5-43:彼の宙は戦場である⑳
執筆時間が無い。
半月で、先月の残業時間を超えるってどういう事?
「最終的に、此方の損害は5個艦隊相当か……」
「はい。これまでのボルジア共和国との戦闘に比べ、撃沈までは行かなかったものの中破以上の被害を受けた艦艇が増加しています。これら損傷艦の戦列復帰には、少しばかり時間が掛かりますね」
「そうだな。要塞に戻ったら、ドクターと次世代の拠点艦について話を進めるとしよう。後は、純粋に艦隊に同行する隻数も増やして対策するしかないか」
「後は、艦隊そのものの定数も増やすべきかと? やはり、数による火力の差は依然ありますので」
「それも早急に取り掛かるとしよう」
コールマフ連邦軍前線拠点1つ目の攻略戦において、5個艦隊相当の被害が出た。まぁ、連邦軍は此処まででトータル20個艦隊以上を失っているので決して悪い戦果では無いのだが、ソフィーが言う様に損傷の大きい艦が以前に比べて明らかに増えているのだ。
軽微な損傷や小破判定クラスであれば、同行している拠点艦で修理すれば短時間で戦列復帰が可能だ。一方で、中破以上となると最低限の修理でも時間を要する。全て無人ゆえに無休で修理を強行できる強みがあるとは言え、それでも時間は掛かるのだ。かと言って、それらの艦の修理を見送ると艦隊行動に大きな制限が掛かり続ける。
「取り合えず、護衛艦隊を残し中破以上の損傷艦は現宙域にて主力艦隊から切り離す。後は、此方へと向かって来ているドクター達に任せよう。既に、『ヌアザ艦隊』も此方へ急行してくれているしね」
「了解しました。護衛に如何ほど残しますか?」
「んー、念には念を入れて5個艦隊を残そう。万が一にも、前線から後退している連邦軍艦隊が此方に来ないとも限らないからな」
「では、その様に手配します」
前線拠点の窮地を知り、共和国との戦線を維持しつつ戦力を後退させるという荒業を行った連邦軍。まぁ、前線から割く事の出来た戦力は微々たるものだろうが、それでも損傷艦だらけで迎え撃つには流石に厳しいものがある。
新設した6番目の艦隊である『ヌアザ艦隊』の現宙域到着まで、まだ時間が掛かる以上は現有戦力を割いて万が一に備えるしかない。護衛をケチって、敵にスコアを献上する愚だけは避けないとな。むしろ、此方がスコアを稼ぐ位の気持ちでいかないと。
「一馬さん。現宙域の最終調査も含めまして、出撃完了は約6時間後となります」
「了解。まぁ、それでも次の拠点までにトンズラしていった連中には十分追い付けるか」
「はい。後方から彼らを追い込みつつ、待ち構えているであろう次拠点の初手を潰せれば流れは一気に此方のモノとなります」
「逆に初手の対処に手間取ると、戦力と時間を無為に浪費する事になるか。最後方の拠点だったり、前線から下がってきた艦隊なりがそれらに合流すると厄介だしな」
時間が経過すればするほど、相手は戦力を集め迎撃の為の準備を行えるようになる。無論、何時までも集中力が持つ訳でもないが、実際に1つ目の拠点が陥落している以上は、警戒心が緩むことは早々ないだろう。こちらの情報も相応に流れていると見れば、次は更に厳しい戦いとなる。
「はい。ただ、そもそも本作戦において無理に攻略する必要が無いですし、そこまで気負う必要もないかと?」
「……あー、そうだったよな。何て言うか、事前に決めていた筈なのに、いざ戦闘になると勝ち負けに固執しそうになるんだよな。俺の悪い癖だわ」
「それは仕方が無いことかと。誰もが頭では理解していても、実際に負けて喜ぶことはありませんから。例え、それが大局的に見て必要な敗北や撤退だとしてもです」
「仰る通り」
前線での戦闘による気持ちの高ぶり故か、どうにも思考が前へ前へと前のめりになっている。勝つことに拘る事は間違いでは無いけれども、その結果として大局を見誤ればこれまでの全てが水の泡になる可能性すらある。気を引き締めないとって、これは確実に思考のドツボに嵌るパターンだな。……忘れよ。
「一先ず、連邦軍拠点の1つは事実上陥落させました。これで、当初の計画における最低限の目標は達成しています。此処からは、謂わばボーナスゲームの様なモノ。無理にコンティニューする必要はありませんし、相手に付き合う必要もありません」
最低限の目標は達成した。後は、何処まで加算するかの判断。既に拠点が1つ失われた事で、前線の連邦軍艦隊には圧力が掛かっている。調査と並行して、既存施設群の破壊も行うので再度の拠点化にはかなりの時間が掛かる。そうなれば、残り2つの前線拠点はその重要性を否応無しに増す。
「……」
現宙域を含めた星域図へと目をやる。共和国と連邦が衝突を繰り返す前線宙域。その前線を支える拠点が存在する現宙域。そして、更に後方の物資の大規模集積地であり輸送の中継拠点となる惑星『アナディル』を中心とした宙域。それぞれに数度ずつ目をやりながら、思案する。
位置。距離。役割。敵の分布。自軍の戦力。目標。目的。
何が出来て、何が出来ないか。
何が次に繋がり、何が次に繋がらないのか。
最善の一手とは何か。最悪の一手とは何か。
星域図を眺め、思うまま指を添わせ幾つもの道を描く。
そして、暫し思案した後、1つのコタエに辿り着いた。
「……このタイミングなら出来るか」
前線の連邦軍は、共和国を前にほぼ動けず。僅かに抽出し後方へと急行しているであろう戦力は、次の攻略予定と見做されているであろう拠点の防衛に集中せざるを得ないだろう。無論、その拠点の戦力については言わずもがなだ。そして、先の通商破壊艦隊による戦闘の影響。狙ってみるか。
「……ソフィー。予定変更して惑星『アナディル』をおとすぞ」
「……了解しました。全戦力を振り分けますか?」
「当然。まぁ、占領する訳じゃないから陸戦戦力は不要と言えば不要だが」
「では、その様に指示を変更しておきます。……それにしても、思い切った判断をされましたね?」
「ん? まぁ、ちょっとした思い付きだよ。ボーナスステージっぽいだろ?」
「確かに、そうですね」
「それに、今後を見据えて、惑星攻略の知見も広めておきたいからね。現状、共和国の首星に殴り込み掛けた経験しかないしさ?」
「えぇ、良い戦訓を得られると思います。今後も見据えて、決して無駄にならないかと」
ソフィーの太鼓判も貰えた事だし、残りの前線拠点は一先ずスルーして初の惑星攻略と洒落こみましょうかね。まぁ、上手くいけばの話だけど。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!