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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
310/336

6-13:その男、悩む①

彼は、名探偵ではありません。

でも、迷探偵でもありません。


※いつも、誤字脱字の報告ありがとうございます。大変助かっております。

 コールマフ連邦領内で発生した、コロニー虐殺事件と2隻の民間船舶に対する爆破テロは、当然のことだが連邦領内だけでなくボルジア共和国とワルシャス帝国を含めた、フォルトリア星系全域に激震となって伝わった。


 戦争には、戦争なりのルールと言うモノが存在する。人殺しのルールかと言われてしまえばその通りなのだが、それが無ければ何でもありの無法地帯に即座にレベルアップしてしまうのだから、あってしかるべきモノなのだ。そして、フォルトリア星系で言えば、北星条約がそれに当たる。


 その中で、報道関係と人道支援関係の船舶や組織、そして所属する人員は被攻撃対象、つまりは保護されるべき者として記述されている。彼らは撃つべき対象では無いのだ。そんな護られるべき彼らが撃たれたとあっては、騒ぎにならない方がおかしい。正に、蜂の巣をつついたような騒ぎが各勢力圏内で起こることとなる。


 共和国では、自身が支援する人道支援団体の船舶が攻撃を受けたことに強い憤りを覚え、直ちに蛮族を討つべしと政府に強く申し入れる富裕層が続出した。彼らからすれば、人道支援への資金拠出は己の立場を彩る大事なイベントであり、その活動が辺境の蛮族とされる者達によって非道にも打ち壊された等と聞いて、黙ってはいられなかったのである。


 皮肉な話だが、多くのスタッフが犠牲になった事を本心から嘆いた出資者は極わずかであった。多くの者達からすれば、その様なことは気にする必要もない些細なことでしかないのだ。大事なのは、裕福層として外面を磨くことだけ。だからこそ、それを邪魔した辺境の蛮族ことランドロッサ陣営に対し強い怒りを覚えたのであった。


 勿論、元々ランドロッサ陣営と砲火を交えていた事も彼らの心理に影響を与えていた。今は連邦討つべしとの大義を前に同じ方向を向いているだけであり、何れ雌雄を決する敵なのだ。その敵が、卑劣な手段を用いて自分達の栄華に傷を付けた。許せるわけがなかった。


 さて、猿山の大将ことボルジア共和国大統領であるウィリアム・ローズベルトはその状況をどう見ていたかと言えば、キーキーと喚く裕福層を丁寧に宥めすかしつつ、内心では冷めた感情でこき下ろしていた。


 (……愚かな。どう考えても、連邦の女狐の謀略に決まっておろうに。これまでの戦いの何を見ていたのだ、この愚者共は!)


 彼は、冷静に今回の事態の裏に連邦の女狐ことオリガ・アウロヴァがいることを感じ取っていた。普通に考えれば、周囲の者達が言うように連邦を揺るがす為にランドロッサ陣営がテロ紛いの行為をしたと見えるだろう。だが、彼はそれに対し違和感を感じざるを得なかった。


 (これまでの奴らの戦い方とは、余りにも異質。何度か民間人も害してはいるが、悪戯に被害を増やすような行為には決して及んではいない)


 彼は冷静に、過去の戦況報告と各方面から集まってくる情報を分析していた。何れ雌雄を決する相手にどの様にして勝つか。これまで何度も苦渋を舐めさせられている相手である以上、油断や慢心とはいい加減に離縁すべきだと理解していた。


 とは言え、周囲の者達はまだそこまでの理解には至っていない。彼の周囲を固める閣僚も、議員も、支援者達も日に日に反ランドロッサへと傾きつつあるのが実情である。軍部もそれは同様だった。連邦とランドロッサ双方を同時に相手取るは危険だと主張する者達も少なからずいるが、此処で先の因縁を晴らすべしとの声がかなり優勢になりつつあったのである。


 (……コロニー襲撃はまだ理解できる。愚かな民衆の心に、あれほどの衝撃を与えられる映像はそう無いだろうからな。しかし、なぜ民間船を攻撃したのだ?)


 コロニー襲撃の狙いは理解できたローズベルトだったが、民間船への攻撃が行われた理由は分からなかった。ランドロッサ陣営のサウサンの様な諜報担当者がいれば話は別だっただろうが、断片的に入ってくる情報だけでそれを正確に推測しろと言うのはどう考えても無理難題である。


 戦火にあっても中立を維持する報道機関に所属する船舶と、自身が大統領を務める共和国に拠点を置く人道支援団体所属の船舶。それらへの攻撃が先のコロニー襲撃に続いて行われた理由、それにローズベルトは思い至れずにいた。


 (スパイ行為に対する報復か? いや、その様な行為はこれまでにも何度となく行われてきた。帝国も連邦も、そして我が国もな。今更、北星条約を破るリスクを負ってまで何故だ? ただ単に、あの蛮族共に罪を擦り付ける為だけとは思えんし、それならコロニー襲撃でインパクトは十分なはずだが)


 ローズベルトは執務室の椅子に深く腰掛け直すと、天井を見上げる。そこには故郷の小さな村から見えた星空が天井一面に色鮮やかに描かれている。彼は何時も、思考が行き詰まると上を見上げ、懐かしく故郷の空を思い返していた。


 (……久しく帰っていないな。村の皆は、今も変わらぬだろうか? 村外れのあの湖で良く泳いだのも今となっては懐かしい幼少の良き思い出だな。そう言えば、何時だったか、トマスのヤツが父親の銃を勝手に持ち出して滝の裏に隠していたのがバレて、大目玉を喰らっていたな。そんなアイツも今は立派な店の主か)


 天井に描かれた星空を眺め、少しばかり童心に返り過去の美しい記憶に浸るローズベルト。悩んだ時は、こうやって1度リセットすれば良い。それを経験で知っていたからこその自然な行為。その何時もの行為が、少しだけ彼に新たな視点を与える。


 (……もし、コロニー襲撃と2隻の民間船舶へのテロ攻撃が、別々の事象では無く一連の流れなのだとしたらどうなる? 首謀者には両方ともやり遂げなくてはならぬ理由があるとしたら、それはいったい何だ?)


 報道では、ランドロッサ陣営首謀による同時多発的なテロ事件として報道されている。コロニー襲撃が1件と、民間船舶へのテロ攻撃が2件という風にだ。それら全てをひっくるめてランドロッサ陣営による、卑劣な犯行だと非難を集めていた。少なくとも、多くの者達の目にはそう見えているのであった。


 (……情報部の調べては、2隻とも例のコロニーには襲撃発生前に寄港をしている。順番的には、報道の船が先で、彼らが離れた後で支援団体の船が寄港している。時間を見るに、後者は襲撃からギリギリで難を逃れていたようだな)


 人道支援団体の船舶が該当コロニーを離れたのは、襲撃が行われたとされる時間のほんの1時間程前である。正に紙一重とも言える奇跡的なタイミングでの離脱だった。とは言え、その後で攻撃されて沈むのだから、死神からは逃げられなかったと言わざるを得ないが。


 (襲撃の直前にコロニーに寄港していた船を狙ったと言うのは、些か理解に苦しむ。道中を目撃でもされたと言うのならば、その場で拿捕するなり撃沈するなり出来たであろうしな。後からわざわざ追い掛けていって、沈める手間を掛ける理由が分からない)


 何か、大事なピースが足りていない。ローズベルトは、そう確信した。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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