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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
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6-22:オペレーション・サジタリウス⑤

戦闘回はまたしてもお預け。

次回、ガチンコ殴り愛。

宙に、2条の光が奔る。

 その日、ボルジア共和国軍と対峙するコールマフ連邦軍の前線拠点内部は朝方から喧騒に包まれていた。それらの原因となっていたのは、敵情偵察のために出撃していた艦隊が何れも通信を途絶したことにある。無論、発見されるリスクの高い敵情偵察である以上は相応の損害が出るのは決して珍しくはない。


 だが、それでも偵察部隊が軒並み消息を絶ったとなれば話は別だ。何らかの急報すら発すること無く、突如として多数の偵察部隊が多方面で同時多発的に通信途絶する。タイミングが揃い過ぎていることからも機器の故障などで無いことは明白であり、一方で前線にて相対するボルジア共和国軍は国内の混乱の影響ゆえか、直近で大規模な攻勢に出る兆しは無いと情報部から報告が前線拠点へと上がっていた。


 では、それ以外の原因は何かと言われれば、1つしか無かった。自らを平和維持軍と呼称し、連邦へ宣戦布告してきた武装勢力。ランドロッサなる者達の仕業でしか無かった。連邦とは異なる技術体系を有し、通信の遮断や、存在の隠匿など少数が多数を相手取る上で重要となるそれらの技術に長けていると推定される敵対的な存在。状況からして、彼らが大きく攻勢に出たのだと、前線拠点を預かる上層部の者達の考えは直ぐに一致した。


 「長距離レーダーに感あり!」

 「規模は!」

 「正確な数は不明ですが、推定150万前後! ……い、いえ。さ、更に規模増大!」

 「解析を急がせろ! 停留の艦隊は全て緊急発進!」

 「前線の艦隊に転進命令! 敵の戦術兵器への備えを急がせろ!」

 「防衛ラインは、プランD-2を選定! 機雷散布率35%!」

 「本国への通信急げ!」


 偵察部隊が消息を絶ってから時を置かず、前線の各地へと設置されていた長距離レーダーが艦艇と思しき多数の反応を感知した。当たり前の話だが、戦時中であり悠長に相手の正体を確認してから動こうとするマヌケは此処にはいない。


 現時点で最低でも150万隻の戦力であり、更に増加しているとなると全体では如何ほどになるか。上層部の懸案事項はこれだった。これまでの戦闘で、少なくとも200万~300万隻前後は有していると分析していたが、今の状況を鑑みるにその数値は確実であると断定しても言い過ぎとはならないだろう。


 それに、問題なのは数だけでなく個々の艦の性能差にもあった。明らかに、連邦軍の艦艇の方が性能面で劣っているのである。連邦中枢部にはそれを決して認めないバカも多いが、少なくとも此処には皆無であった。1対1では確実に負ける状況であり、多数対1でどうにか抑えられるといった塩梅。護る側が、最低でも数倍の戦力を有していなければ戦況を拮抗させることすら厳しい戦いになるのは明らかであった。


 現時点で、ボルジア共和国との前線付近の宙域に展開しているのは予備戦力も含めて凡そ700万隻前後になり、惑星『トゥーラ』防衛に当たっている戦力の次に規模の大きい集団となっている。とは言え、それはあくまでも補給艦等の補助艦艇も含めた総数であり、純然たる戦闘艦はそれよりも少ない。敵の数、そして性能差を考えると決して落ち着いて戦況の推移を眺めていられる状況では無かった。


 「依然、正体不明いえ敵性勢力の数は増大中! 推定200万!」

 「戦術兵器はどうか!」

 「現時点では、艦艇以外の反応は感知できず!」

 「前線艦隊、転進を開始! 全艦隊転進まで720秒!」

 「転進を急がせろ! モタモタしていると、一気に喰われるぞ!」


 決して広くは無い前線拠点の司令室内を幾つもの言葉が飛び交う。報告であり、確認であり、命令であり、その1つ1つが前線の連邦軍将兵の命に直結していた。特に司令室の彼らが恐れていたのは敵の戦術兵器であった。『光の柱』と仮称されているソレは、1撃で数多の艦隊を一方的に消滅に至らしめる文字通り悪魔の兵器であった。正面から防ぐ策など現時点では存在していない。


 勿論、ソレに対抗する策はあった。それは、シンプルに的を絞らせない為に自軍の戦力を薄くかつ広く展開させることである。どれだけ強力な、戦況を一変させてしまうだけの威力がある兵器であろうとも、広範囲を長時間に渡って攻撃し続けることは、エネルギー供給と各部の冷却面から到底不可能なのだ。故に、連邦軍は戦術兵器の有無がハッキリとするまでは戦力の拡散という、防衛戦においてはある種の愚行とも言える策を取らざるを得なかった。


 「敵性勢力、尚も増大! 推定250万!」

 「250万……。既にこちらの3分の1を超えたか」

 「こうなってくると、正面から撃ち合うのは厳しいな。半包囲しつつ数を削って勢いを止めるしかないか。それで退いてくれれば良いが」

 「本国からは何と!」

 「はっ! 『貴殿等ノ奮戦ヲ期待ス』とだけ!」

 「アイツ等は、相も変わらず過剰な戦力と共に奥に引っ込んだままか。既に数的有利には無く、これ以上の増援も無い。……まぁ、そもそも今から此方へ急行したところで間に合う訳も無いがな」

 「覚悟を決めるしかあるまい。此処を抜かれたら、『トゥーラ』防衛線まで纏まった規模の戦力は皆無。各宙域の駐留戦力だけでは、足止め程度にすらならないかもしれん」


 現在の連邦軍の戦力展開は、前線に700万、惑星『トゥーラ』及び軍需コロニー群とその周辺宙域の防衛に1千万、惑星『フォルマ』及び『イングリア』防衛に500万、その他の宙域に500万という非常に偏った分布となっていた。連邦本国中枢としては、ボルジア共和国との前線、後は政治・経済・軍事の中枢たる惑星と重要なコロニー群さえ護れれば良いという、実に分かりやすい意思の表れであろう。


 前線を超えてしまえば、次は何れかの主要惑星までほぼ抵抗戦力は存在しない。連邦中枢の偏った考え方も要因だが、連邦勢力圏のあらゆる場所で攻撃を行っているランドロッサ陣営の通商破壊艦隊も遠因となっていた。


 神出鬼没の通商破壊艦隊は、連邦中枢の者達にとって非常に頭の痛い存在であった。1度は軍の輸送艦隊を丸ごと民間籍に挿げ替える荒業でかわしたようにも思えたが、結局は被害は増大する一方である。結果的に、通商路は更に狭まりどうにか維持できているのは主要惑星間のみという状況にまで陥っていた。


 結果として、連邦軍艦隊もまた補給や整備のために状況の厳しい中継拠点ではなく、主要な惑星付近に腰を下ろすしか無くなっていたのである。主要な惑星を避けた航路を選べば、道中ほぼフリーパスであった。どれだけ強大の国力と膨大な軍事力を持ってしても、あらゆる場所を完全に護ることは不可能である。


 結局、護る場所と切り捨てる場所を取捨選択するしかないのであった。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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