6-24:オペレーション・サジタリウス⑦
前回に引き続き、ソフィー視点からお送りします。
裏では色々とサウサンが暗躍していますが。
戦いは数だよって言った弟もいましたが、ランドロッサ陣営のように数と質が両方揃うとマジでヤバいです。
「ソフィー様。サウサン様より通信です」
「繋いでください」
「はい。正面モニター、映像でます」
コロニーレーザーの照射からそう間を置かずにサウサンからの通信が届きました。凡その戦況分析が完了したので、照合をといったところでしょうか。モニターに映し出された彼女の表情からして、特に想定外の事態が起きたという線は薄いようですね。
『悪いな、忙しい時に』
「いえ、構いませんよ。如何なる時も、情報の共有と更新は最優先ですから」
『あぁ。で、コロニーレーザーの戦果だが、此方で観測した限り前線拠点は完全に消滅した。周囲にいた艦隊も同様だな。全体の損害としては、事前の想定より幾ばくか多い10万程度といったところだ。艦載兵器に関しては詳細は不明』
「そうですか。予め、こちらのコロニーレーザーへの対応策を取っていたはずですが、損害が増加した要因は?」
『照射直後、慌てて回避行動を取った艦同士の衝突が主な原因だな。どうやら事前の想定より、陣形を崩してはいなかったらしい。……まぁ、こちらの艦隊ごとコロニーレーザーを照射されると想定していなかったのだろうがな』
「なるほど」
前線拠点の消滅。これでコロニーレーザーはその役割を完璧に果たしました。その他の損害が増えたのは、結果として悪くはありません。残存勢力を掃討する時間が僅かなりとも減りますから。後は、敵の指揮命令系統にどの程度のダメージを与えられたかですが、期待薄でしょうね。
「それで、敵の頭はどの程度まで潰せましたか?」
『……そうだな。予定より多くの参謀や将校クラスが、事前に拠点から離脱している。結果的に、指揮命令系統への混乱は少ない』
「なるほど。流石に、頭が一気に失われることは回避しましたか」
『あぁ。とは言え、前線司令官は拠点と最後を共にしたがな。……生き残った所で未来は無いが』
「ですね。それで、レーダーを見る限り、敵は未だに戦力の集結を進めている様子はありませんね。傍受している通信では何か?」
『あぁ、どうやら戦力の分散は維持しつつ迎撃陣形のまま後方へと後退する腹積もりのようだ。後方からの支援が期待できないとなれば、自ら向かうしかないからな』
この辺りも特に問題は無いでしょう。指揮命令系統の維持は、戦争において必須事項。これを怠る軍など、烏合の衆と何ら変わりはありません。訓練された軍隊というものは、トップが変わろうとも指揮命令系統さえ維持されていれば、相応の結果を出せますからね。
事前に、恐らくNo,2かその次席辺りを離脱させておけば指揮権の移譲自体はそれほど難しくはありません。その他の将校クラスも同行しているのなら尚更のこと。実質的には、コールマフ連邦軍前線拠点の司令部は生きていると言っても良いでしょう。
さて、後方へ撤退する敵勢力をどのように効率良く殲滅していくかですね。基本的には、ある程度の規模の艦隊は私のα任務部隊で叩き潰し、小規模な艦隊や非武装艦を多く抱える艦隊はサウサンの方で片づける手筈とはなっています。
一馬さんからは、適度に間引きつつ撤退をそれとなく援護してやれとの指示はされていますが……。露骨にやると相手が調子に乗る可能性もありますし、かと言ってボルジア共和国やワルシャス帝国に落ち延びられたり、宙賊にでも身を堕とされるのも厄介。
……その辺のバランス取りが中々に難しい局面になりそうですね。まぁ、数値的な指示は受けていませんので、程々で良いでしょう。
「一先ず、当初の予定通りに殲滅を分担する形で問題ないですね?」
『あぁ、それで問題ない。どの程度の戦力を見逃すかは、各々の判断で良いか?』
「それで良いと思いますよ? 一馬さんからも、特に数値的な指示は出ていませんし。要は、後方の最大勢力に、前線から逃げ帰った勢力がいい感じに混ざればよいだけですから」
『あるいは、意地を見せ何れかの宙域で前線を敷き直すかだな。そうしなければ、後方に拡がる戦力の空白地帯を此方は素通りだ』
