6-3:同時多発的②
今回は、記念すべき300話目!
ここまで来れたのも、読んで下さる皆様のお陰です。
今後とも、よろしくお願いいたします。
映像自体は、5分程で終わった。ミーティングルームに再び明るくなるが部屋の空気は些か重い。ソフィーは無表情ではるが、何となく怒りのオーラが出ているのを感じる。シャンインは、表情を歪ませ明らかに嫌悪感を示している。サウサンは、既に内容を確認済みだからか特に変化は無いが、表に出していないだけだろうな。ドクターは、何かを思案している様な表情。
オッサンはどうなのかと問われれば、色々な感情がごちゃ混ぜになっていて良く分からないってのが正解だろう。例え、敵対しているコールマフ連邦に属する人々だとしても、あの様に追い立てられ一方的に虐殺されても良い理由など何1つ無いのだから。何故、連邦がこの様な蛮行に至ったのかは、何となく理由も見えてはいるが、だとしても許される行為ではない。
「……胸糞悪いな」
「カズマ。先に言っておくが、コロニーへの直接攻撃など命令していないからな」
「それ位は、分かっているさ。あんなやり口、サウサンが一番好まないってこと位はな」
「映像を見る限り、アレは紛うことなき偽物ですな。この為に用意された粗悪な急造品でしょう。とは言え、民にはその違いなど分からぬでしょうがな」
「……あぁ。それが問題だよ」
端から、サウサンがやらかしたなんて思ってもいない。策を講じ、罠を張り巡らせ、人心を思うが儘に動かし、望む結果を手にいれる。彼女のやっている事を簡潔に言ってしまえば、こんなものだろう。その過程で、多少の犠牲が出るのは致し方の無い部分が多い。だが、間違ってもこの様な大虐殺なんて起こす訳がないし、そもそも行う必要性が無い。万が一の時は、末端となる尻尾を切るだけで済むのに、その周囲を丸ごと焼き払うなんぞ愚行だ。
何より、彼女はこの様なやり方を好まない事くらい、これまでの付き合いで理解している。表に出さないだけで、今回の蛮行に最も怒りを覚えているのは間違いなく彼女だろう。自らの指揮する通商破壊戦を、謂わば悪い形で利用された訳だからな。
ドクターは、行為そのものでは無く、それを為した方に着目していた様だ。そして、その見解にはオッサンも同意する。見る者が見れば、アレが偽物であることは明白だ。ただ、彼の言う様に一般人には見分けなどつかない。これを引き起こしたであろう連邦も、それを織り込み済みのはず。
「カズマなら、連邦の狙いは何だと考える?」
「今、相対している組織が如何に残虐で冷酷かを民衆に見せつけ、通商破壊戦以降で揺らぎ始めている人心の連邦への引き留め。同時に、頃合いだと見て潜伏を止めて顔を出し始めていた反体制・反連邦の連中に対する粛清の実施。後は、対連邦で歩調を合わせつつある帝国や共和国への、牽制ってところか?」
「あぁ、その辺りが狙いだろうな。アレを見せ付けられた民衆の内、少なく無い数が反ランドロッサへと傾くのは明らかだ。それに連邦が、その中に扇動者を混ぜているの確実。それは結果として、低下しつつあった連邦政府への支持を上げる可能性がある。一方で、連邦政府としては辺境ゆえに監視の目が行き届かず、その手の連中の絶好の隠れ家になっていた可能性のある場所を、特に理由付けすることなく排除出来るからな」
「その責は全て、俺達に押し付けられる。連邦からすれば、何の痛みも負わずに結果だけを得られるんだ、笑いが止まらないだろうさ」
連邦政府の蛮行に対し、オッサン達の仕業では無いと主張するのは簡単だ。ただ、その言葉が人心に響くは全く別の問題となる。ランドロッサと連邦が交戦状態なのは周知の事実であり、更に連邦の支配宙域全域で通商破壊戦が行われているのも事実。そこにきて、ランドロッサで運用されているミディールを模した偽物が大暴れとくれば、簡単にはいかない。
「サウサン。今回の事態、裏で手を引いている連中は掴めたのか?」
「今の所、空振りだな。そもそも、あの偽物の情報すら掴めていなかった。諜報部門としても、いきなりこの映像が、何もない無から飛び出してきた様なものだ。関与したのは極小人数であり、恐らくその殆どは既に口封じに消されたと見るべきだろう。やり口が徹底しているところを見るに、諜報畑の人間が絡んでいるのは間違いないが」
「そうか。現地で間に合わせで作った可能性はあるか?」
「ゼロとは言わんが、それならもう少し情報を掴めていたと思うのだがな。1機ならまだしも、複数機ともなるとな。無論、絶対は無いのでその可能性も捨てずに追加調査は行っている」
