5-50:次への備え②
本話を持ちまして、第5章『大国の終焉・上』は完結となります。
本作最長の全50話となり、また不定期更新となった事でかなり長くなってしまいました。
次話より、間章となる第5.5章を挟み、第6章『大国の終焉・中』へと進みます。
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。
さて、戦力の強化な訳だが……。
現状、要塞の主力戦力は全部で6つの艦隊となっている。『ダグザ』、『ヌアザ』、『ファリアス』、『フィンジアス』、『ゴリアス』、『ムリアス』の名を与えられし艦隊は、それぞれ10個の機動艦隊で構成されている。現状での1個機動艦隊の定数は、支援艦である拠点艦も含めて1,780隻。
今後の強化方針として艦隊の数を増やすと言うよりかは、個々の機動艦隊を構成する艦艇の定数を増やす方向で進めたいと思っている。最低でも、現行の倍である3,560隻。まぁ、既に一部の艦隊向けに、いま立案している最中の強化計画に先行する形で配備する為の艦艇群の建造を進めている。
艦艇数はそれで良いとして、後は構成する艦種のバランスだよな。それぞれの艦種毎の配備数をもう少し見直すべきなのかもしれない。これまでの戦闘で大きな損害が出ているのは、主に駆逐艦と巡洋艦だ。
駆逐艦は、その高い機動力と高い雷撃力を持って敵陣へと切り込み、苛烈な砲火を掻い潜り主に脚の遅い戦艦や母艦を叩く役目を担っている。一方で、巡洋艦は自陣へと入り込んで来る敵駆逐艦の排除と、味方戦艦や空母の護衛が最たる役割となる。時に、その身を挺してでもそれらの艦を攻撃から護ることすらある。
戦闘方法ゆえに、損害もまた相応に生じざるを得ないこれら2種の艦艇。現状でも、戦艦や空母に比べて艦艇数は多いが、更なる増加をすべきか。或いは、次世代艦の解放や抜本的な変更として新たなる戦闘スタイルの確立を目指すべきか。この辺は、直ぐには答えが出そうにもないし、出来れば皆とも相談した方が良いか。
「……後は、重雷装巡洋艦の扱いか」
現状、重雷装巡洋艦は通商破壊艦隊にしか配備がされていない。その過剰なまでの火力特化仕様は、通常の機動艦隊よりも、強襲や奇襲、待ち伏せなどを主任務としている通商破壊艦隊の方が今のところは合っているのだ。
……重雷装巡洋艦だけを集めた、超火力特化型艦隊とかも面白いかもしれないけどな。突っ込んでいって、持ち弾を全て一方的に撃ち果たしたら離脱するだけの艦隊とか激アツだよね。主力が正面からガッツリと組み合って殴り合っているところに真横から突っ込ませるとかありか?
「検討してみるか……」
同一艦種のみだったら、艦隊速力も調整しやすいし何よりやる事がシンプルだからこそ扱いやすい側面もある。まぁ、投入タイミング次第で戦果が大きく上下しそうだけど、その辺は回数をこなすしかないか。
さて、取り敢えず此処までで決めたのは……。
・各機動艦隊の艦艇数追加配備。
・艦種バランスの調整。要相談。
・超火力特化型艦隊の新設。
今後も続くコールマフ連邦戦を踏まえ、正面戦力を上げすぎるなんてことはない。上げて、上げて、上げ続ける。辛勝ではなく、完勝を。
「サウサン。通商破壊艦隊に関しては、どうしたい?」
「ふむ。……先ずは、艦隊数そのものを増やすべきだろうな。それと、拠点艦の割当も増やしたいところだ。少しでも長い期間、敵陣内で暴れる為には必須だろ?」
「なるほど、確かにな」
狙っていた訳ではなかろうが、通商破壊艦隊に関してどうするかと考え始めた所へサウサンがタイミング良く私室を訪ねて来てくれたので、運用責任者である彼女の意見を聞く事にしたのだった。
そして、彼女が望んだのは艦隊数の増備と各艦隊に配備されている拠点艦の割当を増やすこと。艦隊数の増加は、そのまま展開出来る宙域の増加に繋がるし、拠点艦の追加配備は被弾した艦艇の修理時間短縮に直結する。推進剤の補給だけなら現行の配備数でも事足りているんだがね。修理となるとどうしても同時に出来る数には限度がある。
