5-14:宣戦布告
耳に心地良い言葉の持つ、魔性の魅力。
『……以上の事より、我々フォルトリア星系平和維持軍ランドロッサは、彼らの政治的な亡命が為されるまでの期間、その身柄を保護し受け入れる事を此処に表明する。彼らは、コールマフ連邦政府政治局からの深刻な命の脅威に晒されているものであり、我々は決してその状況を座視あるいは看過できるものではない。政治的な亡命先として、彼らはワルシャス帝国を希望している。名君の呼び声高いゲルニア・フォン・ワルシャス皇帝陛下には、人道的な面から彼らの受け入れを是非ともお願いしたい』
ランドロッサ要塞の中央管理AIにより、フォルトリア星系中に送信されている映像。オッサンの少しだけ芝居がかった演説を音声に、多くのフラッシュがたかれる中で笑顔で握手を交わす外務担当のシャンインと、コールマフ連邦軍潜航艦部隊指揮官であるマルク・ポナソヴァ大佐。
連邦軍の現役軍人が自ら指揮する部隊ごと亡命を望み、それの仲介をオッサン達ランドロッサ要塞が受け入れた事で行われたその政治ショー。まぁ、ネタバレするのならば、その場に立ち会っているのは全てが此方の人材だけどな。
場面は切り換わり、艦から降りて歓待を受ける連邦軍の乗組員達。飯を喰らい、酒を飲み穏やかな笑顔で戦友達と語る姿。政治的に命を狙われている以上、それらの笑顔がほんの一瞬のモノである事は、きっと敏い視聴者の皆様には存分に伝わる事だろう。
『……彼らは、我々と何ら変わらない1人1人の人間だ。しかし、コールマフ連邦はその命に明確な差を与えている。血統という、人が持つ多くの要素の中の1つに固執し、自らを選ばれた者だと自称する。実に愚かであり、哀れだ。我々は、彼らをその長きに渡る呪縛から解き放たなくてはならない』
ぶっちゃけ、ワルシャス帝国も貴族主義を拗らせているけどな。それでも、まだ努力すればある程度の高さまでなら登れるし、少なくとも血統だけで全てが判断される様な事は無い。厳格な身分差があれど、それで全てが決まる程ではない。
共和国も、人気取りの衆愚政治が蔓延しているが、言うほど国全体が腐敗している訳ではない。体制側にも反体制側にも有能な人材はいるし、そうで無い者もいるだけの話。民衆が変われば、国は幾らでも良くなる。逆を言えば、民衆が変わらねば世の仕組みは何も変わらない。下らぬ政治ショーに明け暮れるだけだ。
『……我々は、フォルトリア星系の恒久的な平和を願う組織として、彼らの勇気ある行動を無にしない為にも、明確な行動に移るものである。フォルトリア星系歴525年6月8日を持って、我々フォルトリア星系平和維持軍ランドロッサはコールマフ連邦に対し、宣戦を布告する』
オッサン達は、愛と勇気と平和をこよなく愛する超平和的な組織です。一応、規模も規模なのでこれまでの武装組織から軍とは名乗り変えましたが、あくまで自衛手段に過ぎません。コロニーレーザーとか、ちょっと過激な自衛用の戦略兵器もありますが、大事なのは使い方だと思います。
『これは、紛れもない正義の戦いである。多くの罪なき人々を弾圧・抑圧し、力で支配してきたコールマフ連邦に対し、今こそ行動に移すべき時なのだ。正義を胸に志を同じとするワルシャス帝国、ボルジア共和国両国にも協力を呼び掛けたいところではあるが、今の情勢がそれを許すとは残念ながら思えない。故に、我々は単独で連邦と対峙する事を決断した』
正義はオッサン達ランドロッサであり、討たれるべき悪はコールマフ連邦なのです。各々の国家上層部の様々な思惑などどうでも良く、単に民衆が大好きな正義って言葉を煽り文句として使うだけです。勿論、勝たなければ意味がないけどね。結局、勝者が歴史をつくるからな。たまに、自分では何もしてないのに、勝者側を気取っている馬鹿がいるが、その手の輩は放っておくに限る。拗らせた奴の相手なんぞ、時間の無駄だ。
いや、お前らボルジア共和国と戦争中だろって? 知りませんね。刻一刻と情勢は変化するのですよ。今は、共和国とではなく、コールマフ連邦に対し正義の戦いを繰り広げる刻なのです。共和国がどう思うかなど知りませんし、どうでも良いです。
『最初の攻撃目標は、連邦軍最大の軍需拠点たる惑星トゥーラとその周辺に浮かぶ産業用コロニー。彼の地の陥落なくば、この大戦の勝利は無い。だが、我々は彼の地が罪なき人々の血で塗り潰される事を望まない。トゥーラの人々よ、どうか各々の正義に従って決断して欲しい。荷物を纏め、家族と共にその地を離れるのだ。或いは、軍需施設から距離を取るだけでも良い。物資や水、食料を売るのを拒むだけでも良い。貴方がたの勇気ある行動が、人の命や人生を弄ぶコールマフ連邦へと敗北を齎す大きな一歩となる』
ぶっちゃけ、こんなの建前です。この程度の演説で逃げるヤツなんぞ皆無だろうし、進んで連邦政府に楯突くようなヤツも既にこの世にいないだろうからね。では、何の意味があるかと言えば後で民間人の犠牲がどうこう言われないが為の、アリバイ工作ですよ。
映像と言う明確な形で、あの地からの避難を呼び掛ける。それで逃げないのならば、全員纏めて軍属として叩くだけだ。老若男女問わず、残っている者達すべてを敵軍と見なす。その為の、布石であり踏み石です。
逃げたくても逃げられない人はどうするのかって? そんなもんは、知らん。オッサン達にだって、出来る事と出来ない事があるんだよ。犠牲を減らす努力はすれど、ゼロにする事は神であろうとも不可能だって事も知っている。
『願わくば、これがフォルトリア星系における最後の大戦となる事を切に祈る。かつての銀河連邦崩壊から今日まで、幾つもの戦乱が起こり数多の命がこの宙に散ってきた。祖国の為、家族の為、愛する者達の為。散っていった輩が心安らかに眠りに就けるよう、我々は戦いを、悲しみの連鎖を我々の時代で終わらせなくてはならない。次の代に争いを引き継いではならないのだ』
無理です。連邦が崩壊しようとも、帝国と共和国が残っていますからね。両国とも、仲良く手を取り合ってなんて、そう簡単にはいかんよ。何れ、雌雄を決する時が必ず来る。人間ってのは、実に愚かなナマモノなのです。……オッサンもだけどね?
『……もう1度だけ言おう。これは、正義の戦いである』
オッサンのその台詞と共に、映像は終了となる。うん、何度見ても実に胡散臭いことこの上ないプロパガンダ映像ですね? 正義(笑)とか、どの口が言っているのかと四方八方から鋭いツッコミが入ること間違いなしですよ。でもね、これ位のいい加減な映像の方が意外と思わぬ影響を与えたりするから、世の中ってのは面白いんだよな。
さて……。
「賽は投げられたってね」
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