6-8:同時多発的⑦
上手く話を纏められないのは何時ものこと。
日々、精進だよね。
嫌な沈黙がミーティングルームを支配する。これまでの数々の選択。勿論、後から考えればもっと良い方法があった場合もあっただろう。だが、それは後の祭でしかない。今更、それらをやり直す事なんて出来やしないからな。
少なくとも、その時その時で出来うる選択を選んできたつもりではいる。その結果として、今があるのならばそれを受け入れるしかないが。理解する事と、納得する事ってのは似ている様で違うからな。特に、感情的な部分で……。
「……見事にしてやられたってところだな」
「あぁ。残念ながら、我々は辺境の蛮族改め星系に名を轟かせるテロリスト集団になった訳だ。気分はどうだ、カズマ?」
「サウサン、冗談でも気分は良くないぞ?」
「……同感だ。とは言え、この手の悪評と言うのは今日明日で簡単に引っ繰り返せるものでも無いからな。ならば、考えを変えるしかないだろう」
「それは」
サウサンの言う様に、信頼や信用を築くには時間が必要なくせに、崩れるのは何時も一瞬だ。そして、そこから持ち直すのにはかなりの時間を要する。まぁ、オッサン達の場合は周囲を煽る意味だったり、軍事的行動の正当性を主張する為に正義だのを掲げている部分もある訳で。
それを失ったからと言って、別に行動不能になる訳ではない。これが通常の軍事組織であったならば士気の低下などが発生するのだろうが、生憎と此方の戦力はほぼAIによるもの。醜聞が広まる事でダメージを受けるのは、ぶっちゃけ極僅か。むしろ、オッサン1人じゃねって説すらある。
「今回の件で、確かに我々は相応の痛手を負う。そして、同様の手口が今後も続く可能性がある以上、更に傷が深くなる可能性もあるな。だが、仕掛けた側であるコールマフ連邦とて決して無傷とはいかない。何せ、自国の勢力圏内をまともに掌握出来ていないと、改めて星系中にその恥を晒した訳だからな」
「確かに、そうですね。膨大な軍事力を有しながら、辺境の蛮族改めテロリストに好き勝手されている訳ですから、その統治能力にはどうしても疑問符が付かざるを得ないでしょう。結果として、元々高まりつつあった連邦政府への批判はそう簡単には鎮まりませんね」
「当面の間は、同じ手を使いつつ私達にそれらの批判の矛先を逸らしていればどうにか済みますの。でも、逆に時間を掛けても私達に対して何1つ出来ないとしたら、……その矛先は自然と彼ら自身に戻りますわ。ある意味で、時間が此方の味方になる可能性もありますの」
今回の一連の策略によって、ランドロッサ陣営が受けたダメージは大きい。でも、それは連邦が無傷でなしえたモノではないと。潜航艦を中心とした神出鬼没な戦力による通商破壊戦は、確かに連邦にダメージを与え続けている。そして、それに対して連邦が有効打を未だに打てていないのも事実。だからこそ、今回の様な強行手段に打って出たわけだが。
自作自演によって、暫くは時間を稼げる連邦政府。それらの効果が意味を為さなくなる前に、オッサン達に対して何らかの有効打を与える必要がある。それが出来なければ、何れ批判の矛先は再び元に戻ると。確かに、それはそうだろう。ソフィー達の言いたい事は分かるが、話はそう簡単ではないと思う。
「連邦の自作自演を証明する証拠は何1つ無い。そして、今後も同様のやり口を防げるか現時点では不明。ワルシャス帝国やボルジア共和国に対し、どう出る? 下手な言い訳に終始すれば、確実に両国からの心象を悪くするぞ?」
「そうですな。被害を受けてはいない帝国なら未だしも、共和国は国内が五月蠅くなるでしょう。この様な時、民主主義とは愚かな方に力を如何無く発揮しますからな。あの猿山の大将とて、人為的に沸騰する世論を完全に無視することは厳しいかと」
「それに、元々俺達と共和国の間には十分以上な禍根がある。対連邦の最前線で戦っている連中の中にも、その恨みを忘れていない者達は多いはずだ。それらの者達が声を大にして訴えれば、共和国軍もまた揺らぐ可能性がある」
帝国と共和国に対してどう動くか。知らん存ぜぬで無視を決め込んで対連邦戦に掛かり切りになるのは、不可能ではないが悪手だろう。口先だけで丸め込める相手でも無いしな。何らかの証拠をサウサンやドクターに捏造させるのも不可能では無いだろうが、余りその手の手法は好ましくない。
「帝国と共和国、それからその他大勢に対しては、私の方から連邦による自作自演だとはっきり明言しますわ。それらを証明出来る証拠は何1つありませんけど、何れにせよこちらの主張だけは伝えておくべきですもの。まぁ、信じるか信じないかは相手に委ねるしかありませんけど」
「……一先ず、出来るのはそれだけか」
