6-27:オペレーション・サジタリウス⑩
シールドは投げるもの。
「バイスァ! 応答しろ!」
『ういー?』
「無事か!?」
『バッチのグーよ! かずまーよりトロトロちゃん』
「……そうか。機体の方は?」
『見てから余裕だったし、ノープーだぜ』
突然の事態に動揺させられたが、どうやらバイスァは無事の様だ。機体にも問題無いのであれば、彼女が言った通り発射されたのを見てから回避が出来たのだろう。射撃重視の機体とは言え、相応の機動性を有しているし、彼女の腕前ならそれ位はどうとでもなる。
とは言え、流石に今の不意打ちには肝を冷やしたけどな。あの緑色の光……、光学兵器だよな? 幾ら、辺境のド田舎にあるコロニーとは言え、あの様な兵器が配備されていればサウサンが気が付かないとは思えない。そうなると、前回のコロニー襲撃事件と同様に何らかの力と言うか、下手するとあの管理者辺りが小細工していたと見るべきかもしれん。
コールマフ連邦が独自開発したのか、或いはかつての銀河連邦の技術のリバースエンジニアリングにでも成功したかは不明だが、偶然か必然かは別として何れにせよ此方側へと情報が漏れないようになっていたのは間違いない。前者なら連邦はまだまだ運があると言うべきか、はたまた今回のことで露呈してしまったのだから悪いと見るべきか。後者ならば、状況によって厄介なイベントが誰かしらの意図の下で適宜発生することになる。
ここ最近、順調だったからシステム的なバランス調整が入りましたとかだったら本気で笑えん。色々な事前想定が狂う可能性が高いからな。一先ず、目の前の問題を片付けてから皆に相談するとしよう。
『かずまー』
「どうした?」
『アレ、どーすっと?』
「あー、どうするかな」
バイスァの言うアレとは、光学兵器を用いて攻撃してきた何とも形容し難いデザインのことだ。何て言うか、巡洋艦クラスの砲を腹に抱えた宙とぶ羽虫とでも言うべきか。アレだ、砲に蜻蛉を合体させたみたいな感じと言えば良いな。
光学兵器の威力は現時点では不明なれど、アレだけの大きさの砲を有している割にその光の太さは大したことが無い。ミディールが実戦運用している光学兵器よりも、下手すれば細いレベルの光線って感じだな。機関や冷却システムの限界なのか、はたまた威力を上げる為に収束させているかは不明だが……。
「数は、全部で4機か」
『そー、皆ウスノロ過ぎ』
「バイスァ。一先ず、盾持ちを射線に晒してみてくれ。威力を確かめたい」
『アイ!』
「バイスァは念の為、後退しておけ」
『あーい』
バイスァに同行させているミディール1個大隊から、拠点防衛仕様の機体4機がそれぞれのトンボビーム(仮称)へと向かっていく。狙われた側のトンボビーム(仮称)は、向かってくるミディールに気が付いたのかノロノロと回避行動を開始した。回避行動に移るってことは、そう直ぐには次弾を発射出来ないと見て良いのか? 或いは、逃げる振りをしてこちらの油断を誘っているのか。
4機のミディール改は、それぞれの標的に対して決して当てない様に絶妙な牽制射撃を行っている。それらの弾幕から、這う這うの体で逃げ惑うトンボビーム(仮称)。それにしても、砲が機体側よりも大きいせいか動きがかなり鈍いな。アレでは、待ち伏せ程度でしか役に立ちそうに無いが……。
『逃げてばっかー』
「そうだな。もう少し、距離を詰めるか?」
『逃がなさいー?』
「あぁ。出来れば、解析用に最低1機は鹵獲したいな。そうだ、羽を捥ぐか」
『あーい。敵を、狙いう(以下、自主規制』
バイスァ機のビームキャノンが火を噴くと同時に、狙撃仕様のミディール改がタイミングを合わせた統制射撃を行い瞬く間に4機のトンボビームを叩き落とした。いや、バイスァも大概だけどミディール改の射撃性能もえげつないレベルになってないか? 結構、難しいシチュエーションだったと思うけどね。
幾ら、狙撃仕様の機体とは言えだ。ランダム回避中の敵機体の羽部分のみを、寸分の狂いなく狙撃するとか流石にイカれてるよな。バイスァ? 彼女はまぁ、アレだ。うん、諦めよう。愉快系アイドルグループに常識とか求めるだけ無駄だ。彼女達なら、世の物理法則とかも一切合切無視しそうだし。
「お見事。お疲れさん。鹵獲はミディール隊に任せて、バイスァは帰投してくれ」
『あーい!』
「……念のため、自爆にだけは注意しておかないとな。ヘイスァ」
「任せとき―。必殺、グルグル大車輪!」
「……」
突然、ヘイスァの口から出たグルグル大車輪という謎のワード。意味不明だが、彼女なりに何か意味があるものなのだと思いたいところ。それが相手の自爆を防ぐのにどう効果があるのかも分からんが、御機嫌な彼女にそれを聞いたところでまともな返答がくることは無いので、そっと流すのがベスト。
「ナウッ! ぐーレぇイとー!」
「えぇ……。いや、それは後で整備班に怒られるだろ」
「な、何だってー!?」
「いや、シールド投げちゃったし」
「なんじゃこりゃー」
「それは、整備班のセリフだな。もしくは俺」
「やっちったー」
何て事は無い。グルグル大車輪とは、ミディール改のシールドをぶん投げて相手に中てるだけの荒業だった。一応、操縦席らしき場所はしっかりと避けているみたいだが、質量のあるシールドがそこそこの勢いで衝突した影響で、結構な凄い勢いで横回転しながら吹っ飛んでるんだが。それを、スラスター全開にして追い掛けるミディール隊と言う、もはやカオスで意味不明な光景がモニター上にひろがっていた。
「中身失神! 作戦成功!」
「……」
……いや、まぁ結果的に自爆は阻止出来たんだろうけど。どうなのよ、シールド投げちゃうってさ? そりゃね、相手の意表をつく手段としては悪くは無いと思うよ。オッサンも、ギリギリの戦いだったら選択肢に上がると思うしね。でも、相手を鹵獲する際にそれはやらないかな。
まぁ、他に良い手段が無いってのはあるけどさ。艦艇なら砲弾型の電磁パルス兵器で相手の電子機器類を根こそぎ潰してしまえば、抵抗手段はほぼ奪える。後は、陸戦隊で内部を制圧するだけだしな。回数は少ないけど、ノウハウは得ている。
一方の兵器の鹵獲だけど、考えたら今まで相手方の兵器類って鹵獲した経験が皆無かもしれない。一応、砲弾型以外にも魚雷型やミサイル型の電磁パルス兵器が実戦配備されてはいるけど、あれらは基本的に対艦での使用を想定した特殊兵装になる。これは、ドクターに大急ぎで開発を頼む必要がありそうだな。そう何度もシールド投げされたら、彼方此方からクレームの嵐になるのは間違いない。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!




