1-30:戦後処理④+α
戦後処理編が漸く終了。最後にオマケ?付き。後1話か2話で今章は完結となります。
※先週に比べ、昨日はアクセスがグッと伸びて作者吃驚。ありがとうございます。
昼食も含め、長めの休憩を終えた午後1時半。再び3者+オブザーバーによる戦後処理の為の実務者協議が再開となった。午前中、最後のナターシャ嬢の提案のお陰が幾分か柔らかくなった雰囲気の中で協議は進む。
まぁ、実際の所。そのほとんどはコロニー側と共和国側とのやり取りがメインで、俺は時折、意見を挟む程度に過ぎなかった。内容としては、午前中に決まった人道的な配慮についての詳細だったり、共和国本国から何らかの接触が有った場合の対応等と言ったものになる。当たり前だが、共和国側は全員が武装解除した上でコロニー側の監視の元、様々な作業に従事する事になる。コロニー側には彼らを捕虜として遊ばせておく余裕など無いのだ。なお、我々ランドロッサ要塞陣営には第三者としてコロニー側の捕虜の扱いに問題が無いかを定期的にチェックする、大事な役割を割り振られた。いや、ぶっちゃけ面倒ですけど? 人員が居ませんよ!?
『では、大方この様な形で良いだろうか? 勿論、後ほど正式な書類としてお渡しするが』
『異論は無い。香月司令官殿も宜しいか?』
「えぇ、何だか上手く使われている気もしますが、しょうがないですね」
人道的な配慮を約束すると言った手前、此方もコロニーにぶん投げっぱなしとはいかない。状況次第だけど、俺かシャンインが様子を見に行くしか無いだろうな。ふぅ、人手が欲しい。
『最後に、コロニー側から若き司令官殿に提案が有るのだがね?』
「良い笑顔で言われると、嫌な予感しかしませんが?」
『なに、大した事では無いさ』
物凄く良い笑顔で、そう言い切るスキンヘッド紳士。胡散臭いんだよ、アンタのその笑顔が!
『ナターシャ嬢の事だ』
「と、言いますと?」
『ランドロッサ要塞で、彼女を引き受けて欲しい』
「理由を聞いても?」
『幾ら武装解除したとは言え、彼らがコロニー内に居る以上は万が一があるだろう? ならば、物理的に手を出せない場所で彼女を護るべきだと思うのだがね?』
「……なるほど」
まぁ、正直その展開はシャンインやソフィーとも予想はしていた。更に言ってしまえば、受け入れも可能だ。将来的に、共和国からフォラフ自治国家を奪い取る上で、彼女はその先頭に立たせる旗印として使えるからな。かつての自治政府首相の娘が、祖国奪還にその身を捧げる。美談としては十分だろう。彼女の容姿と相まって、少なく無い数の支持者が集まるだろう。勿論、彼女のせいで共和国の占領下になったと恨む者達もいるだろうが。
「……サントスさん。少し考える時間が欲しい」
『勿論、今すぐにって話では無いよ。ただ、余り時間も無いがね?』
「分かっていますよ」
実際、コロニーとしては直ぐにでも捕虜達を労働に割り振りたいと思っているはずだ。だからこそ、火種に成りかねない彼女の存在が問題になる。1度は受け入れた手前、邪魔だから出て行けとは言えない。あくまで、彼女の身を案じてより安全な場所に移動して貰うって建前が必要な訳だ。いやはや、大人って汚いね。オッサンもその大人だけどさ。
「さて、粗方議論は出尽くしましたかね?」
『此方としては、有意義な協議が出来たと考えているよ』
『……共和国としても、特に言う事は無い』
それぞれの陣営が身内同士で確認しつつ、そう返答してくる。実務者同士の協議はこれで終了と言う事で良いだろう。勿論、必要に応じて今後も同様の場を設ける事も有るだろうけどな。とは言え、この様に当事者全てが揃う事は恐らく最後になるだろう。
「では、これにて実務者協議を終了と致します。各陣営とも、協議内容を順守し、無駄な血が流れる事の無い様に自省を求めます。それから、戦没者に対する追悼式典については後ほど正式な議定書をコロニー側へお送りしますので、各陣営への配布をお願いします」
『了解した。では、何か有れば連絡をくれたまえ』
『失礼する』
『ありがとうございました』
コロニー、共和国、ナターシャ嬢の順にフェードアウトしていく。完全に真っ暗になったディスプレイを眺め、漸く終わった事を認識する事が出来た。午前と午後を合わせて合計で6時間弱か。当事者じゃなかったら、間違いなく居眠りしていたと思うわ。頑張った、自分!
「お疲れ様でした、司令官様」
「シャンインもお疲れ様」
「ふふっ。だいぶお疲れの様ですわね?」
「流石にね? 新米司令官にはちと荷が重かったと思うよ」
「とても、立派だったと思いますわ。堂々とした司令官振りでしたもの!」
実際は、そう言ってくれるシャンインの助けが有ったからなんだよな。彼女の補佐が無ければ途中で確実に行き詰っていたさ。勿論、シャンインだけじゃなく、ソフィーやAI達もだけだな。俺1人だけでこの要塞に放り込まれてたら、とっくの昔に終わっていたさ。オッサン、マジ感謝。
「さて、休みたい所だけど、その前に結論を出しておかなければならない事がある」
「ナターシャさんの事ですね?」
「そうだ。正直、俺個人としては受け入れても良いとは思っている。そこで、シャンインの意見を聞きたいと思ってね?」
「そうですね。受け入れるとして、どこまで秘密を共有出来るかですわね?」
「この要塞に付いてって事かな?」
「そうですわ」
確かに、この要塞の存在は色々と規格外だからな。ナターシャ嬢が滞在する様になった場合、どの程度まで情報公開を行うかが重要になってくる。流石に前回と同様に監房エリアに放り込む訳にもいかないしな。そうなると、何れかのエリアに生活拠点を設ける必要が出てくるな。
「彼女の生活拠点も必要になるな。流石に全員は厳しいか……」
「ナターシャさんと、最低限の世話係を受け入れて、アイザフ大佐達にはコロニーで生活して頂くのがベストかと」
「そうだな。下手に大人数を受け入れると、万が一って事も有るしな」
「その場合は、戦闘アンドロイドの数を増やす必要も出ますわね」
「うん。資源とか諸々考えても、受け入れはナターシャ嬢とお世話係程度が関の山だな」
流石にアイザフ大佐達を受け入れたら、数百人単位になるからな。色々と負担が重くなる。コロニー側も最大の懸念であるナターシャ嬢が此方に来る事になれば、アイザフ大佐達の受け入れには応じてくれると思いたい。いや、受け入れさせるしか無いな。
「では、私は追悼式典の議定書を作成しますので。司令官様には彼女のお相手をお願い致しますわね?」
「宜しくって、彼女? 誰?」
「直ぐに分かりますわ」
「直ぐって……」
シャンインに問い質そうとしたその時、唐突に司令室の扉が開き1人の女性が入ってきたのであった。
「えっ? ソフィー?」
「はい。戦勝おめでとうございます、香月司令官!」
「あれ? シャンインもいるよね?」
「居ますわよ?」
「……どうなってるの?」
オッサン。思わず右の頬を抓ってみた。いふぁい……。どうやら夢では無い様だ。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。