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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第1章:歴史の始まり
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1-25:交渉

物静かだけど目力強いおばちゃん良いよね。

 シャンインに糖分補給用のコーヒーを頼みつつ、俺は残っている仕事へと取り掛からなくてはならない。未だ戦闘を継続している海兵隊の対処だ。人数的に考えても、補給と退路も断たれた状態の彼らが長い時間戦い続けるのは困難だろう。でも、自暴自棄になった人間ってのはとんでもない事をしでかすからな。コロニー側に大きな被害が出る前に何とかしたい。まずは、正確な状況把握からか。


 「戦闘AI。共和国海兵隊の正確な展開状況は分かるか?」

 『現在、宇宙港とコロニー内部を繋ぐ、連絡通路内で戦闘が続いている状況です。共和国側は既に4両の支援戦闘車を失った様です』

 「その通路って駆逐艦クラスは無いだろうけれども、イースキーなら入れるか?」

 『入れなくは無いですが、内部での戦闘行動は厳しいかと』

 「ん~、どうやって彼らを降伏させるか……。下手な事してコロニーにダメージ入るのだけは避けたいが」

 『宇宙港を含めたあのエリアは、正確にはコロニー内部ではありません。緊急時にはコロニー本体への損害を抑える為に、必要なブロック毎に適宜切り離しが可能な筈です。コロニーから分離していまえば、艦砲射撃で叩けます』


 意外と言うべきか、安全面を考えたら当然と言うべきか。何れにせよ、場合によっちゃ海兵隊を通路と共に宇宙に放り出して砲撃するしかないか。なるべくなら、やりたく無い手段ではあるけどな。ローガン中佐には人道的な対応を約束したばかりだしさ。


 「ローガン中佐の戦闘停止命令を無視したら、最悪それも選択肢になるな……。必要なら、コロニー側に話を通す」

 『香月司令官。ローガン中佐から海兵隊へ戦闘停止命令が発令された様です』

 「司令官様。コーヒーですわ」

 「ありがとう、シャンイン。戦闘AI、海兵隊の様子はどうだ?」


 命令が発せられて即時戦闘停止とはいかないだろう。実際、上陸部隊の指揮官クラスに話をして、それから戦闘中の各部隊の指揮官へ話がいってと言った流れだろうからな。


 『現時点では戦闘を継続しています』

 「直ぐには止まらないよな……」

 『海兵隊は敵地に最初に上陸する部隊特性故か、隊員達には元々血の気の多い者がいます。戦闘による興奮状態も相まって、上官の指示も上手く伝わらないかもしれませんね』

 「所謂ハイってヤツか……。海兵隊指揮官に冷静に状況判断が出来る人がいると良いのだが」

 「司令官様。元々、共和国軍の艦隊と海兵隊では指揮権が別になっていますわ。時間が経過してもローガン中佐からの停戦命令に従わない部隊が出るのはやむを得ない事かと」

 「とは言え、停戦命令に従った部隊まで一緒くたにはしたくは無いしな……」


 最も難しいのはそこだと思う。例えば100人中90人が戦闘を止めても、残りの10人が継続した場合はどうするか。一緒くたにして処理するのか、或いは内部分裂でも誘発させるか。


 「もう少し様子を見よう。出来るだけローガン中佐と約束した通り、人道的にいきたい。ただ、最悪の場合は想定して準備だけは進めよう」

 「そうですわね。要塞司令官として、例え口頭での約束とは言え簡単に反故にしてしまっては、ローガン中佐の心象が悪くなりますわ」

 『了解しました。監視を続けます』


 ふぅ、中々精神的にくるものがあるな。先ほどまでの艦隊戦でもそうだったけれども、自分の命令で何十、何百の命が失われていると考えると、冷静ではいられない。とは言え、これから先さらに大きな戦いが起これば今回の比では無い死者が出るだろう。指揮官としての心構えとかもソフィーなりシャンインに教わるしか無いな。いざって時にブルって何も出来なくなる様じゃ、話にならないから。


 『司令官。海兵隊に動きがあった様です。順次、攻撃が停止していきます』

 「どうにかなったかな?」

 「そうですわね」

 『現在、展開中の部隊の内70%までが発砲を停止。宇宙港方面へと順次撤退を開始しています』

 「残り30%か……」


 宇宙港まで撤退した段階で、彼らには武装解除を求めるとしよう。流石に武装したままの陸戦戦力をそのままコロニー内に置いておくのはリスクにしかならないからな。しかし、その後はどうするべきか? 降伏した艦隊の乗組員達もそうだが、そのままお帰り下さいとも行かないだろう。降伏した艦艇は補給艦を除いて資源化したいしな。捕虜にすると言っても、場所を圧迫するだけだろうし……。その辺がぶっちゃけ何も定まっていなかったのだが今更になってだが、戦後処理の重い課題になったわ。


