表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
329/336

6-32:オペレーション・サジタリウス⑮

先週はお休みいただきましたってことで、再び共和国陣営視点でお送りします。


次回は戦闘って言った? ごめん、それは次回の話だったよ。

仕方が無いよね。筆が勝手に進むんだから。

 STF505司令官の発言によっての司令部内に微妙な空気が流れてから暫しの時が経過し、いよいよフォラフ自治国家の母星たる惑星『ボッシュ』を視認出来る距離にまで彼らは進出を完了していた。しかし、未だ戦端は開かれてはいなかったのである。


 「これは……、嫌な宙だな。今すぐにでも全速力で引き返したたいところだよ」

 「中将、いえ司令。それが出来れば誰も苦労はしないかと?」

 「全くだ。どう考えても、相手は陣を引き終えてこちらを手ぐすね引いて待ってる状況じゃないか」

 「典型的な待ち伏せですな。道中で攻撃が無かったことも考えると、待ち受ける敵の戦力はこちらを圧倒しているかと」


 ボルジア共和国が関わった幾たびの戦争の最前線を殆ど経験してこなかったとはいえ、彼らもまた長い軍歴の多くを宙で過ごした一端の船乗りである。宙の様相を見れば、自然と分かることも多いのだ。そんな彼らの長年の経験が告げていた。この宙は、非常に危険だと。


 「どうやら、無能な情報分析官(インテリ)共は未だに敵の戦力を過小評価しているらしい」

 「彼らだけではありません。艦隊を預かる者達の中にも馬鹿が多い」

 「仕方あるまい。特別艦隊と言えば聞こえは良いが、各艦隊を預かる者達は何れも2線級、下手すればそれ以下だからな。後方支援が主の我々の方が、時と場合によっては下手すれば上になるとは断じて笑えん冗談だ」

 「同感です。とは言え、既に盤面が進んでしまった以上、我々が取れる選択肢は余りにも少ないですが」

 「……とんだ貧乏くじを引かされたものだよ、我々は」


 STF505は100個の機動艦隊から構成されているが、実際には25個ずつ4個の群艦隊とも言える形式を取っている。先頭を行くSTF505-3、両翼に展開しているSTF505-2・4、そしてSTF司令官であるミッチェル中将が座乗する戦艦『フォーダイス』を旗艦とするSTF505-1。


 状況が不確かな中での攻勢に慎重な姿勢を崩さないミッチェル中将に対し、他の群艦隊を預かる指揮官達は明らかに彼を下に見るような態度を隠さずに見せていた。2線級やそれ以下と称される指揮官であっても、最前線で戦っていたという役に立たない自負に後押しされた彼らは、一気呵成に攻めるべきだと強く主張しミッチェル中将と意見が対立していた。


 確かに、戦場における華は前線部隊であろう。しかし、彼らが十全に戦えるのはそれらを支える後方部隊があってのこと。だが、現実問題としてそんな彼らに対する評価は決して高いものではない。軍隊内では明らかに発言権に差がつき、出世も遅い。古今東西、兵站を疎かにして最終的な勝利を収めた軍など無いと言うに。


 「艦乗りの彼らは、船乗りの我々が気に入らんのさ」

 「戦闘艦と非戦闘艦。そもそも最初から役割が違うというのに、それすら理解出来ないとは愚かとしか言いようが無いですよ」

 「それでも、役割を果たさなければ我々に帰るべき場所は無い。つくづく早期に退役すべきだったと後悔しているよ」

 「同感です。どうせなら、退役して中将と共に運送会社でも起こせば良かったですかな?」

 「軍での経験を活かしてか? それも悪くはないな……、実に悪くないよ」


 彼らが見つめる宙の様相は急激に悪化していた。素人が見ると何かが起こっている様にはとても思えない宙。しかし、実際には表面上は穏やかそうに見えるだけで、その裏では大きく動いていたのである。蛇足だが、『艦乗り』とは戦闘艦に乗務している者達が自分達を称する呼び名であり、『船乗り』は非戦闘に乗務している者達を艦乗り達が嘲笑うための蔑称である。


 「さて、現実逃避はこれ位にして。何処から来ると思う?」

 「……そうですな。先ずは前衛艦隊に一当てか二当てでしょう。これで、意図は明確に伝わる。彼らが引っ掛かれば、次は最後方の推進剤運搬艦が狙われます。予め、攻撃を想定して当初より後方に下げているとは言え、狙われない道理は無いかと」

