6-23:オペレーション・サジタリウス⑥
戦闘回とは何だ(哲学)
一方的に、屠るだけです。
そして、最後のソフィーさん。素です。
「αR-3及びαR-4。何れも、コールマフ連邦軍前線拠点を射程に捉えました」
「充足率は?」
「R-3は79%、R-4は78%です」
「では、両基とも85%で照射を開始します。最優先攻略目標は、連邦軍前線拠点および関連施設群の掃討。艦隊戦力は、巻き込めれば御の字ですね」
一馬さんからお預かりしたα任務部隊。その初手は、隠匿しているコロニーレーザー2基同時斉射による敵前線拠点とその周辺施設の破壊。ここまでの道中では隠匿してきたコロニーレーザーを、わざわざ最初の一撃に利用して露見させるという、荒唐無稽とも言える策。そもそも敵の前線拠点は移動不可であり、通常の艦隊戦力でも多少時間が掛かるが問題無く破壊できるレベルでしかありません。
その火力からランドロッサ陣営にとって切り札たるコロニーレーザーを、最初から大っぴらに使ってしまう理由。一馬さん曰く、後のことを考えて場に伏せておく必要がいっさい無いからとのこと。そもそも、詳細なデータは別としても存在自体が既に露呈している以上、相手は必ず警戒をしてくる。ならば、絶対に回避不可能な目標を確実に1つずつ落とすだけの、通常兵器として運用した方が無駄が無いとのことでした。
戦略兵器あるいは戦術兵器たるコロニーレーザーを、ただの通常兵器として扱う。他の勢力では到底考えられないであろう、贅沢とも無駄とも言えるその運用方法。使用すればたちまち凡その位置を特定されてしまうものの、その巨体から生まれる射程の長さとドクター謹製の隠蔽システムによって本体の発見は非常に困難。
「前衛艦隊、遁走する敵艦隊と散発的な戦闘を開始」
「敵艦隊は、複数の宙域に分かれ小規模に集結しつつある模様」
「コロニーレーザーに対する、一番シンプルな防衛手段ですね。まぁ、そもそも狙いが違うので余り意味はありませんが……」
やはりと言うべきか、コロニーレーザーに対する対応策を講じてきたようだ。戦力の分散によって目標を絞らせないという、至ってシンプルな策。確かに、有効な手段ではあります。ですが、こちらの狙いは最初から敵の前線拠点のみ。自ら火力を削ぎ落とした敵艦隊は、拠点を潰した後で残らず叩き潰すとしましょうか。
「R-3、R-4。両基とも充足率83%に到達。これより、発射シークエンスを開始します」
「超長距離射撃モードへ移行開始。照射のため、第6から第12隔壁を閉鎖。最終照射位置、計算完了しました。本体位置、微調整に入ります」
モニター上に映し出されている、コロニーレーザーのモデル映像が少しずつ変化していく。本体そのものであり砲身でもあるコロニーの外壁部分がリング状の形を維持したまま合計3つ、本体から分離していく。分離したそれぞれのリングは、本体から一定間隔の距離を取って静止した。
「各リング、所定の位置に展開を完了しました。これより、低速での稼働を開始します」
「本体の最終調整が完了しました。充足率84%に到達。充足完了まで残り60秒です」
「それでは、最終セーフティを解除してください」
「セーフティ解除を確認。リングの回転率、30%を維持」
「砲身内温度、適正値を維持。冷却システム、正常に稼働中」
さて、それでは始まりの鐘をならしましょう。……まぁ、連邦にとってはその歴史に終止符をうつ終焉の鐘となりますが。先ずは、1つ。一馬さんの思う世界のために、戦況を進めます。
「砲身カバー、開扉完了しました。充足率85%に到達。ソフィー様、何時でも発射可能です」
「ありがとう、テトラ。ヤヴァナ、射線上の艦隊は?」
「全艦隊、所定通り戦闘を継続中です。コロニーレーザー照射による、友軍の損害は0.0003%程度(1万隻弱)です」
「分かりました。それでは、コロニーレーザー……発射!」
「αR-3、発射」
「αR-4、発射」
α任務部隊の両翼に展開していた2基の新型コロニーレーザーから、これまでのモノとは異なる赤い稲光を纏った光の矢が放たれる。その光は、宙を照らし艦隊を照らし、そして一馬さんの敵を撃ち滅ぼす。本体から放たれた光の矢は、3基のリングをそれぞれ通過する際に、リング内に発生している特殊な磁場の影響により、膨大なエネルギーを収束させると共に少しずつ異なる3方向への捻じれが加わり、その威力を増す。
「照射完了まで、残り40秒。命中まで、残り50秒」
「冷却システム、正常に稼働中。砲身温度、規定値内を維持」
「照射完了次第、カバー閉扉。各リングをドッキング後、砲身の冷却をしつつ現宙域を離脱します」
宙を切り裂き、突き抜ける光の矢を後目に次の行動を開始を進める。コロニーレーザーを通常兵器として運用する上で最大の問題は、砲身及び根幹となる機関部の冷却に時間が掛かると言う点ですね。流石に以前のコロニーレーザーに比べて冷却に要する時間は大幅に減少したとは言え、それでも数時間の冷却時間は馬鹿にできない。
一馬さん曰く、それもまた兵器運用の醍醐味だそうですが、その辺の感覚が私には分かりません。少なくとも、その数時間は無用の長物と化すコロニーレーザーの護りに幾らかの戦力を割かざるを得ませんからね。男性というのはロマンとやらを求めるイキモノだと言いますが、一馬さんもご多分に漏れずということなのでしょう。
……まぁ、補佐として支えがいがあると言えばそれもそうなのですが。命のやり取りの最中にロマンを持ち出すのは自重して頂きたいですね。
「コロニーレーザー、間も無く目標に着弾します」
「映像、切り替わります」
「……」
連邦軍前線拠点の直ぐ間近に潜伏している潜航艦から送信されている、今この瞬間の映像。照射に巻き込まれない様にそれなりの距離を取っていることで拠点とその周辺の様子が一瞥できますね。小さいですが、艦艇らしきモノが慌ただしく右往左往している様を見るに、コロニーレーザーの光が差し迫っている状況を理解はしているのでしょう。ただ、絶望的なまでに逃げる時間はありませんが。
「着弾、今!」
寸分の狂いも無く、同時に着弾した2本の赤白い光の矢。瞬くする暇すら与えない程の一瞬で、あの光に包まれた拠点は蒸発したことでしょう。そして、目標を消滅させた光の矢という膨大なエネルギーは、更に暫くは宙を突き進みつつその道中のあらゆるモノを塵に変えた後、光の粒子となって宙へと吸い込まれる様に消えていく。
「綺麗ですね」
「はいっ!」
「とても、綺麗です!」
どれだけの人間が、あの光の中へと消えたのか。それは分かりません。別に把握する必要もありませんしね。……でも、この美しい光景の礎となったのだとしたら、その命にも多少は価値があったということでしょう。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!
 




