表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第5章:「大国の終焉・上」
258/336

5-30:彼の宙は戦場である⑦

出撃シーンの大半が、機体のスラスターについて語る作品なんぞ、この作品位しか存在しないだろうね。

 「敵艦隊、陣形が変化。最後尾の駆逐艦が2隻、離脱コースを取りました」

 「了解。恐らく、拠点へ急報を知らせるつもりだな。残りの艦隊は、捨て身で時間稼ぎか……」

 「それから、敵艦隊旗艦と思しき巡洋艦から複数の高速飛翔体が発射されました。恐らくサイズからして魚雷かミサイルの様ですが、推定されるコースは……、敵前線拠点方面のようです」

 「拠点方面に魚雷? んー、攻撃目的とは思えないが……」


 電子戦艦による強烈な先制パンチにより、敵の偵察艦隊と思しき艦隊に大きな動きが起こった。位置取りからして、此方の左翼を掠める様に後方へと抜けるコース取りのようだ。そして、それに合わせるかのように、最後尾にいた駆逐艦2隻が艦隊の進んでいるコースから急速に離脱していく。


 こちらの情報を、ジャミングの影響により長距離通信によって伝えられないならば、可能になる宙域まで離脱するのが得策だ。敵艦隊の指揮官は、自分達が命懸けで時間を稼ぐ事で情報を後方の拠点へと伝える道を選んだ。


 駆逐艦は、艦速の差から見て労せずに捕捉し撃沈出来るとは思う。問題になるのは、魚雷と思しき飛翔体だな。コースから推察するに、恐らくは離脱した駆逐艦と同様の目的を有しているのだとは思うが、如何せん足が速い。


 「ソフィー。ちょっと、出てくるから艦隊の指揮を頼むわ。1隻残らず沈めてくれ」

 「了解しました。ご武運を」

 「おう。ヘイスァ、バイスァ。行くぞ?」

 「おー」

 「うぉー」


 まぁ、確かにウォーだな。うん、間違ってはいない。でも、何て言うか気が削がれるのは気のせいだろうか。主に、木の精の責任ですね、分かります。




 「香月司令官! 機体の最終調整は完了しています」

 「助かる。全力で飛ばすから、戻ったら総点検を頼むわ」

 「はっ!」


 オッサン達がパイロットスーツに着替え格納庫に着いた時には、既に専用機がカタパルトに据え付けられ、何時でも射出できる状態にあった。ソフィーが艦橋から入れた連絡に、専属の整備員達が迅速に対応してくれたのだろう。低重力エリアとなっている格納庫の床を蹴って、コクピットへと入り込む。これぞ、ダイナミック着席、なんつって。


 シートに腰を下ろし、手早く座席とスーツを固定する。慣性制御が為されているとは言え、この手の固定は欠かせない。ベルト式だと、身体の一部だけに負担が大きく掛かるのでスーツ全体を座席と固定する方式が採用されている。勿論、腕や脚などは操縦の為に自由に動かせるようにはなっているけどね。


 「閉めるぞ!」

 「了解! ご武運を!」

 「おう!」


 敬礼して離れていく整備員に返礼しつつ、コクピットのハッチを閉鎖する。一瞬の暗転と静寂の後、全周囲モニターが起動し、再びコクピット内を明るく照らし出す。機体を固定していたアンカーが順次外れていき、オッサンの乗る専用機のみがカタパルト上に残された。後は、各システムの確認を終え次第、カタパルトによって、宙へと艦から射出される。


 「メインシステム、航行システム、火器管制システム、オールグリーン」


 左から右へと視線を流しながら、搭載されている各システムの状態を確認。スイッチ類は最小限しかコクピットパネルには採用されておらず、基本的にはモニター上に各システムの状況が表示されるだけだ。


 「スラスターチェック!」

 『準備よし!』

 「メインスラスター!」

 『展開状態並びに可動域正常! 燃焼状態、問題無し!』

 「サブスラスター!」

 『同じく、稼働域および燃焼状態に問題無し!』

 「下部」

 『下部スラスター。同じく、問題無し!』


 出撃前に、各部スラスターの可動と燃焼状況を外部の整備員に確認して貰う。宙に出てから問題がありましたでは意味が無いからね。


 背面に設けられたメインスラスター。以前までは、4本の開閉式円柱型スラスターが上下左右に設けられていたが、その後の実機やシミュレーターで得られたデータを基に更なる改良が加えられている。最大の違いは、これまでは背面に各円柱形のスラスターが接合されていたが、これらを胴体に半ば埋め込む形に変更されている。


 理由としては、オッサンが全力機動を披露した結果として、スラスター結合部が金属疲労で明後日の方向へねじ切れてご臨終したから……。解せぬ。で、同様の事態が二度と起きない様にって、胴体に半ばまで埋め込んで一体化する方針に変更された訳ですよ。勿論、円形部分が展開してサブスラスターが出てくる機構自体に変更は無い。胴体に埋め込まれた部分も含めれば、以前よりも全長が長くなったとも言えるかな。


 内部に格納されているサブスラスター群も改良されて、より微細な制御が可能となっている。改良された結果、地味にメインスラスター全体としての推力自体も上がっているしね? ドクター曰く、凡そ2割ほどは推力が上がっているらしい。凄すぎませんか? 2割ですよ、奥さん。普通は、上がっても数パーセントだと思うんだけどね。


 で、メインスラスターに内包されているサブスラスターとは異なり、機体の各所に配置されている本当の意味でのサブスラスター群。こちらも、メインスラスター同様に細かい改良が加えられた。主に、噴射時間制御や推力の向上が主。後は、オッサンがより感覚的に操作出来るようになった位だろうか。


 最後に、腰から下の下部スラスター。これは、大型のスラスター兼兵装複合ユニットを搭載する為のハードポイントを兼ねている。こちらもご多分に漏れず改良が施されている。主な変更点は、ハードポイントの増加と、それに伴う下部スラスターの大型化。股関節周りの、強度向上。


 前者は、以前は下部スラスターの両側面にハードポイントが2ヶ所ずつ設けられていたが、これが両側面に1ヶ所ずつ追加したことに加え、前面・底部・後面の3か所にも追加が為され、2基の下部スラスターで合計18基の複合兵装ユニットを搭載出来るようになった。腕代わりの2基と合わせて20基の複合兵装ユニットが、この『ラーズグリーズ』の主兵装となる。


 「さて、出るとしますかね。退避完了か!?」

 『退避完了です。一馬さんのタイミングで、射出どうぞ』

 「オーライ! じゃ、行って来るわ! 香月一馬、『ラーズグリーズ』出る!」


 カタパルトによって、機体はゼロから一気に加速し宙へと射出される。艦隊戦に向けて減速を始める友軍艦隊をグイグイ追い抜きながら、ようやく実現したコイツでの実戦に興奮が抑えられなかった。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