6-15:補佐官達のお茶会①
ちょっとした、合間の小話です。
対外的には『フォルトリア星系平和維持軍ランドロッサ』を名乗る、辺境の蛮族こと軍事要塞ランドロッサに籍を置く4人の補佐官達。内務を担当するソフィー、外務を担当するシャンイン、諜報を担当するサウサン、そして研究開発を担当するドクター・ラクランである。
ランドロッサの重要メンバーには他にも愉快系アイドルグループに進化した補佐官補佐や、真面目コンビな補佐官補佐達もいるが、今回の主役は要塞トップである香月一馬に最も近い4人である。彼ら彼女らは、定期的に他の面々が寝静まった深夜帯に集まっては、意見や情報交換に勤しんでいたのである。
今日も、通常の業務を終え最低限の人員以外は自室で休みに入っている時間帯にそれは始まる。司令室に隣接するミーティングルームに、4人は顔を揃えていた。テーブルの上には、各々の飲み物と軽く摘まめる軽食類が所狭しと並べられている。
「さて、始めましょうか? 先ずは、誰から?」
基本的に、進行役はソフィーが務める事が多い。最初から要塞に赴任していた最先任者であることも理由の1つだが、要塞全体を常時把握していることと他の面々の様に趣旨から脱線することが少ないことも挙げられる。
「では、先ずは私ですの。フォラフ自治国家から要望のあった自衛戦力供与の件、先のミーティング通りドクターの設計する型落ち艦を提供する方向で、彼方さんと話しは纏まりましたわ。時期や数に関しては、今しばらく議論が必要ですわね」
「確か、一馬さんは駆逐艦で様子を見るって言ってたわね」
「そうですな。先ずは駆逐艦を供与し、艦の運用に必要な人員の育成や技術の習得が優先すべきかと」
「教育に関してはどうするの?」
「それに関しては、アイザフ大佐達を此処へ呼ぶ心算ですわ。下手に外部の政情不安定な場所へウチの人員を送り込むより、良く知っている彼らを此処へ招いた方がよほど安全ですもの」
「そうね。なら、その方向で一馬さんと話を纏めてくれる?」
「了解ですわ」
フォラフ自治国家から要望のあった戦力供与。それに対し、ランドロッサ陣営は現在のフォルトリア星系の技術レベルにあった艦の提供で応じることを既に決定していた。とは言え、考えも無しに強力な艦の提供を行ってしまえば、新たな火種が起きるのは目に見えている。
先ずは、少ない人員で運用が可能な駆逐艦。将来的には、それらを纏める巡洋艦といった流れとなるだろう。実際のところ、現在フォラフ自治国家が運用している艦艇は共和国から軍備に対し圧力を受けていたことあり、高速艦やパトロール艦などの小型艦が中心となっていた。駆逐艦ならまだしも巡洋艦などの中型艦を運用するには、人も設備も不足しているのが実情であった。
「シャンイン。ちなみに、向こうはどの程度の数を要求しているの?」
「巡洋艦クラスを数隻と、駆逐艦クラスを十数隻ですの。恐らく、3つか4つの巡洋艦隊が編成出来るだけの数を欲しているのですわ。まぁ、将来に関しては言葉を濁してましたけど……」
「そう。身の丈にあった軍備要求なら良いけれど」
「……それに関しては、此方で各方面に裏から圧力を掛けている。政情が落ち着かない時に、馬鹿な考えをもった連中が余計なことを騒ぎ出しかねないからな?」
「左様ですな。草食の獣がみすぼらしい武器を手にした所で、牙を研ぎ澄ました肉食の獣に勝てる道理などありませんからな」
身の丈にあった自衛戦力の確保なら問題はない。自衛権と言うのは、全ての国家に許された戦力保持の大原則であり、常識的な範囲内であれば特に問題にはならない。だが、それが明らかに自衛の戦力を超えれば話は別になる。強い力は、良くも悪くも他者の興味を引くのだ。
「フォラフ自治国家が、余計な欲を出さないように暫くは監視が必要ね。場合によっては、サウサンの方で大人しくさせて貰えるかしら?」
「あぁ、既に候補者の立候補は終わっている。後は、此方が設定したラインを勝手に超える行動をしたら、不幸な事故に遭って貰うだけだ」
