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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
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6-33:オペレーション・サジタリウス⑯

懲罰艦隊のお話はこれにて終幕。

次話より、ソフィー、一馬視点に戻ります。

 それは、文字通りの蹂躙劇であった。戦艦も母艦も、駆逐艦も巡洋艦も。その全てが、次々と光に貫かれ一方的に沈められていく様を、レイモンド准将はただ茫然と旗艦『フォーダイス』の艦橋で見つめるしかなかった。


 「これが……、戦いだと言うのか?」


 最初はいきなりの事で混乱が発生したとは言え、時間が経てば初期の動揺から立ち直り特別艦隊は猛然と迎撃を開始した。しかし、それらを易々と掻い潜りまるで嘲笑うかのように数多の同胞らを容易く屠り続ける悪魔達の姿は、その光景を目にしている者達に希望ではなく絶望を抱かせるには十分過ぎた。


 「はははっ……、終わりだ、もう終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ……!」


 膝が笑ってしまい、涙を流しながらまともに立っていることすら出来なくなったレイモンド准将を、ミッチェル中将は片手で支えながら艦橋の外を見つめていた。彼の瞳にも既に力は無かった。ただ、目の前の光景を見つめるだけである。最後のその一瞬まで、ただ見届けんと。


 「これが、今の戦なのか……」


 ミッチェル中将のその呟きに答えられる者は誰も居ない。誰もが、己の職務を半ば放棄していた。余りの光景にやるべき事を忘れたかのように。これが戦闘艦の艦乗り達であれば或いは違ったであろう。だが、彼らは船乗りであった。それが、如実に出てしまっていた。だが、彼らを責めるのは酷と言うもの。


 「……時代は、我らをこうも遠ざけるのか」


 自身の職務に誇りをもっていた。それは今も変わらない。艦乗りから船乗りだと嘲笑われようとも、己の職責を果たすことで軍人として祖国に貢献出来ると信じていた。それは今も変わらない。光の当たる場所では無いと後ろ指さされたこともあるが、それでも良いのだと自身を鼓舞した。それは今も変わらない。変わらない。


 「……」


 レイモンド准将を近くの席に座らせたミッチェル中将は、再び艦橋の外へと目をやる。船体の各所から小規模な爆発を繰り返しながら直ぐ目の前を斜めに横切っていく巡洋艦の最後の姿。あの艦の乗組員達は無事に脱出できたのだろうかと、その姿を目で追いながら他人事のようにぼんやりと彼は考えていた。目の前の出来事が、何処か遠い世界の出来事であれば良いのにと本気で思ってしまっていた。


 STF司令部要員達が半ば茫然自失として指揮を出せずにいる中でも、多くの艦は独自に戦闘行動を継続していた。当然だが、彼らとてただ今を生き残る事に必死だったのだ。無数の砲火が宙を照らす。だが、その合間を緻密に、時に大胆に掻い潜り返礼とばかりに返す精密な砲火で次々と勇猛果敢な艦達を血祭りに上げていく『ラーズグリーズ』。


 「計画を壊すもの」とは良く言ったものであり、正に共和国の懲罰艦隊はその計画を艦隊丸ごと物理的に破壊されようとしていた。無論、『ラーズグリーズ』だけが彼らを襲っていた訳ではない。彼らが襲撃を開始した直後、先行していたSTF505-3はドクターラクラン旗下の艦隊に配備されている500㎜対艦砲による手荒い歓迎を受けていたし、両翼の艦隊(STF505-2、4)は待ち伏せをしていたシャンイン指揮下の艦隊とミディール隊によって文字通り横殴りにあっていた。


 皮肉な話だが、後方の支援艦隊だけが平穏無事であった。とは言え、彼らに今この場で出来る事など何も無かったが。最低限の自衛兵装程度しか持ち合わせない彼らは、ただ目の前の惨劇をジッと見ているしかなかった。今の幸運を全て捨ててまで手を出してしまえば、少しでも敵の気を引いてしまえば、次に蹂躙されるのは自分達だと理解しているからこそ。


 STF505は、圧倒的な暴力を前にただ狩られる時を待つ以外に術を持たなかった。




 「暇ですの……」

 「仕方が無いだろ。そもそも戦力差がある過ぎるからな」

 「左様。それに敵の指揮官達の足並みが最初から乱れているとあっては、結果はやる前から明らかですな」

 「そもそも、『ラーズグリーズ』が余計ですわ! 幾ら、ドクター的に再現度が低いとは言え共和国相手ではどう考えても無双ですもの」

 「まぁ、確かにアレはな……。相対する敵に同情するよ」

 「アレでも、まだまだ望むべく水準には到底及ばない代物なのですがな?」

 「……当の本人は、更に先を行っているとか笑えませんの」

 「「……」」


 戦闘の推移を要塞の司令室にて確認しているシャンイン達だったが、正直なところ暇を持て余していた。共和国軍の特別艦隊を、フォラフ自治国家の管理宙域まで引き付けた上で始めた迎撃戦は量産型『ラーズグリーズ』の襲撃に端を発し、これまでのところ全てが順調に推移をしていた。


 予想外の抵抗にでも遭えば、その都度ごとに必要な指示を出すことになるのだが、今のところ予定外の展開にはなっていない。元々、一定の戦力さえ揃ってしまえば共和国軍は苦戦するような相手ではない以上、今回の様に圧倒する戦力を展開させている戦闘では、苦戦にすらならないのであるから仕方が無い。


 「とは言え、油断はなりませんがな。古来より慢心は愚かな敗北を生むもの」

 「勿論ですわ。完勝すべき戦で手間取るなど、決してあってはならないですもの。特に、今回はわざわざ自治国家の管理宙域まで引き込んでいますから」

 「くだらん幻想を未だ抱いている連中には、良い薬になるだろうさ。……まぁ、効き過ぎても面倒だがな」

 「その辺は、自治政府の仕事ですわ。こちらの手を煩わせるようでは管理能力が無いと自白するようなものですもの」

 「まぁ、粗方掃除はしておいたんだ。残りカス位は自分達でどうにかするだろう」


 サウサンの指揮する諜報部門は、フォラフ自治国家内での清掃作業を粗方完了させつつあった。清掃中に多数の要人や役人、企業家や投資家、果ては一般市民までもが不幸な事故にあっていたが些細なことである。全ては、大きな流れの調整でありそれらは歴史の片隅にすら残らない。


 「ちなみに、ドクターはアレをまだ量産するつもりですの?」

 「そうですな。オリジナルに比べ機体整備が容易ですからな、手札としては悪くないかと?」

 「まぁ、確かに一馬の専用機の場合だと、専属の整備チームが必要不可欠だからな」

 「左様。とは言え、そのお陰で整備を担当する者達の技量が急激に上がっておりますがな。長期の派遣でなければ、複数チームでローテーションを組んで整備に当たらせたいところですが……」

 「その方が全体の技術向上に繋がるか」


 同じ機体でも、一馬が搭乗するオリジナルと戦闘AIが操縦する量産型では機体に掛かる負荷に大きな違いが生じる。どちらも整備を担当するアンドロイド達からすれば経験になるが、より多くの経験を積めるのは前者であった。その為、ドクターは要塞内で主に兵器類の整備を担当するアンドロイド達の中から人員を選別して専用機の整備に当たらせていた。


 「さて、無駄話をしている間に、良い感じに敵の数も減りましたわ」

 「そろそろ、仕上げですかな?」

 「頃合いだろう。障害になる連中は排除出来ている。次のフェーズへ進めるぞ」

 「では、後はお任せしますわ?」

 「あぁ、派手にやるとしよう。終わりだ」

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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