが良く分かる。


 オッサンやヘイスァ達の操縦ログを解析し、集約したモノを学習させることで常時アップグレードしているとは聞くものの、やはり実際にこの目で見ると全く違う感想を抱くから面白い。特に、複数機での連携面が決して油断出来ない高レベルにあるんだよな。


 つうと言えばかあでは無いが、無人機であるはずの各機が各々の行動を互いに阻害すること無く、かと言って他者から読みやすい行動をするわけでもなく。あの高速機動下で、良くあれだけの緻密な連携が取れるものだと感心する。


 オッサンもヘイスァ達も、単独ないしペア程度での戦闘機動が前提だからな。何より、互いの意思を自然と読み合うことでカバーしあう特有の方法が連携する上での主体となっている。それを無人機が同様に再現するのはどう考えても不可能なはずなんだよ。


 無人機だからこそ出来るという見方もあるかもしれないが、そう簡単に言い切れる話でもないと思う。何て言うか、特有の感覚抜きに戦闘用の操縦プログラムだけであそこまである種の人間臭い連携が取れるのだから、ヤバいとしか言いようがない。


 「……まぁ、追い付かれる気は更々無いけどな?」


 フットペダルを踏みこみ、更に機体を加速させていく。ラーズグリーズとは全く異なる、『不知火』特有のより繊細で鋭敏な加速。右手側のサイドスティックで機体操縦を行っているのだが、コンマ1㎜、コンマ1秒でも操作をミスれば、機体は高速で回転する駒の様に制御不能になる程に、シビアな操縦が常に要求される。


 それをやってるオッサンもオッサンだが、それを設定したドクターもドクターだろう。ピーキーとか言うレベルではなく、これは完全にキチガイのレベルだからな?


 『かずー』

 『まー』

 「ヘイスァ、バイスァ。どうした?」

 『新型』

 『良い感じー?』

 「……あぁ。絶好調だぞ?」

 『ブイブイ』

 『言わせるぜー!』


 ヒャッハー等と軽いノリでお喋りしながら、次々と敵艦や艦載機を沈めていくヘイスァ達。敵からすれば真面目にやれと怒られるレベルなのだろうが、生憎こちらにそれを注意するヤツなどオッサンを含めて誰もいない。まぁ、命のやりとりしている最中にふざけるのかと、方々から怒られそうな話なのだが、彼女達にそれを言っても仕方が無い。


 そもそも、根底からして感覚が違うからな。倫理観だの良心だの、人の持つその辺りを自身と同じだと考えると、痛い目にあう。ヘイスァ達にはヘイスァ達独自のルールがあり、考えがある。それが、酷く人道に反する様に思えたとしても、彼女達には関係の無い話なのだ。


 まぁ、それをそういうものだと自然に受け入れられているオッサンも、ある意味で似たり寄ったりな存在になりつつあるのかもしれないが。敢えて醜い言い訳するならば、命のやり取りをしている時に倫理や良心なんて気にしている余裕などないってことだな。そんな悠長なことをしていたら、次の瞬間に鬼籍入り確定演出が待っている。それは、御免被る。




 両艦隊が砲火を交わし、敵味方の艦載機が激しく入り乱れる戦場。艦橋と機関部を撃ち抜かれ、小規模な爆発を船体の各所で繰り返しながら沈んでいく敵戦艦を背に、戦場全体を見渡す。ヘイスァ達は、各々の直掩であるランドグリーズ隊を率いて、縦横無尽に戦場を蹂躙している。既に大局は決しており、そろそろ下がらせても良いかもしれないな。


 旗艦から送られて来るデータを見る限り、此方の損害は皆無と言って良い程に少ない。最初から数と質で相手を大きく上回っている以上、当然の結果ではある。ただ、実際に戦闘の火蓋を切ってみないことには分からないことも多い。先のトンボビームではないが、予想外の事態ってのは往々にして起こるからな。


 「取り合えず、今回は特異な存在は居ないか……」

 『トンボ』

 『ナッシング』

 『アメンボ』

 『カワイイナー』

 「……」


 いや、アメンボを可愛いと思う感性がオッサンにはありません。それは君達だけのオリジナルなので、大事にしましょうね。って、何をボケているのか自分でも理解出来ないが、ヘイスァ達とやり取りしていると普通のことなので気にしたら負けだ。


 「ヘイスァ達は、そろそろ上がる段取りを付けておけよ。もう直ぐ、掃討戦に移行するからな」

 『あーい』

 『るーい』

 『そーい』

 『ばーい』

 「……」


 元気なことは非常に良い。ジャンプするピンクとか、キックするブルーとか、ダッシュするグリーンとかが居たような気がしなくも無いが、気にしたら負けだ。オッサンとの君との約束です。ヘイスァ達の世界観を理解しようとしてはいけない。彼女達の世界を覗き込もうとすると、向こうからも覗き返されるので要注意。


 真後ろから放たれた砲弾を右に避けつつ振り向き様に対艦刀で切り裂き、お返しに電磁投射砲で砲塔を黙らせる。それに、合わせ周囲の状況を再確認。既に、敵艦隊からの砲火は下火になりつつあり、艦載機の動きも鈍化している。特に、今回の戦では指揮命令系統を狙って集中的に叩いている訳ではないので、単純に士気が低下しているのが原因だろう。


 それでも、粘り強く抵抗を続ける艦は存在するので、1隻ずつ確実に無力化していく必要はある。砲塔、艦橋、機関部を撃ち抜き、ダメ押しとばかりに対艦刀で損傷を与える。だが、敵艦が爆散するまで執拗に攻撃を加える必要はない。沈めるのは、友軍艦隊か艦載機隊に任せれば良いからな。役割分担はマジ大事。


 攻撃と回避を繰り返しつつも、決して足を止めることはしない。しないと言うよりかは、してはならないと言うべきか。どれだけ砲撃の密度が下がろうとも、ゼロにはならない。それに、下手をすれば味方の砲撃を浴びる破目になるからな。こちらが避けることを前提にバカスカと撃ち込まれるそれは、時と場合によっては敵より厄介なのが偶に傷。……いや、普通なら味方のいるエリアに砲撃するのはアウトなんだが。


 まぁ、オッサンもヘイスァ達も、それらを易々と掻い潜る訳でして。不幸なのは、狙われる敵さんだけって言うね。同情します、でも遠慮はしません。だって、戦争だもの。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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