1-27:戦後処理①
此処から何話か戦後処理を挟んで、次章への流れになるはず……。
さて、結論から述べてしまえばローガン中佐の最後の説得は残念ながら失敗に終わった。結局、彼らは最後まで抵抗する姿勢を変えなかった。その結果、隔壁によって前後を遮断された彼らは連絡通路の一画と共に宇宙へと放り出されたのである。そして、現場宙域に到着したカンターク級巡洋艦の元で行われた一斉射撃により宇宙の藻屑へと変貌した。まぁ、最後まで戦い続けた結果、彼らは名誉の戦死を遂げたのだ。果敢に戦い散っていた戦士達へ、敬礼。
「司令官様。現時点での簡易報告書になりますわ」
「ありがとう。ようやく、少しは落ち着けるかな」
「ふふっ。後、もうひと踏ん張りですわ」
「頑張るとしよう」
ソフィーから送られた報告書に目を落とす。
第16コロニー『ガルメデア』攻防戦における現状報告 フォルトリア星系歴524年5月27日
状況:両軍共に軍事行動停止
戦況:当方の勝利
実情:以下の通り
友軍 第1分艦隊
カンターク級巡洋艦 損害なし
イースキー 損害なし 推進剤残量僅か
第2分艦隊
改アスローン級駆逐艦 2隻 小破 航行に支障なし
第3分艦隊
改アスローン級駆逐艦 2隻 小破 航行に支障なし
敵軍 α艦隊
巡洋艦『アーミント』 撃沈
駆逐艦『アルゴーバ』 総員退艦
駆逐艦『ハーマン』 中破
駆逐艦『ハイラム』 中破
駆逐艦『ケルトン』 降伏
β艦隊
巡洋艦『フリーダム』 降伏
駆逐艦『リライアンス』 爆沈
駆逐艦『ボールダー』 撃沈
駆逐艦『コーディー』 轟沈(デブリ帯にて)
駆逐艦『ダンベル』 撃沈(デブリ帯にて)
γ艦隊
巡洋艦『ハムスフォーク』 総員退艦
駆逐艦『コークビル』 総員退艦
駆逐艦『スムート』 総員退艦
駆逐艦『エトナ』 降伏
駆逐艦『モーガン』 降伏
補給艦
『ロックビル』、『シアビル』、『ボイシ』
『ナイッサ』、『オレアナ』、『エメット』 降伏
海兵隊 戦死傷者 多数 詳細確認中
「凄いな。僅かな時間で良く此処まで」
「この程度、片手間で行えますわ?」
「あはは、優秀な補佐官には頭が上がらない!」
「もっと、頼って下さいな?」
「依存し過ぎない様に注意しないと……」
報告書の内容はシンプルだが、結果が一目瞭然に分かる様になっている。さて、コロニー側に引き渡すのは補給艦6隻と、駆逐艦『エトナ』、『モーガン』の2隻で良いだろう。えっ? 大した損害の無い艦を2隻も渡すのかって? まぁ、本当なら傷有りと傷無しの2隻だけども、此処は恩を売っておく所だと判断しただけだ。向こうも悪い気はしないだろうからね。
「補給艦に加えて、エトナとモーガンをコロニー側に提供しよう」
「了解しましたわ。残りの艦艇と残骸は共和国側が総員退艦後に要塞へ曳航ですわね?」
「そうだな。結構な量になるから、何度か往復する羽目になりそうだ」
「それは仕方がありませんわね。ですが、それで得られる資源は馬鹿に出来ませんわ」
「だな。懐事情の厳しいうちには貴重な資源だし、回収はキッチリと行おう」
バラバラになった細かい残骸は、その手間を考えると回収はコロニー側に任せるべきだろう。それ以外の、大きな残骸や降伏艦、乗員が退艦して放置されている被弾艦は残さず回収したい。此方の艦艇の修理は少し先伸ばしになりそうだ。
「さて、後は戦後処理をどうするかだな……」
「そうですわね。捕虜の扱いは当初の予定通りコロニー側へ一任で?」
「向こうが、労働力として欲しがっているからね。とは言え、北星条約に基づく人道的な扱いは求めるけどさ。流石に、虐待だ何だのは拙いからな」
「それで、暴動でも起きたら面倒ですわね……」
「それだけは避けたい」
コロニー側との事前交渉で、共和国の捕虜に関してはコロニー側へ任せる事になっている。まぁ、こっちで捕虜を取っても扱いに困るってのが最もな理由だけどね。監獄エリアが埋まるし、食料とかも必要になる。その維持費だけでも決して馬鹿には出来ないからな。なら、労働力を必要としているコロニー側へ任せるのが最適だと判断したまでだ。勿論、ローガン中佐と約束した以上は、人道的な扱いをコロニー側へ求めるのは当然の責務ではあるが。
「取り合えず、共和国側を含めた実務者協議を明日の朝から行う様にコロニー側へ打診して貰えるかな? 流石に、今日これからは時間も遅いしね」
「了解しましたわ。それから、現場宙域の艦隊には念の為に明日の朝まで警戒態勢を取らせておきますわ。その他の細々とした事も私の方でやっておきますので、司令官様は先にお休みになって下さい。食事もまだでしたよね?」
「あぁ、確かに言われてみると空腹だわ。悪いけど、後は頼むね?」
「了解ですわ!」
「じゃ、また明日。おやすみ、シャンイン」
「おやすみなさいませ、司令官様」
シャンインに見送られ、私室へと引き上げる。本来ならば、司令官として最後までやらなければならない事もある筈なのだが、今は休みたい。先ほどまでは意識していなかったのだが、身体が鉛の様に重たくなっている。僅か数時間の戦闘だったが、予想以上に身体にきている様だ。これがもっと大規模な戦闘になったら、持つのだろうかオッサンの身体。不安でしょうがない。でも、やるしかないよね、だって司令官だもの。
「冗談は置いといて、軽く食べてから休もう。シャワーは朝で良いや」
端末から手軽に食べられるお茶漬け(梅)と緑茶を選択。お茶が被った気もするが、この際だから無視しよう。食事が来るまでの間、改めて今回の戦闘を振り返る。ディーシー号を追跡してきた駆逐艦への対応は文句無しだったと思う。第1分艦隊、ディーシー号双方に被害も無かったしな。まぁ、敵艦がバラバラに吹っ飛んで残骸の回収がそれほど出来ないってのは残念だが、致し方が無いだろう。
一方の、コロニー側での戦闘は色々と反省点も有ったと思う。巡洋艦を1隻だけ落としそこねた事による、戦闘の激化及び長期化は痛かったな。幸いにして此方の損害が少ない内に相手が降伏をしてくれたものの、あのまま戦闘が続いていたら此方も被害が拡大していたのは間違い無い。あの巡洋艦同様、此方も運が味方してくれたのだろう。海兵隊に関しては、他に選択肢は無かったと思いたい。正直、決して気分の良いものでは無い。でも、戦闘をあれ以上、長引かせる訳にもいかなかった。何事も思い通りにはいかないという、極めて当たり前の事を改めて思い知らされたな。オッサン、改めて胸に刻んだ出来事だった。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。