「どの程度ふやす腹積もりだ?」
「通常艦艇艦隊を現行の3倍。潜航艦艦隊を現行の4、いや6倍までは増やしたいな」
「DC艦隊を現行の6から18に、S艦隊を現行の10から60にか……?」
「そうだ。連邦の支配領域の出来る限り広い宙域において、同時多発的に彼の国の通商路に対して破壊工作を行う。連邦が抵抗戦力を全てに展開させようと、させまいと此方としては一向に構わん。大事なのは、安全な通商路など既に何処にも無く、かつ連邦にはそれらの安全を完全に護るだけの力と術がないことを、多くの者達に見せつける事だからな」
惑星内だけで完結していた時代ならまだしも、多くの惑星間でのやり取りが常態化しているこの宙で、通商路が安全では無くなる代償は極めてデカい。勿論、幾つもの迂回ルートは存在するが、1度でも疑心暗鬼になれば儲けモノだろう。そもそも、連邦ならまだしも此方は全てのルートに戦力を振り分ける事など到底不可能だからな。
「広すぎる勢力圏ゆえに、手の平から砂が自然と零れ落ちるかの様に、護れないモノが出るか」
「先の惑星攻略の際、現地政府は簡単に連邦政府の犬に手を掛けた。小さな綻びの芽は、此方が思ったよりも実は数が多いようだしな。なら、それに水を撒き、栄養を与え大きな大樹へと育ててやるのは私の役割だろ?」
「楽しそうで、何より」
予定外の行動が、結果として思わぬ収穫に繋がったか。まぁ、破壊工作とそれに連なる一連の情報操作や世論形成なんかはサウサンの本分だからな。例え、直ぐに鎮圧されたとしても、1度でも芽吹いたその熱は決して消えない。表から消え去ったとしても、地下深くに根を張り再起を待つ。
「そもそもだ。敵同士が勝手に潰し合うならば、問題などなかろう?」
「容赦ないな?」
「これが戦争だからな? 道義だの、正義だの、信念だのと語るは結構だが、勝たねば全てが水の泡と消える。大切なモノも、護りたかったモノも、等しく消えるだけだ。皮肉なことだが、どれだけ道を踏み外そうとも、勝者こそが称えられるが戦争の悲しき宿命だ」
「とは言え、それを当たり前と思いたくもないけどな」
「無論だ。例え、その様な不変とも言える事実があろうとも、それに最後まで抗うのもまた人の業と言うモノ。私としては、一馬にはそうあって欲しいがな?」
「おいおい。さっきと言ってることが矛盾してるだろ」
「ふっ、私は要求の多い女なんでな?」
全く、サウサンも無茶な要求をするものだ。勝つ為に敵同士を殺し合わせろと、憎しみ合わせろと囁きながら、一方では不変の事実に逆らってみせろと同じ口で言ってのけやがる。本当にウチの諜報担当は要求が多すぎる。両立しろってか?
「通商破壊艦隊は希望どおりに増強する。敵地への工作に関しては……、やり過ぎるな。連邦政府の連中を生贄に、吸い切れるだけの憎悪に調整してくれ」
「それはまた、難しい注文をしてくれるものだな、一馬?」
「ウチの諜報担当は、極めて優秀なんでな? 司令官としては、ついついその手腕に期待したくなるんだよ」
「そうか。なら、その期待に出来るだけ応えるとしよう」
そう言って、笑うサウサン。オッサンも思わず、笑顔になる。……まぁ、両者とも実際には相当腹黒いことを考えているんだけどな。相手の力を削り、民衆には連邦からの心の離反を促し、そしてその代償を全て連邦政府の連中の命をもって支払わせる。オッサン達は、ただ水を撒き、栄養を与えるだけだ。そして、都合の良いタイミングで勝手に刈り取る。極めて、悪質な手段。正しく、悪魔の所業だろうさ。
「さて、次なる戦場はどこか」
「一馬の行く所、全てが戦場だろうさ」
「違いない」
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!