「そう。……なら、この件は終わりで良い?」
「勿論ですわ。で、次は誰ですの?」
「なら、私といこうか」
サウサンは諜報部門を統括していることもあり、表に出せないような汚れ仕事も同時に管理・実行している。その多くは要塞トップである一馬にも形式的な形で報告されているが、一部は彼の下へと報告されることなく全ての情報が一括して闇に葬られているのであった。それらは、今回の様な補佐官達のミーティング内でのみ情報共有が為され、人知れず抹消されていた。
「フォラフ自治国家に関しては、今話をした通り各方面に対して裏工作を進めている。政情不安の原因になっている連中については、本人か家族のどちらかに不幸になって貰う準備を進めている。とは言え、いきなり数を減らし過ぎると、それはそれで社会が不安定化する要因になるがな」
「その辺のバランスは、難しいですな。下手に傾くと、共和国に再び大規模に介入する隙を与える事になりますしな。これから連邦と雌雄を決すると言う時に、裏庭で余計な騒ぎは遠慮したいもの」
「そうですわ。それでなくとも、ここ最近の共和国は五月蠅くて堪りませんもの!」
フォラフ自治国家は共和国による影響を脱したとは言え、政情には不安定さが残り続け未だに予断を許さない状況が続いていた。独立志向の強い者達、共和国の影響を受けている者達、その他の勢力の影響を受けている者達と、決して一枚岩にはなれない脆さがあった。
その様な状況故に、サウサンは裏から各方面へと硬軟自在な策を弄し圧力を掛けているのであった。まぁ、どちらかと言うと血生臭い手段が多く使われている現状ではあるが。ただ、それらの強硬策は当然ながら副作用もあるものであり、使い様を誤れば政情不安に更に拍車を掛ける要因となり兼ねないものでもあった。
そして、政情が安定しない自治国家に共和国は再びその触手を伸ばしつつあった。1度築いた影響力と言うのは、多少の時間経過では払拭など出来ないものであり、先のテロ事件以降その動きがより活発になりつつあった。勿論、テロに対する報復の側面もあるが。
「……あぁ、そうだ共和国だが新たな動きがあるぞ?」
「軍が動くのかしら?」
「何だ、ソフィーは既に知っていたのか?」
「いえ。何となくそうなるだろうと予測していただけね」
「そうか。とは言え、その予想が当たったと言うべきだな。先のテロ攻撃への報復として、実に100個もの艦隊が我々に差し向けられることになる。……いや、正確には高々100個程度と言うべきだろうがな?」
「「「……」」」
先のテロ攻撃への報復として、共和国は100個の艦隊をランドロッサ陣営へと差し向ける事を決定していた。世論と有力な支持層である富裕層の声に応える形であった。共和国軍100個艦隊ともなれば、その総数は25万隻にも及ぶ。フォラフ自治国家などは抵抗する暇も無く一方的に制圧されるだけの戦力だ。
とは言え、攻撃される側のランドロッサ陣営の戦力は、主力艦隊を構成する最小単位の1個艦隊ですら先日から開始された大軍拡の影響により32万隻であり、正面から殴り合って勝てる戦力差であった。更に、作戦行動単位となる主力艦隊単位で言えばこれが320万隻となる。これに加え、多数の艦載機と機動兵器が戦闘には投入される訳であり、かつてなら甚大な脅威であっただろう25万隻と言う隻数も、最早スコアボーナスが向こうから勝手にやってきたかのようにしか思えないものであった。
「油断や慢心は禁物です。彼らとて無策では無いでしょうから」
「そうですわ。連邦との一戦を前に余計な損害など許されませんもの」
「そうだな。此処で徹底的に叩き潰して、共和国と自治国家に今一度理解させる必要がある」
「左様。余計な欲を出した者達には、とくと現実を理解させる良い機会ですな」
最終的には要塞のトップである一馬の判断となるが、向かってくる共和国軍を全力で迎え撃つのはほぼ決定的となっていた。
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