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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第5章:「大国の終焉・上」
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5-36:彼の宙は戦場である⑬

意外なモノが、いざって時に役に立つ。

 休憩を終えたソフィー達が艦橋に戻ってきた頃には、いよいよコールマフ連邦軍の前線拠点の1つが目と鼻の先の位置まで近づいていた。無論、先の偵察艦隊との遭遇戦以降、幾度と無く連邦軍の守備戦力と交戦し、これを打ち破っての進軍だ。


 最終的に、追加建造分も含め5個独立艦隊、合計50個の機動艦隊で構成される今回の主力艦隊。これまで先行して露払いを務めていたファリアス艦隊とムリアス艦隊が補給や整備の為に後方へと下がり、変わってフィンジアス艦隊とゴリアス艦隊が先鋒を務め敵艦隊と砲火を交えている。


 現状では、連邦軍の方が数的不利な状況とは言え、こちらの被害がゼロと言う訳もなく。巧みな陣形戦術と豊富に準備された多彩な防衛兵器類を前に、駆逐艦を中心に100隻以上の艦が撃沈ないし大破等で艦隊からの離脱を余儀なくされている。まぁ、幸いな事にそれらの艦ないし残骸は、優秀な拠点艦に回収する事で連邦側に鹵獲される様な事態だけは避けられるだろう。


 ドクターの創り上げたステルス技術とは言え、戦場においては絶対ではない。砲火やミサイル・魚雷の爆発とは全く違う閃光が戦場のあちこちで煌めき、その度に連邦軍側の砲火が特定地点へと集中する。結果として、集中砲火を受けたこちらの艦艇が戦線離脱を余儀なくされるのだ。


 主力艦隊に同行しているラボの分析員達の話では、恐らく金属同士の接触反応を利用した発光現象ではないかとのこと。確かに、先の戦闘でも細かい金属片らしきモノを宙域に視認していた。ただ、あの時は今のような状況には殆どなっていなかったからな。


 「それで、その特殊合金ってのは?」

 『元々は、レーダーの攪乱や妨害を目的に創られていた素材の様だ。いわゆる、チャフと呼ばれる防衛兵器の一種だな。だが、それが本来の用途には適さないとなって随分と昔に半ば死蔵された』

 「1度はお蔵入りしたはずの代物が、俺ら対策で日の目を見たと?」

 『その様だな。原理としては単純で、他の金属と接触するとその熱によって発光現象を起こす。それと、金属同士の結合も起こるな』

 「後は、その光と結合した金属物質を探知出来れば凡その位置が割り出せるってことか」

 『あぁ、仕組みは単純だが効果は悪くない。まぁ、相応の量をばら撒かない限り結果が伴わない分、コストパフォーマンスの観点からは決して良いとは言えんがな?』


 本来の目的に適さなかった特殊合金が、まさかこの様な形で日の目を見るとはね。しかも、決して無視できない損害をこちらに与えているのが現状だ。今回の事で、連邦は更に本格的にこれをオッサン達への対策として運用していくだろう。そして、その情報は当然ながら帝国や勿論のこと、共和国にも遅かれ早かれ行き渡る。


 「単純だが、それ故に対策が難しそうだな」

 『いや? ドクター曰く、対策は可能だそうだぞ?』

 「そうなのか?」

 『あくまで、現状で判明している性質だけでの検証らしいが、要は金属同士が接触する前に弾き飛ばしてしまえば、問題無いとのことだ』

 「いや、まぁその理屈は俺でも分かるけどさ? そう簡単にいくものなのか?」

 『それは、流石に私も専門外だから分からん。だが、ドクターの表情を見る限りでは、素案は既に脳内で出来上がりつつあるように思えたがな?』


 ドクターが優秀過ぎる問題再び。僅か数時間程度で対策が素案とは言え出来始めるってどう考えてもヤバいだろ。恐らくは偶然も味方して生み出されたであろう連邦軍の対ステルス技術対策が、下手をすれば数戦で機能不全になるやもしれない、この現状。


 「何だかんだ、俺らが勝てる様に采配してるだろ、あのバカ」

 『さてな? だが、結局はそれを活かすも殺すも一馬次第なんだぞ?』

 「どれだけ優秀な人材だろうと、上がクズなら真価は発揮出来ないか」

 『そうだ。各々の役割や能力を正しく理解し、適切に仕事を割り振らねばその力は無意味だ。無論、それに頼り切るのもまた失策だがな』

 「まぁ、頑張るさ。で、その特殊合金の製造拠点は?」

 『面倒な事に、惑星『フォルマ』の衛星に最大の生産拠点が存在している。これが『トゥーラ』だったら、あそこを攻略すればほぼ自動的に無力化が出来たんだがな。まぁ、その場合は別の場所に生産拠点を移されるだろうが』


 何事もそう上手くはいかないもので。取り合えず、ドクターによる対策が功を奏することを願うしか無いか。それまでは、多少の被害は覚悟の上で短期決戦に持ち込むしかない。持久戦に持ち込まれると、位置を特定される艦が増えるだけだからな。


 「ドクターによる対策と並行して、通商破壊艦隊による特殊合金の運搬を妨害するのが手だな。運搬ルートの特定は?」

 『既に、候補は絞った。少し時間を貰えれば、確実なルートを特定してみせるぞ? そうなれば、後は煮るも焼くもこちらの采配次第だからな』

 「了解。堅実に進めてくれ。それと、連邦も輸送ルートには厳重な哨戒と戦力の配備を行っているはずだから、無理せずあくまで補給艦隊の撃破と通商破壊艦隊戦力の維持を最優先で頼む」

 『無論だ。あくまで、彼の艦隊は敵補給網への打撃が主だからな。恐らく、嫌がらせ程度にしかならんだろう。では、そろそろそちらも戦闘だろう? 何かあれば連絡してくれ』

 「あぁ、またな」


 サウサンとの通信を終え、自席へ深く身体を預ける。やれやれ、厄介だな。戦闘では、絶えず電子戦による妨害を続けているが、情報を後方へ流す為に射出される魚雷擬きや足の速い艦艇には連邦軍の激しい抵抗もあって取りこぼしがチラホラと出ている。


 それらが齎した情報が本国まで伝われば、特殊合金の重要性は当然ながら増す。生産拠点が敵陣の本丸直近となると、簡単には手が出ない。連邦も、更なる増産と共にその輸送への警戒を強めるだろう。通商破壊艦隊では、流石に荷が重いか……


 「……取り合えず、目の前の敵に集中しよう」


 そう、今は目の前に迫った敵の前線拠点をどうするかだ。先の事に囚われて、足元を掬われる様な無様な真似だけは絶対に避けたい。今回は、宙ではマーク・トゥウェイン要塞以来となる拠点攻略戦。連邦軍が何処まで防衛に重きを置いているかは不明だが、簡単に放棄はしないだろう。


 「一馬さん。もう間も無く、前衛艦隊が連邦軍の主力防衛艦隊との交戦を開始します」

 「了解。本艦隊らは予定通りの針路を進む。前衛艦隊は、作戦通り行動を開始せよ」

 「了解しました。……これより、コールマフ連邦軍前線拠点に対する攻略戦を開始します」


 さて、敵将の胸を借りるとしましょうか。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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