 『80%弱の部隊が攻撃を停止し、後退中。なお、依然20%程の部隊がコロニー側と交戦中』

 「20%……」

 「判断に悩む所ですわね。人数的に考えれば、そう時間が掛けずにコロニー側が制圧するでしょうが」

 「自暴自棄になってコロニーの破壊に移らないとも言えないしな」

 『司令官。コロニー側から通信です。繋ぎますか?』

 「あぁ、頼む」


 このタイミングでコロニー側から通信と言う事は、何らかの確認だろうか。恐らく、海兵隊の攻撃が弱まった事についてだろう。正面ディスプレイに、2人の人物が映し出された。1人は、第16コロニーの元締めとも言える人物で、大物犯罪者らしいコルネス・ディア・サンテス。褐色肌にスキンヘッド、身体中に入れられた刺青が特徴的な大男。でも、見た目に反して言動はとても紳士的な人物だったりもする。もう1人は、初見の人物だな。初老を少し超えた程度の女性。眼鏡を掛け、優し気な笑みを浮かべている。まぁ、あのコロニーの関係者となると只者では無いのだろうが。


 『数日ぶりだね、新米君』

 「いきなりですね、サントスさん?」

 『事実だろう? まぁ、冗談は置いておいて、君に紹介したい人が居てね』


 そう言って、女性を画面中央へと誘うサントス。エスコートの仕草1つ取っても、様になっているから凄いよな。完全に見た目で損するタイプの人間だよ。


 『初めまして、新米さん。私は、ディアナ・グ・ティグアンよ。ここの……、そうねインフラ関係を担っている部署の責任者って所かしら?』

 「初めまして、ランドロッサ要塞の新米(・・)司令官を務めます、香月一馬です。早速ですがインフラ関係と言う事は、ティグアンさんが宇宙港も管理されているという事でしょうか?」

 『あら、しっかり挨拶出来る子は私好きよ。それから、質問の答えだけど、イエスね』

 「そうですか。サントスさん、彼女がこの場に居ると言う事は、現在起きている共和国の陸戦戦力との戦闘に関してという事で宜しいでしょうか?」

 『その通り。君の理解が早くて助かるよ』


 コロニーの元締めと、宇宙港を含めたインフラ関係の責任者が揃っての話し合い。終結へ向けた最終確認と言う事だろうか。


 「それで、具体的な内容をお伺いしても?」

 『未だに戦闘を止めない者達への対処方法について、君の意見を聞きたくてね』

 「なるほど。此方としては最悪の場合は、あのエリアを封鎖して宇宙に放り出して艦砲射撃しようかと考えていました」

 『ふむ。残念ながら我々も君と同意見だよ。このまま戦闘が続けば、此方も被害が増えるだろう。事前準備が出来ていたから、現状程度で収まってはいるがね。このまま続くようならば、非情な手段も取らざるを得ない』

 『私としては、万が一の時に出来るだけ切り離すブロックは少なくしておきたいわ。じゃないと、再築にね?』


 やはり、コロニー側も同様の考えを持っていたか。まぁ、俺よりもコロニーに詳しい人達だからな。その辺の判断は出来るだろう。勿論、それによって生じるコロニー側の損害も計算しているだろうがね。


 「そうですね。もし現状で切り離すとしたら、どの程度の広さになりますか?」

 『そうだな。相手を上手く誘導出来れば、2ブロックと言った所だろうか?』

 『そうね。それ位なら復旧に掛かる時間も多少は抑えられるから、インフラ担当としては助かるわね。勿論、香月司令官からの支援も頂けると助かるのだけれどもね?』

 「あはは……、これは手厳しい」


 笑みは柔らかいのに、絶対に獲物は逃がさないわよって目が怖いよ。彼女がサントスと俺との話し合いに加わったのは、要塞からの各種資源提供を求めての事だな。実際、2ブロックとは言えコロニーから1度でも切り離してしまえば、再利用は出来ない。元の場所に新規に設置する為に少なくない資源が必要になるだろう。資源に乏しいコロニー側としては、資源を供給出来る能力のある此方に少しでも出させたい所だろう。悩む俺に、シャンインが耳元で小声で囁く。


 「司令官様。どの道、あのエリアで爆破工作でもされたら周囲への損害は更に増えますわ。で、あるならば資源の拠出で手を打つのも有りかと?」

 「どの程度かにもよるだろ? 流石に、艦隊の修理とかも考えると下手な事を言えないぜ?」

 「その辺は、言質を取らせない様に交渉して下さいな?」

 「他人事みたいに言いやがって……」

 「ふふふっ、応援してますわ?」


 シャンインの言い方に些か腹が立つものの、選択肢としてはそれしか無いのが現状だろう。無策に戦闘停止を訴えた所で、状況が良い方向に進むとは思えない。ならば、資源援助と引き換えに事態を大きく動かす方向に舵を取るしか無いだろう。勿論、ローガン中佐とも話をしなくてはならないけどな。頭が痛いよ。オッサン、悩み過ぎてハゲそう。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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[気になる点] 「もう少し様子を見よう。出来るだけローガン中佐と約束した通り、人道的にいきたい。ただ、最悪の場合は想定して準備だけは進めよう」  「そうですわね。要塞司令官として、例え口頭での約束とは…
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