「先手を打たれた以上、後追いになる我々はどうしても不利になります。大きなしこりが残るのは確実ですが、ここは本件を切り捨ててでも状況を創り変えるしかありません。一番の悪手は、連邦に時間を与える事ですので」
結局のところ、連邦は過激な手段を持ってして今の不満を抑えつけ、問題解決を未来へと先送りしたに過ぎない。さしずめ、延命処置とでも言えば良いだろうか。当然だが、稼いだ時間を使って此方に対し次の手を打って来るはずだ。ランドロッサ陣営としては、その前に先手を打つのがベスト。
肉を切らせて骨を切ると言うが、この状況で必要なのはその覚悟だろう。相応の代償を払う事になるが、ここで一気に攻めに転じる時が来たと、覚悟を決めるしかないか。……要は、今の状況に対して開き直れってことだな。
「シャンイン。帝国や共和国相手にのらりくらりと時間を稼げるか? 両国の連邦に対する軍事的行動が停滞しても構わないし、……最悪、共和国と再び事を構える状況になっても構わない」
「それでしたら、やり様はあると思いますわ? お任せ下さいですの」
連邦を正面からぶん殴るにはまだ戦力が足りない。なので、少しばかり時間を稼ぐ必要がある。貯めているシステムポイントを一気に流し込んで要塞機能を大幅に強化して戦力を一気に増やすしかない。
「サウサン。フォラフ自治国家への工作活動の強化、それからパルメニア教団へは軍事介入を含めてプランを練ってくれ」
「了解した。五月蠅いコバエどもがは叩き墜とすとしよう」
内部の政情不安は自分達でどうにかしてくれとしか言いようが無い。詳細は聞いて無いが、未だに一枚岩にはなれていないという事なのだろう。それと五月蠅い宗教どもは、状況次第で潰す。
「ソフィー。『ガルメデアコロニー』へ前もって釘を刺しておいてくれ。大人しく、今の平穏を謳歌していろとな」
「承知しました。通告と共に哨戒艦隊の展開頻度を上げるとしましょう」
平穏を捨てたいならどうぞご自由に。お家がコロニーレーザーに転用されないと良いですね。丁寧に追い出すとかしないからな。
「ドクター。廃棄コロニーの確保と強化型コロニーレーザーの建造を急いで欲しい。それと、旧型になるコロニーレーザーに関しては、暫く現役に残すぞ」
「畏まりました。直ちに、確保と建造を進めるとしましょう」
連邦と共和国。最悪、2国を同時に相手取る事も視野に、戦略兵器を早急に増やす必要がある。一体、何時になったらこれらを手放せるのやら。理想と現実ってのは世知辛いものがあるな。全ては、コロニーレーザーが有益な兵器であることが悪いのだ。オッサンは、悪くない。
「……一先ず時間は掛かったが、これでサウサンの報告に対する方針は一応は何となく固まったとしてだ。シャンインの方は何の報告だったんだ?」
「私の方は、フォラフ自治国家から自衛戦力確保の為に、幾ばくかの艦艇を提供して欲しいって話ですわ。サウサンの話にも絡みますけど、政情が未だに落ち着かないのもあってか旧宗主国とも言える共和国に密かに擦り寄ろうとする輩が後を絶たないようですの。それで、目に見える形での戦力を用意したいと」
「自衛戦力か……」
あくまで、フォラフ自治国家は独立国家だ。ランドロッサ陣営の影響は受けているが、その下に下っている訳ではないからな。共和国からの解放前から、サウサンによる工作活動はあれど殆ど介入をしていない様なもの。
強い力が働かない結果、未だに政情が落ち着きを取り戻せていない。それに対して危機感や反発を持った連中が共和国に擦り寄ろうとしていると。それへの牽制を込めて自治政府側は自衛戦力の確保を急いでいる訳か。しかし、艦艇の提供となると話は別だよな。
当たり前の話だが、要塞で建造出来る戦力をそのまま提供する訳にはいかない。銀河連邦崩壊と共に失われた技術の流出は、避けなければならないからな。そうなると、現在の技術レベルに落とし込んだ艦艇の開発が必要になるってことか?
「ドクター。今のフォルトリア星系の技術レベルに落とし込んだ艦艇の開発って可能?」
「勿論ですぞ。一先ず、艦種は巡洋艦クラスと駆逐艦クラスでよろしいですかな?」
「そうだな。先ずは、駆逐艦を提供してみて様子見かな。強過ぎる戦力は新たな争いを生むだけだしさ」
「畏まりました。直ちに、開発を指示するとしましょう」
……何気に、要塞から外部へと初めて兵器を提供する事になる訳だよな。これが果たして今度、吉と出るか凶と出るか。今回、連邦の取った手段は元を辿ればオッサン達が招いたとも言えなくもない。今後も、彼方此方で色々な出来事を引き起こすのだろう。
あー、厄介だよ。本当に。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!