 「前後が砲火にさらされれば、両翼は嫌でも浮足立ち陣形が乱れる。そして、次は……」

 「我々でしょうな。開戦直後に頭を潰し、後は残りの艦隊が立ち直る前に掃討戦へ移行するのみ。無論、彼方さんがそれだけの戦力を有している場合ですが」

 「持っていないでくれと願いたいが、望みは薄そうだな」

 「……宙が荒れていますからな。これは酷い嵐が来そうだ」


 彼らが予想する敵の戦術は、謂わば艦隊戦における教本通りのもの。しかし、STF全体の意思疎通に難があり、何よりも彼方此方の艦隊から集められた寄せ集め集団である以上、それは非常に効果的な戦術であった。


 「行方知らずの星女とやらに、願掛けでもしてみるかね?」

 「パルメニアの星女ですか? 中将が、そこまで信心深い方だとは知りませんでしたな」

 「いや、特にこれといった信仰心を持ち合わせている訳では無いがね。ただ、今日まで幾度もギリギリの状況をやり過ごしてきたが、流石に今回は厳しいそうだ。それなら、人生で一度位は本気で祈るのも悪くないと思ってな」

 「なるほど。では、私も祈りますかな」


 特段、信仰心を持っている訳ではない。だが、今の状況が自然と彼らに祈りを捧げさせることとなる。静かに目を閉じ、祈る2人の姿を見て司令部の他の要員達も目を閉じた。明確に見える先のビジョンを否定して欲しいと、切に願いながら。




 「……先行するSTF505-3。間も無く、フォラフ自治国家管理宙域に入ります。以前、敵影確認出来ず」

 「何処まで引き付けるつもりだ? まさかフォラフの宙域で砲火を交えるとでも言うのか……」

 「分かりません。ですが、このまま何も無いとは……」


 ミッチェル中将らが祈りを捧げてから暫し、未だに彼らは攻撃にさらされてはいなかった。宙は痛い程に荒れ模様だというのに、異常な静けさが未だに支配している。それは、明らかな異常だった。異常なほどの異常としか言いようがない事態。


 じっとしていられず、司令部を離れ艦橋に上がってきたミッチェル中将らの視線の先には、未だ閃光1つ確認出来ない不気味な程に静かな宙が広がっていた。待ち構えているにしても、ここまで惑星に近づけさせるものなのか。そんな疑問が誰の脳裏にも浮かぶ。本当に敵はいるのかとも。


 そんな慢心でも油断でも無い、僅かな心理的な隙。その絶妙な隙を狙ったかの様なタイミングで、ソレは彼らの目の前に現れた。


 「えっ……」


 それが、誰の呟きだったかは分からない。ただ、艦橋を覆う強化ガラスの向こう側に、忽然と姿を現したナニカ。灰褐色で塗装されたソレは、人で言う処の頭部と思しき場所から見る者に心理的な圧迫感を感じさせるような赤黒い光を発しながら、彼らを見ていた。


 人を模したと思しき胴体に、戦闘艦に搭載されている砲塔を無理矢理取ってつけたかの様な異質の姿をしたソレ。しかも、目の前の1機ないし1体だけでなくその背後にも、複数その姿を確認出来た。


 「て、てき……?」


 この様な異形の味方など知らない。ならば、目の前のコレは何だ? コタエは簡単だった。敵地に置いて、味方で無いならば……。それは敵に他ならないと言う事に。だが、彼らが声を発するよりも早く、目の前の人型を模した異形は行動を開始した。


 ミッチェル中将等は到底知り得ぬ事だが、目の前のそれら異形はランドロッサ陣営において一世代前の司令専用機であった『ラーズグリーズ』を無人機に改修した上で、ドクターが趣味で量産したモノである。そうして、今回の戦闘に投入されたのは初期量産型の12機であった。


 機体操縦は、ランドロッサ陣営のトップたる香月一馬の戦闘データから構築された戦闘AIが担い、変態とも言われる彼の操縦特性を多くの部分で模倣するレベルに至っていた。それでも、オリジナルには到底及ばないところが、彼の異常とも言える操縦センスの突出具合であるのだが。とは言え、相対することになるミッチェル中将等には理解できないことであるが。


 各機が、10基ずつ搭載された複合ユニットを周囲へと展開させていく。120基の複合ユニットが展開し、それぞれが照準を合わせ終わった段階で、漸くミッチェル中将は初期の動揺から立ち直り腹の底から叫び声をあげた。


 「て、敵襲!!!!」


 その叫び声と同時に合計で240門の200㎜ビームキャノンが火を噴いた。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