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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第5章:「大国の終焉・上」
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5-17:帝国の動き②

次回は、再び要塞にかえります。

 「……まぁ、共和国に関しては特使が着き次第で良かろう。問題は、最初に話がでた亡命希望者達の受け入れに関する是非だ。皆はどう考える?」

 「判断に悩むところですな、陛下。無論、人道的な面を考えれば陛下の評判にも繋がりますので、受け入れるべきかとは思いますが……」

 「軍としても、連邦の潜航艦に関する技術や運用が知れるのは悪い話ではないが……」

 「連邦との停戦を捨ててまでの価値が、あるか否かと言う事だな?」

 「はい」


 話題は再び、最初に出ていた亡命希望者への対応へと戻ってきた。受け入れるも受け入れぬも、双方にメリットとデメリットが存在する以上は、簡単には判断が付かない。特に、亡命者達の所属国であるコールマフ連邦が何らかの動きも見せていない事もそれに拍車を掛けていた。何らかの動き、例えば亡命希望先とされる帝国に対し礼を失する要求なりをしてくれば、対応も幾らかし易くなるのだが。


 「一先ず、連邦に探りを入れるのが先決かと思われますな。向こうの意図を読み違えた場合、余計な火種を抱え込む事になりかねません。対外的には、関係各所で協議中とでもしておけば宜しいかと。それに対し、連邦がどう反応するかも重要な判断材料になるかと思います。後は、国家間の政治的な問題ですので、即断は出来ぬと報道機関に対しても繰り返し強く伝えるべきでしょうな」

 「……ふむ。連邦の出方を慎重に見極めるか」


 連邦との停戦は、帝国に取って対共和国戦へと注力出来る非常に魅力的な手札である。高い国力を誇る帝国とは言え、短期間ならいざ知らず、それなりの長期で複数の戦線を維持すると言うのは相応の負担になっていたのだ。それが、一定期間とは言え半分程度まで減らせる意義は非常に大きい。


 それ故に、帝国としては連邦の出方を慎重に見極める必要性があった。無論、相手の出方を待つという事は、必然的に大事な初手を相手に譲るという事になり、場合によっては流れを相手に決められてしまう危険性もある。


 「はい。或いは、共和国特使の交渉目的が本当に停戦ならば、思い切って亡命を受け入れ連邦との停戦を相手の反応を待たずして形骸化してしまうのも1つの手ではありますな。共和国側に向けていた戦力から占領地の安定化に必要な部隊を除き連邦側に再展開させるだけですので、そう時間も手間も掛かりはしません。何より、例の組織が連邦と共和国双方の注意を引き付けてくれるというならば、我々には相応の余力が生まれるかと?」

 「旧共和国領の安定化に加え、連邦と共和国を利用した対ランドロッサ戦に向けての情報収集継続と戦闘を想定した準備。そして、双方が彼の組織相手に戦力的に疲弊すれば、結果的に此方の受ける損害も減りますな。上手く事が運べば、我が国が受ける恩恵はかなりのモノとなるかと」


 もし、本当に共和国が帝国との停戦を望んで来るのならば、それをどう利用して帝国に対し如何に利益を齎すか。高官や将校達の意識は、次第にそちらへと向かっていた。彼らからすれば、連邦との停戦はあくまでも、あの時点で自国に最大の利益を齎す選択肢であったからであり、他に有益な選択肢が出ればそちらに乗り換えるのも決してやぶさかではなかった。


 全ては、帝国の国益の為。帝国の輝かしい未来の為なのだ。帝国に勝利を齎し、星系統一勢力としての栄光をその手に掴む為のもの。連邦も共和国も、そして謎多きランドロッサなる組織も、全ては帝国の敵でしかない。


 「……ふむ」


 皇帝は、頬杖をつき室内に居並ぶ高官・将校達を取り留めとなく眺めながら思案を繰り返す。星系という遊戯盤に配置された色とりどりの駒。それらを、如何様に動かすか。或いは、動かざるを得ない状況に追い込むか。誰が何をどの様に捉え、どの様に行動し、それがどの様に盤上に波及するのか。


 自身が動かせる駒と動かせぬ駒。そして、動きが読めぬ駒。盤上の駒とは別の、手中にある手札もまた鍵となる。どの手札を、どのタイミングで迷うわず切るか。或いは、これ見よがしに盤上に晒し、他の駒の動きを誘うか。駒と手札。形は違えど、何れにせよ帝国に利を齎す為には使う上で最適解を探す必要がある。


 「……ちなみに、参謀本部では例の組織の戦力を、どの程度だと見積もっているのだ?」

 「はっ! 先の、要塞攻略戦における戦闘詳報から、予備戦力も含め我が軍の艦隊換算で4個艦隊程度(12,000隻)と推定しておりました。ですが……」

 「どうした? 続きをはっきりと申せ」

 「はっ! 情報部によりますと、連邦軍の20~25艦隊程度の戦力が数か月ほど消息不明となっておりまして」

 「それだけの大戦力を見失ったと言うのか!?」

 「戦略情報部は一体なにをしているのだ!」


 参謀本部付けの高官の発言に、室内は俄かに騒がしくなる。1個や2個程度の艦隊の動向を見失う事ならば往々にしてあるが、流石に20個からなる大規模艦隊の消息が確認出来ないともなると予断を許される事態ではない。


 「静かにせよ! ……それで、それらの艦隊とランドロッサの戦力にどう関係があるのだ?」

 「はっ! それらの戦力が消息不明となって暫く後の話ですが、彼の組織の影響下にあるフォラフ自治国家近郊宙域で大規模な戦闘があったらしき事が確認されました。ただ、今のところ具体的な目撃証言などが何も得られていないため、情報部では判断に迷っているところであります」

 「……もし、その戦闘が行方を掴めなくなっていた連邦軍の艦隊と、ランドロッサが有する戦力との戦闘だった場合。彼の組織の戦力は、大幅に増える訳か」

 「陛下の推察される通り、事実であるならば大幅に上方修正する必要がございます。ですが、何分あの宙域の情報は我が国にそう多くは入って来ません。共和国との動乱、その後の混乱の折に現地の情報源はほぼ潰されております。未だに、再建もままなりません」


 フォラフ自治国家近郊宙域で発生した戦闘。定期船などが航行する宙域からは逸れているが、それでもそういった宙域を敢えて選んで進む者達がいる。それらの者達が戦闘の光跡と思しき光を目撃していたのだ。そうした話が、あちらこちらへと噂として広まっていた。それらを、帝国の戦略情報部が掴んだのである。


 なお、フォラフ自治国家に根を張っていた帝国の諜報網を虱潰しに潰したのは、ランドロッサが誇る諜報部門である。ネズミ狩りと称して、自治国家の主要都市で帝国を含む各国の諜報網を徹底的に刈り取っていた。なお、その部門の長は上官に対して、適当にあしらったと笑顔で報告していたという。


 「何れにせよ、連邦に対し正面から宣戦布告までしてのけたのだ。相応の戦力が無くば、不可能であろうことは間違いないか。さて、どう動くべきか……」


 そう言った皇帝の表情は、とても好戦的なものだったという。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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