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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
332/336

6-35:オペレーション・サジタリウス⑱

鹵獲した例の兵器の解析編。

 「ヴィストリー?」

 「はい。鹵獲した機体のシステムを解析したところ、開発コード名としてその名が登録されていました」

 「なるほど。それで、今の段階でのラボとしての見解は?」

 「その件に関し、こちらで得られたデータを基にドクターラクランと協議しました。恐らく、連邦の技術に、銀河連邦自体の兵器をリバースエンジニアリングして得られた知見を重ね合わせたものかと」

 「そうか。このヴィストリーの開発元については?」

 「其方に関しては、現時点では残念ながら不明です。パーツに製造拠点を示す刻印等もありませんし、システム内にも開発コード名以外に特質すべき情報は何有りませんでした」


 先の戦いで鹵獲した、連邦の謎の兵器であるトンボビーム(仮)改めヴィストリー。輸送艦内で行われていたラボ要員による解析が粗方終了し、その報告を自室にて受けているところだ。現時点では、開発コード名が判明した事と、その根幹となる技術についてある程度の目途がたったというところか。


 「聞く限りだと、量産機と言うよりもデータ収集を目的とした試作機に近い形か?」

 「はい。4機とも根幹となるシステムは同じでしたが、機体構造に関しては細部で異なる形状の部分を複数箇所あることを確認しました。また使用されている部品に関しては、素材やサイズに幾つか違いがあります。こちらに関しては、有り合わせの部品を使用している可能性もあるかと」

 「人目に付きにくい辺境でテストをしていたら、俺らが現れて慌てたって感じかな」

 「かもしれません。それと、搭乗員達についてもご報告があります」


 報告を聞く限り、辺境ゆえに人目に付きにくいことを利用して、色々と実証データを収集し将来的な量産機の開発に繋げようとしていたのだろう。機体形状の違いは、機体の操作特性にも影響するしな。部品に関しては、量産が開始されていない以上は既製品を流用するしかないわけで、ある物を使っているとみるのが妥当かな。


 で、問題はそれらを運用していた8名の搭乗員達だよな。わざわざ報告してくる辺り、何かあるとみるべきか。ここで重い問題とか言い出さないでくれよな。


 「それで、搭乗員達については?」

 「通常の尋問では何も答えなかったため、自白剤を使用しました」

 「そこまでは、まぁ問題ないか。それで、内容は?」

 「彼らには、ここ数か月程度の記憶しかありませんでした。恐らく、情報保持を目的として外的手段を用いて記憶が削除されたと推察します」

 「……なるほど。確かに記憶そのものが無ければ、万が一の際に漏洩する情報は減るか」

 「はい。彼らが答えらえれたのは、ヴィストリーの操縦や整備方法など搭乗員として最低限必要な情報のみです。逆に、これまでの経歴や軍歴は勿論のこと、生まれた場所や家族、自身の年齢や氏名すら覚えていませんでした。それと、身体能力向上を目的とした複数の薬物投与も確認されています」


 記憶の削除に、薬物投与による身体強化と。どこぞの世界の強化人間か何かですか? 名前すら無いって事は、実施的にヴィストリーの生体パーツ扱いってことだろ。兵器開発にそこまでするものなのかって言いたいが、切羽詰まっていればやるのが人間か。或いは連邦としては、その程度のことは問題にならないってことなのか。


 何れにせよ、胸糞悪い情報であることには変わりない。これで打ち止めなら良いが、大抵の場合はまだまだ序の口ってところだろう。むしろ、今まで戦って来た中にもこの手の連中がいた可能性もあるか。まぁ、それに関してはどうにもならないことではあるが。一先ず、元凶は探し出して排除することは決定だ。


 「……搭乗員達は様子は?」

 「現在は、落ち着いています。投与されていた薬も、所持していた現物を成分分析した限りでは服用を止めても命に係わる様な品ではありません。記憶に関しては、復元は困難かと思われますが日常生活へと復帰することならば可能かと思われます」

 「分かった。一応、情報保持の観点から暫くは艦内で捕虜として留置する。然るのち、何れかの惑星で解放する線でいこう」

 「承知しました。では、その様に諜報部門とは認識を擦り合わせておきます」


 負担になるので、出来る限り捕虜は取らないことにしている。とは言え、情報漏洩のリスクは減らさざるを得ない以上、暫くは艦内で留置するのが得策だろう。下手にその辺の惑星なりに降ろして余計なことをベラベラと喋られるのも面倒だからな。まぁ、今さら彼らが見た程度の内容が漏れても問題は無いが念には念をだ。


 「そうだ。話は戻るけど、例の兵器『ヴィストリー』は実際のところ性能としてはどうなんだ? これまでの連邦軍の艦載機と比べ、脅威になりそうか?」

 「機体そのものは、実機の解析と戦闘データの解析を見る限り脅威としてはかなり低いと、ラボでは判断しています。機体特性がこれまでの艦載機と大きく異なる点も機種転換の際に問題となるでしょう。それに、そもそも機動性の低さが致命的かと」

 「なるほど。兵装については?」

 「解析した限り、威力を除けば直ぐに脅威になるとは言えないかと。冶金技術の問題で、耐久性に問題があり砲身寿命や連射速度、そして威力に大きな制限が発生しています。また、構造が複雑で部品数も多いために整備性に難があり、現状ではあれ以上の小型化も難しいでしょうからコストの面でも既存の兵器を凌駕出来ると言えません」


 解析結果を聞く限り、現時点での脅威度はどちらかと言えば低めとみてよさそうだな。勿論、技術レベルが上がり知見が蓄積されていけば話は別になる。それまでに、開発拠点を叩き潰すのが先決だろう。そして、可能な限りの範囲で関連する情報を消去したいところ。


 「それで、威力に関しては?」

 「何度か試射を行った結果、制限内での最大出力かつ適正距離内での直撃であればミディールの標準装甲は勿論のこと、装備しているシールドも破壊出来る威力があることが判明しました。とは言え、角度をつけて受け流してしまえば表面装甲の融解程度で済みますので、脅威になり得るかは判断に悩むところです」

 「極端な話、実弾兵器もそうだけど当たらなければどうってことないしな」

 「はい。巡洋艦や戦艦クラスで運用される主砲の直撃を受ければ、同じ結果となります。ですので、こちらも必要以上に脅威として警戒する必要は無いかと」

 「注意するに越したことはないが、囚われ過ぎるのも問題か。分かった、一先ずは、頭の片隅に置く程度にしておこう。引き続き、何か分かったら報告を頼む」

 「了解しました。では、失礼します」


 報告を終えたラボ要員が立ち去り静けさを取り戻した室内で、1人座席に腰掛けて得られた情報を整理していく。これまでには無かった兵器の登場。長引く戦争によるものか、或いはオッサン達が介入した結果として引き起こされたものなのかは不明だが、少なくとも連邦だけでなく共和国や帝国でも、同様の事態は起こり得ると想定しておいた方が良いだろう。


 時間は此方の味方であると同時に、敵の味方にもなるか。いやはや、厄介だね。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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