6-4:同時多発的③
現実でも物語でも、厄介事ってのは本当に厄介なもので。
綺麗さっぱりする方法って無いですかね?
報道関係と人道支援。元の世界でも確かに、戦闘や紛争が起きている地でも精力的に活動しているのは覚えている。それは、この宙でも変わらないのだろう。どの国に属しているかは別として、彼ら彼女らは民間人であり、攻撃を加えて良い対象では無い。むしろ、その様な行為を行えば世界的に非難されるのは確実だ。
まぁ、それらの組織を装って諜報活動や違法スレスレの行為なんかやってる連中もいるだろうし、その様に利用されてしまっている組織もあるだろうが。その辺の真偽は置いて、この宙では明確に北星条約によって護られているって事か。
「サウサン。実際の所はどうなんだ?」
「ソフィーの言う通りだ。それらの船舶は北星条約で形式的には護られているし、こちらの攻撃対象にもなっていない」
「なるほど。抜け道があった訳か」
「ただし、それは通商破壊戦の観点での結果に過ぎんぞ? それらの船舶を追い掛けて沈めたところで、戦果はゼロと言って良いレベルでしかないからな。それに、そもそも我々は北星条約を批准していない。つまり、極端な言い方をするならば、条約に従わねばならない理由など端から無いということだ」
えっと、サウサンの言い分を纏めると。報道関係や人道支援組織の船舶は条約によって護られている。しかし、ランドロッサはその条約をそもそも批准しておらず、与える心象は別として攻撃を加えることは何ら問題とならない。攻撃していないのは、ただ単に通商破壊戦の戦術的な観点から外れているからって事か。
「あれ? でも、これまで何度か条約に基づいた行動を取ってこなかったか?」
「それは、その方が都合が良いからですわ。非人道的な行為で情報を引き出すのも常套手段ですけど、人というのは優しく丁重にされると自分の置かれた状況を一瞬忘れて、本能的に何かを返さなくてはと心の何処かで思いますもの」
「後は、上手く誘導して情報を自然と口にさせれば良いからな」
「全くですな。人と言うのは、緩急つけた手法に実に弱いもの。諜報員として厳しい訓練を受けた者達ですら、時間を掛ければ如何様にも落とせますからな」
「身体ではなく、心を揺さぶり吐かせる。暴力に屈したのであれば、相手も言い訳がたちます。でも、言葉に屈したのであれば、自身を責める以外に選択肢は無いですからね」
「あっ、そうだね……」
君達、ドライ過ぎやしませんか? いや、武装組織として国家相手に戦争している以上は仕方が無いのだろうけどもさ。何て言うか、容赦ないね。まぁ、そうやって得られた情報で此処まで来れたのだから、何も言えないんだけどさ。
「……って、話は脱線したけど。サウサン、ソフィーの言う報道関係もしくは人道支援関係の船舶が、例のコロニー付近を航行していたか調べられる?」
「今、調べさせている。直ぐにでも結果が来るはずだ」
「了解」
補佐官としてソフィー達はミーティングに参加しつつも、各々が担当部署へ適宜端末を通して指示を出している。この辺りは、元いた世界で所属していた会社でも不可能な速さだよな。会議で決まった事を、上にお伺い立てて、それから時間を掛けて精査して貰って、結論が出る頃には他社に後れを取っていたなんてことは日常茶飯事だった。
オッサンがトップだから、その直下のソフィー達が直ぐに動けるって事もあるけども。それ以上に、皆の判断・決定が速いってのが大きいのだろうな。迷いが無いと言うか、上に立つ者としての力量とでも言うべきなのか。何より凄いのが、それで上手く回っていることだろう。勿論、裏では色々と調整や修正を行っているのだろうが、少なくともそれが表で見えることはない。
「もし、怪しい船が居た場合だけどさ」
「発見次第、撃沈と言いたいが、可能な限り無力化し鹵獲した方が良いだろう」
「見敵必殺といきたいところですけど、鹵獲して徹底的に吐かせるべきですわ」
「個人的に、中身に興味がありますので、鹵獲を検討して頂きたいですな」
「世論操作を考えるなら、撃沈では無く鹵獲すべきかと」
「全員鹵獲か……」
オッサン的には、状況的に可及的速やかな撃沈もやむを得ずって感じだけど。二の矢、三の矢を撃たれない為には、その存在を公にする方が先決か。一度、ネタバレしてしまえば連邦も同じ手は早々使えなくなるはずだ。まぁ、連邦内でなら情報操作が出来るだろうが、帝国や共和国ではそうもいかない。
とは言え、もし報道関係の船舶が絡んでいたとしたら少しばかり厄介な事にはなりそうだな。少なくとも、素直に認める事はないだろうし、どちらかと言うと被害者面するのは目に見えている。下手に、騒ぎ立てられて余計な火種が起きるのも避けたいが。そう、上手くが良くとも限らないし。
逆に、人道支援団体の船でも厄介なんだよな。元の世界でもそうだけど、あれらの団体ってのはその多くが裕福な資産家や権力者達がスポンサーであることが大半だ。自己資金は勿論、資金集めのチャリティーイベントなんかも精力的に行われている。
その手の人間ってのは、顔が広く横の繋がりがあるからな。まぁ、ウチはスポンサーがその手の人間じゃないって段階でそれらを敵に回した所で、資材だので制約を受ける事は無い。どちらかと言うと、気にすべきは世論だろうな。当然ながら、その手の連中は報道関係と深い繋がりがある。
「サウサン。もし、該当船舶が報道や人道支援関係のモノであった場合。秘密裏に鹵獲出来るか?」
「ふむ。発見次第だが連邦の監視の目と、該当艦の通信手段を先ずは遮断。それから強制停船させ、陸戦隊で内部を速やかに制圧する。然る後、可能な限り人目に付きにくい宙域を経由して、此方の勢力圏内まで移送する。内容としては、これ位か」
「何処にいるかにもよるけど、中々に難しいな」
「最悪、証拠となる物資と人員だけ確保出来れば何とかなるが。そう、簡単にはいかないだろう。恐らく、秘密裏に連邦の護衛も付いているだろうからな。奴らに取っては、貴重な手札の1つ。簡単に失う訳にはいくまい。何より、露呈した場合には自分達にも火の粉が飛んでくるかもしれんからな」
これは、非常に厄介だな。報道関係にしろ、人道支援関係にしろ。もし、本当にそれらに該当する船であった場合は、どう決着を付けるかで今後に色々と響く。全てが丸く収まるなんて理想的な決着は不可能だろうし。……サウサンの他の報告も頭が痛いと言うのに、本当にどうしてくれようか。
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次回もお楽しみに!