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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第6章『大国の終焉・中』
302/336

6-5:同時多発的④

暗い展開が続く。早く、何時もの雰囲気に戻りたいところ。

 「カズマ。情報が上がってきたぞ」

 「……該当船?」

 「あぁ。時期的に見て、疑わしいのは2隻だな。1隻は、第56コロニー『オールドレディ』に拠点を置く、報道機関所有の船舶だ。記者やカメラマンといった報道クルーの生活スペースは勿論のこと、自前の報道スタジオや、今どき珍しい紙媒体の印刷マシンまで積載されている。宙を移動する、自己完結した小さな報道局といった所か」

 「やっぱ、報道か……。で、もう1隻は?」


 絞り込む対象が少なければ、調査に掛かる時間も短くなる。サウサンが指示を出してからそう掛からずに、該当すると思しき船舶の情報が上がってきた。1隻はやはりと言うべきか、此方の攻撃対象とはなっていなかった報道関係の船舶。それも、色々と必要な設備の整った船だと言う。


 第56コロニーって言うと、確かシャンインが少しばかり絡んだ記者さんが所属する新聞社があったよな。場合によっては、その辺から報道各社の動向を探るべきか。全部が全部、コールマフ連邦の発表を鵜呑みにはしていないと思うが、どう手が回っているか分からないからな。最低限の繋がりは維持するべきか。


 「もう1隻はボルジア共和国に活動拠点を置く人道支援団体の所有する船舶だ。主な用途は、戦地や紛争地帯、貧困層が多く住む宙域への食糧や医薬品と言った支援物資の移送。後は、技術支援や医療支援なんかだな。組織の運営には、共和国に居を構える資産家達が深く関わっている」


 お次は人道支援団体のお船様と。内容は、如何にもって感じだな。食料支援、医療支援、技術支援と。それらで救われる命もある訳だし、所詮は金持ちの道楽などと安易に切り捨てる訳にはいかない。先ほどの報道関係の船舶は元々中立地帯に居を構えるコロニーに所属しているが、こっちはもろに共和国の船と言える。


 せっかく、対連邦戦で疑似的とは言え共和国と共闘関係とも言える今、余計な諍いを生むのは避けたいところだが、それも状況次第だろうな。それに、事実が事実ならば共和国側も可及的速やかに火消しにはしりたい案件になるだろう。こちらで確実な証拠さえ掴めれば、後はシャンインを通して共和国側と着地点を探る事も出来なくはないか。出来れば、船そのものを。ダメでも、証拠と証言は欲しいな。


 ……それにしても、予め仕組まれたシナリオじゃないかって疑いたくなるレベルで、パーフェクトな結果じゃねえか。どっちが本命か、或いは両方とも本命って可能性もゼロではないが、慎重に裏を取らないと面倒な事態になることだけは確定しているな。願わくば、どっちも関係なかったって方向にいって欲しいが。


 「その2隻の現在地は掴めてるんですの?」

 「あぁ、それは把握している。第56コロニー所属の『リレーション号』は、今も連邦の最外周に位置する惑星やコロニー群を中心に取材活動を続けている。長引く戦争と、ここ最近の我々が行っている通商破壊戦の影響について取材をしている様だな」

 「最外周ともなれば、連邦の戦力は通常ならば薄くなりますわ。その辺はどうですの?」

 「あぁ、シャンインの言う通り情報を見る限りでは決して厚くはない。『リレーション号』の移動に合わせて、戦力が移動している様子も見受けられ無い。とは言え、ブラフの可能性もあるから何とも言えんがな」


 『リレーション号』。報道機関が保有する小さな移動式報道局。中立コロニー所属であることと、単独故に小回りが利く事もあってかフットワークも軽く、補給を行いながら辺境から辺境へと取材を続けている様子。最初に攻撃されたコロニーもまた辺境に位置していた事から、この船の針路は次の攻撃地を目指しているのではと疑いたくもなる。


 「辺境から辺境へ移動しているのであれば、付け入る隙はありそうですわ」

 「あぁ、逆に地理的に証拠の処分もしやすいがな。こちらが確保するまで、残っているかどうかだ」

 「その辺は、賭けですわね。連邦もそう簡単に尻尾は掴ませないでしょうし。そもそも、本当にその船が擬きの母船とも限らないですもの」

 「全くだ。情報が無い故に、このままだとどうしても出たとこ勝負になる。失敗したら、報道関係が一斉に敵になりかねないからな」


 第56コロニーに居を構える報道機関は中立ゆえに、何れの勢力とも距離を取っている。だからこそ、各勢力圏内で比較的だが自由に取材活動が出来るとも言えるのだ。その船を抑える必要がある。無論、時間があるならば、サウサンの手の者を入り込ませて内部から探るってのも手だろう。


 でも、既に多くの犠牲が出ている以上、そう悠長な手段を選んではいられないのが現実だ。二の矢、三の矢を撃たれたら、それを根底から覆すのは容易では無い。戦力の拡大には時間が味方するが、今回の事案に関しては、時間が敵となる。


 「人を送り込んで、堅実に情報を集めている時間は無いよな。サウサン、何らかの手段で船の内部情報を手に入れられるか?」

 「……幾つか手段はあるから、試してみる。だが、成功率は高くないからな?」

 「やらないよりはマシだろ? それで何か掴めれば御の字だよ。……ダメなら、最悪のケースも想定しないとな」


 確固たる根拠も無しに、報道を船を抑えれば反発は免れない。例え、コロニーでの虐殺に関わっていた証拠が出たとしても、以後の関係性が良い方向に向く事は考え難い。……まぁ、そもそもこれまで好き勝手やってきたオッサン達が今更になって報道の顔色を窺う必要など無いと言ってしまえばそれまでなんだがね。


 どちらかと言うと、帝国や共和国に与える影響の方が問題だろう。各々の国内で、世論が悪い方向へ動く可能性が高いからな。三大勢力が挙って反ランドロッサで団結なんぞした日には、かなり不味い事になる。それが、連邦の狙いなのだろうが。本当に、嫌な手を使ってくる。


 「……カズマ。必要な時は、お前は見て見ぬ振りをしろ」

 「ん? サウサン、それはどういう意味だ?」

 「中立の報道機関所有の船舶だろうと、所詮は民間の船舶だ。広い宙で、今までに何隻も消息を絶っている。それに1隻加わる(・・・)だけだ」

 「それは……。該当船でなかったとしても、消してしまえば良いって事か?」

 「我々が根拠も無く不当に拿捕したと言う情報が表に出るよりも、幾人かの犠牲で良くある事故として処理された方がマシだからな」

 「……」


 サウサンが言っているのは、口封じと言うことだろう。例え、空振りだったとしても乗組員毎どこかの宙で消息を絶ってしまえば、その様な事実が明るみに出る事はない。報道機関との関係性にも影響は出ない。そう、幾ばくかの犠牲と引き換えにだが状況は良くも悪くも変化しない。


 自分の勢力圏で消息を絶ったともなれば連邦が騒ぐかもしれないが、何らかの証拠も無しに此方を非難する事は不可能だろう。下手に密接な関係を悟られる様なことを表に出してしまえば、逆に注目を集めてしまうからな。当たり障りの無い、声明を出して幕を下ろすしかない。


 「カズマ。あくまで、これは最後の手段だ。今からお前が悩む必要は無い。それに、必要な判断は私が下す。お前が背負う必要も無いんだぞ」

 「……いや、俺が背負うさ。それが指揮官ってモノだからな。……まぁ、そうならない様に願うよ」

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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