「そうですね。その可能性も大いにありますし、一馬さんがそれを期待されている節もありました。何度、前線を敷き直そうともそれら全てを正面火力で文字通り叩き潰す。相手の心を折るには良い手段です」
何れかで前線を立て直すか、或いは一目散に惑星『トゥーラ』周辺の最大戦力を合流するか。その辺は、情勢次第だというのが一馬さんの考えでした。立て直しを図るならば、その分だけこちらとしては効率良く敵戦力を削れますし、急ぎ合流を果たしたとしても自然と軋轢が生じるでしょう。
たかが、1度やられた程度で臆病風に吹かれ逃げ帰ったのかと。
安全な後方で、ふんぞり返っているだけの連中に何が分かるかと。
陰口を互いに叩き合う程度でも士気に少なく無い影響を及ぼしますし、同胞として共同歩調が取れなくなればそれはそれで都合が良い。完全に纏まるという事は到底あり得ないでしょうしね。上層部がどれだけ言葉を掛けようとも、サウサンが裏から仕掛けを施していますから。
小さな嘘は何れ大きなうねりとなり、内側から蝕む猛毒となる。正面から火力で削り、内部からは嘘で削る。どれだけ強力な軍隊であろうと、どれだけ優秀な人材が揃っていようとも、相手が人である以上は打てる手があります。
目に見えない小さな傷、綻び、矛盾、疑惑、懸念、恐れ、怒り、悲しみ、欲、本能。付け入る隙は何でも良いのです。それを見つけだし、巧妙に焚き付け、消せぬ大火とするのがサウサンが得意とするモノですから。
『さて、ではこちらも予定通り進めるとしよう』
「準備は滞りなく?」
『あぁ、問題無い。彼方此方で、戦時統制下による人員不足や資材不足に起因した、避けられない整備不良による不慮の事故が起こるだけだ』
「通信やエネルギーに交通など、市民生活への影響が大きくなりそうね」
『……あぁ、戦時下で色々と不満が溜まっているだろうに、実に間が悪いとは思わないか?』
「えぇ、その通りね。そして不平不満が溜まっているところに、良くない噂や出処不明の武器が市中に流れれば……」
『勝手に自分達から燃え上がるさ。互いが互いを疑い、警戒し、そして偶発的な何かが起これば』
「もう、止まらなくなる」
『後は、下り坂が終わるまでとめどなく転がり続けるだけだ。実に簡単で、効率の良い体制崩壊への一歩だな。無論、追加の燃料をくべるがな。勿論、お代は結構だ』
私達との開戦前から、軍事力を背景に勢力を拡大していた連邦は内部に小さな火種を幾つも抱えていた。それらが実際に着火しなかったのは、偏に軍事力という目に見える力による支配が形なりにも成功していたからに過ぎない。それらの圧倒的な力を前に、小さいながらも反抗心を抱いていた人々は、地下へと潜るか全てを諦めて受け入れるしかなかった。
対外的に連邦へと終止符を打つのは私達だろう。だが、実際に息の根を止める最後の一手は、名も無き市民達だ。彼ら彼女らの踏み出すその一歩が、決して解毒出来ぬ毒となって連邦を内部から蝕む。力を頼りに支配してきた者達は、虐げた者達から今度は自分達が踏み潰される番に回ることになることを教えらえる。その命を代価に。
一馬さんが、口にした因果応報という言葉通り。
体制が崩壊した後、どの様な形に移行するかは正直よめません。恐らくは、民主的な体勢へと移行することになるのでしょうが、上手くいくかは未知数。利害関係で分裂する可能性も高いですしね。そもそも、共和国や帝国が何もしない訳もないでしょうし。ある程度は両国の支配下に組み込まれ、残りが連邦の残滓として新たな歴史を紡ぐことになるでしょう。
何れにせよ、フォルトリア星系を実行支配していた三大勢力の1つが、歴史上の存在になります。残るは、2つ。最近の情勢から見るに、共和国は何れ自壊する可能性があり、連邦より手が掛からないでしょう。そうなると、最後に雌雄を決する相手はやはり帝国になりますか。まぁ、それは今は良いでしょう。
……先ずは、目の前の敵に集中しないといけませんから。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!




