6-19:オペレーション・サジタリウス②
前回の続き。愉快系アイドルグループは本当に勝手に動く。
コールマフ連邦勢力圏内にて、オッサン率いるβ任務部隊の先行艦隊が所属不明の軍艦100隻余りを発見してから、既に1時間余りが経過していた。現状、目立った動きは無く、距離を取ってレーダーで監視を続けている此方の先行艦隊が発見された気配も無い。
「……足の速い、駆逐艦と巡洋艦が中心か。偵察かパトロール?」
先行艦隊から適宜入る情報を見る限り、所属不明艦隊を構成しているのは駆逐艦クラスと巡洋艦クラスで、それ以外の補助艦艇と思しき艦が幾ばくかといったところのようだ。敵味方の識別が出来ない点を除けば、規模としては偵察艦隊かパトロール艦隊といった戦力規模だな。
ウチを除けば、どの勢力に所属する艦艇であろうとも万が一の事態を想定し、所属を示す識別信号装置が搭載されている。1隻や2隻なら未だしも全ての艦で装置が故障しているとは考え難い以上、意図的に切っているとみるべきだろうな。ここは、所属をハッキリとさせる為にも、艦影が確認出来る距離まで接近させるべきか。要塞のライブラリーと照合できるしな。
「ヘイスァはどう見る?」
「コロニー系?」
「コロニー系ってことは、自作自演部隊ってことか?」
「ザッツラー」
「ふむ……」
ヘイスァの言うところのコロニー系とは、先のコロニー襲撃を起こした連中と同等ってことだな。確かに、その線は十分に有り得るだろう。非常にリスクのある劇薬であるが、上手く作用すればその分だけ効果も高くなる。実際に、先のコロニー襲撃とその後の民間船へのテロ攻撃は、それなりの効果を発揮していた。
前回の成果に味を占め、次を計画したとしても特段おかしくはない。とは言え、先に述べた通り劇薬である以上、2回目は1回目ほどの効果は望めない。むしろ、勢力圏内を敵勢力に自由にされていると連邦政府側が突き上げにあう確率の方が高くなる。それでなくとも、通商破壊艦隊を抑えられていないからな。
「バイスァはどう見る?」
「マネっこ?」
「マネっこ?」
「そう。真似られた的なー」
「真似か」
真似された。この場合、ランドロッサ陣営の手口を連邦が真似したということだろう。そうなると、真似をしたのは恐らく通商破壊戦だろうな。まぁ、確かに普通の勢力相手なら非常に効果的な手段であるし、それらの対応に相応の戦力を割かざるを得なくなる。
ただ、ウチの場合はそもそも辛うじて勢力圏と呼べなくもない宙域が多少あるだけだし、既に哨戒用の専従部隊があるからな。ついでに言うならば、現在まさに戦力の増強中だったりする。流石に、駆逐艦と巡洋艦合わせて150隻じゃ少なすぎたからな。
「ランスァはどう見る?」
「ぼーめー?」
「沈みいく泥船から、我先に逃げ出したと?」
「軍艦、情報、手土産グー」
「その線もあるか」
艦隊全部だかその一部だかは知らんが、先を悲観し他勢力に亡命すると。機密の塊である軍艦と、そこに蓄積された情報を代価に保護を求める。これもまた、十分に有り得る話だな。民間人ならまだしも、正規の軍人であれば多少は情報も入ってくるだろうからな。
共和国との前線部隊ならまだしも、勢力圏の外周部に配置されるパトロール等の小規模な戦力ともなれば、二戦級の部隊が宛がわれていることも少なくない。乗組員達の士気も、それに準じたものになりやすい。少しばかり良いエサを目の前にぶら下げられたら、それに喰い付く可能性は十二分にある。
「ホンスァはどう見る?」
「裏取り?」
「裏取りか、狙いは?」
「共和国」
「なるほど」
現在、共和国軍は元あった前線を突破して連邦領内へと入り込んでいる。それに伴い補給線は連邦領内で伸びつつあり、共和国軍もその強化と防衛に相応の戦力を割いてはいるようだが、狙いようは幾らでもある。100隻程度の艦隊でも、付け入る隙は十分にあるな。
今回、偶然見つけたのがそれらの部隊の一部である可能性は大いにある。与えるダメージが小さかろうが、共和国は追加で対応せざるを得ない。その分、彼方此方に皺寄せが起きるからな。前線の圧力が少しでも減れば、連邦にとっては好都合。
「何れもあり得る話だと思う。なので、その辺をハッキリとさせる為にも、先行艦隊には所属不明艦の正体を突き止めさせる」
「目視」
「確認?」
「そうだな。連邦軍の艦艇だと確認出来れば、それが今どの勢力のモノであろうとも関係無いからな」
「あい」
「アイ」
「愛」
「サー」
1つ多い気がするけど、気にしたら彼女達のペースに飲み込まれるからスルー必須。愉快系アイドルグループスルー検定1級は伊達では無いのだよ。って、冗談は置いといて先ずは正体を突き止めるところからだな。
「先行艦隊への指示変更。距離を詰め、艦種特定急げ。必要であれば、情報遮断の上で攻撃も許可する。その場合は、1隻も逃がすなよ」
「あい」
「アイ」
「I」
「サぁー」
言葉とは裏腹に、テキパキと先行艦隊への指示を送るヘイスァ達。ただ、4人全員で送る必要性については、甚だ疑問ではあるのだが。受け取る側の先行艦隊に、変な混乱を与えなければ良いけどね……。まぁ、多分だけど大丈夫でしょう。何だかんだと、艦隊の運用を担う戦闘AIは優秀だからな。それに、要塞での彼女達の言動も学習しているから、その点も恐らく大丈夫。……だと良いなぁ。
そんなこんなで、β任務部隊は行動開始早々予定変更を余儀なくされるのであった。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!