誰が今回の事態を引き起こしたのか。恐らくは、連邦政府中枢の誰かだろう。それ位は、簡単に予想が付く。問題なのは、どの様にして擬きをコロニーに投入したかだ。現地で即席で組み立てたのならば、サウサンが言う様に情報が全く掴めないのは、些か疑問が残る。
現場はコロニーだし、現地で素体は確保出来るだろうが、その外装パーツや兵装をどの様に持ち込んだのか。何処で誰が、どの様にして組み上げたのか。諜報の網をどう潜り抜けたのか。1つとて痕跡を残さずに、無から有など有り得ないからな。絶対に何かある筈だ。
「確か、連邦は輸送艦隊を民間に払い下げしておりましたな? その内の幾らかを使い、極秘裏に偽物を仕立て上げたのやもしれませんな。人の出入りが多い軍需拠点ならまだしも、宙に浮かぶ何れかの船の中ともなると、事情を探るのは困難でしょうからな。武装はまだしも、ガワだけならば軍用品である必要もないかと」
「外装パーツに大量生産されている民生品を流用されたのだとしたら、こちらでも流石にその全ての流れを把握し切れないからな。……無論、何度も同じ手を喰らうつもりは無いが」
「兵装類は、パーツ単位にするか或いはジャンク品の様な形で闇で流れていたものかも知れませんな。何れにせよ、サウサン相手に尻尾すら掴ませなかったのです。奇をてらう策をろうしたのでしょう」
ドクターが言う様に、船舶を利用した可能性は高いかもしれん。輸送艦ならば、内部にかなりのスペースがあるからな。ガワを被せる程度の簡易的な改造なら、最低限の機具でも可能だろう。そして、1度あることは2度あると言う。連邦が今回の事に味を占めれば、同様の手段を取るのは間違いない。こちらが取るべき策は……、
「もし船なのだとしたら、あの擬きを積んている母艦となる船を早急に見つけ出し、確実に始末するしかないだろうな。それから、同様の目的で用意された船が他に無いか洗い出す必要もある。移動手段と生産拠点が同じ船かは不明だが、ここまで情報を掴めなかった事を鑑みると、それほど大量に用意出来ているとは思えないが」
「既に、分析を急がせている。通商破壊艦隊も、任に当てつつ各宙域で探索行わせている」
「任せる。……しかし、どうにも腑に落ちないんだよな」
「何がだ?」
輸送艦などの何らかの船でミディール擬きが生産され、コロニーでの虐殺に投入された。それは可能性として十分にあるだろう。だが、だとしたらどうにも分からない点がある。
「今回の宙域を含め、連邦の全域で無制限での通商破壊戦に移行している訳だろ? 護衛付の大規模な輸送船団で移動していれば目立つし、此方も狙う。逆に、あえて連邦が指定した主要なルートを外して危険を承知で航行する少数の輸送船団でも、容赦なく狙うよな?」
「無論だ。護衛を躱しつつ獲物に一当て出来るだけの戦力はあるし、少数ならば格好の獲物だ。逃がす訳がない。撃ち漏らしが出たとしても、2度3度と繰り返し襲うだけだからな」
「だとしたら、どうやって此方の哨戒網を抜けた? 勿論、擬きの拠点が船であるという前提での話ではあるけどな」
「ふむ……」
完璧とは言えなずもが、主要な航路であったり、今は連邦に封鎖されてしまったが元々は高い頻度で利用されていた航路には、ランドロッサと連邦双方の監視の目が存在している。早々、掻い潜られるとも思えないが。……いや、無制限に移行する前段階で、一時的に通商破壊戦を止めたタイミングがあったな。なら、あの時に既に仕込んでいたって事か? だとしたら、今後は身動きが取れないって可能性もワンチャンスあるのか?
「……一馬さん。現地での組み立てで無いと、仮定するならばの話ですが。こちらの通商破壊戦の対象に、そもそも最初からなっていない船舶ならばどうでしょうか?」
「対象になっていない船舶?」
現在、連邦の全宙域で無制限での通商破壊戦が行われている。軍艦は当然のこと、民間籍の輸送船や客船、貨客船も当然ながら攻撃対象になっている。まぁ、民間船舶の場合は可能な範囲で退艦させてから沈める様にはしているが。当然だが、連邦や共和国籍の船舶も連邦宙域を航行する限りは攻撃対象になっている。故に、ソフィーの言う対象外の船舶っての心当たりが無いのだが……。
「民間船舶の内で、報道機関が保有する取材用の船舶と、人道支援を目的とした団体が保有する支援用の船舶は、無制限通商破壊戦の渦中であろうとも、北星条約による制限を受け対象外になっているはずです」
マジか。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!