4.5-33:束の間の平穏㉝
取り合えず、後1話で間章は終わります。
自分で書いておいてなんだけど、長かった……。
モニター越しに行われる姉妹の再会。モニターに映る、『紅の蠍団』のトップを張るパメラ嬢のお姉さんは、双子だけあって確かに彼女と瓜二つだな。8年振りだかの再会になるが、少なくともお姉さんの方は直ぐに彼女が妹だと気が付いた様だ。
お姉さんの表情に込められているのは、驚愕と疑問と、少しの後ろめたさだろうか? お互いを認識した姉妹の間に、暫くの沈黙が続く。てっきり、パメラ嬢からさっさと要件を切り出してパパっと用事を済ませるのかと思っていたが、そう簡単な話では無いようだ。部外者には分からない、実の家族だからこそ色々とあるのだろうね。
『元気……、そうね。パメラ?』
「……あぁ。何とかな」
『8年位、かしら?』
「……あぁ」
『……』
一先ずお姉さんから始まった、何ともぎこちない姉妹の会話。とは言え、生き別れた姉妹の感動の再会という訳でも無く、2人の間の会話は直ぐに途切れてしまう。まぁ、お姉さんの方はどうか知らんが、パメラ嬢からすればお別れを言うだけだからな。会話を長く続ける必要も無いし、結果として何処か相手に距離を感じさせる応対になるのだろう。
『……無事だったのね』
「……どっかの無鉄砲なヤツのお陰でな」
『そう……』
お姉さんの言う、無事とはボルジア共和国へ連れ去られていた事についてだろう。彼女だって、宙賊の長として、職業上は必須な情報収集をそれなりにはしているだろうからね。まぁ、とは言え知ったからといって何が出来るという訳でも無いだろうが。
それにしても、パメラ嬢さんや。もしかして、無鉄砲ってのはオッサンの事ですか? いや、確かに戦争中の相手の主星に乗り込んでの大救出劇は、他人から見れば無鉄砲と言われても仕方が無いとは思いますけどね。少しくらいは、オブラートに包んでくれても良くはありませんでしょうか?
『それで、わざわざその事を私に報告しに来た訳じゃないんでしょ?』
「……あぁ」
『……』
「今日は……、カズマに。あぁ、カズマってのは」
『その男の事なら、知っているわ。私達、宙賊を排すると宣言した男だからね』
そう言えば、そんな事も言ったっけ。でも、その後でボルジア共和国と事を構えたことで忙しくなって、ぶっちゃけ放置気味なんだよね。何れ、本格的に艦隊を派遣しての掃討戦が必要かもしれんが。まぁ、排除するにしても言う事を聞かない連中だけで良いかなとも少し思う。虱潰しに探して、全部を狩るとか面倒だしな。でも、余計なのが残っているのもよくは無いか……。
「なら、本題に入るよ」
『……何かしら?』
「……今日は、お別れを言いに来た。まぁ、星女候補として此処を離れた時に、既にしていた様なものだけどな」
『……』
実家の稼業を継いだお姉さんへ、別れを告げる事。パメラ嬢が次に進む為の、謂わばケジメみたいなものだそうだ。彼女なりの考えがあるのだろうから、オッサンは何も口は挟みません。彼女が納得して、それで次の未来へと歩き始められると言うならば、それで良いじゃないですか。たまには、良い事もしておかないとね?
「これから……、私は星女としてではなく、パメラとして自分だけの人生を進むんだ。もう、誰にも何にも縛られない。私だけの人生だ。これまでの全部を、捨てる。勿論、家も姉さんも」
『……』
「全部、捨てて。真っ新な所から、始める。私だけの人生を。私だけの未来を」
『……』
「だから、これでお別れだ。もう2度と、姉さんと会う事も無い。此処に、戻る事も無い。全部、全部捨てていく。だから、さよならだ。姉さん」
『……』
姉妹の永遠の別れ。この2人の人生が、この先の未来で交差する事は無いだろう。片や、宙賊の長。片や元星女。生まれは同じなれど、その生は大きく袂を分かたれた。そして、これからの未来も違う。どちらが幸せで、どちらが不幸かなどいったことは無く。どちらも、また人の人生なのだろう。
『それだけ?』
「……あぁ」
『……そう。パメラ。貴女、そんなくだらない事を報告する為に、態々ここまで来た訳? 馬鹿じゃないの?』
「……」
『貴女が、何処で何をしようが。1人で勝手にくたばろうが、私の知った事では無いわ。貴女の居場所など、とうの昔に消えたのよ。今更、別れを言われる筋合いも無いわ。それとも、何かしら? 私が、貴女との別れに涙の1つでも流すとでも期待した訳? だとしたら、この私も随分と舐められたものね!』
「……姉さん」
パメラ嬢を突き放す様な、お姉さんの辛辣な言葉。
『何処へでも、好きに行けば良いわ。籠の中の鳥でしかなかった貴女には、厳しい世界でしょうけどね。勝手に生きて、好きに死になさい』
「……姉さんに言われなくても、そうするさ。もう、覚悟は出来てるからな」
『そう。なら、これで終わりね。もう2度と会う事は無いわ』
「……あぁ。お別れだ、姉さん。元気で」
『貴女もね、パメラ。精々、外の世界に絶望しなさい』
「……言ってろ」
8年振りに交わされる、姉妹の会話。その、最後のやりとり。でも、不思議とそこに冷たさとか突き放す様な感じは無い。8年の空白を埋める様に会話を交わす訳でも無く、ただ淡々と別れを交わす2人。多分、これがこの2人なりの別れなのだろう。宙賊という、稼業を営む家に生まれた双子の姉妹の……。
「ありがとな、カズマ」
「……あぁ。俺は少しだけ、君のお姉さんと話があるから。また、後でな」
「分かった」
別れを終え艦橋を出るパメラ嬢を見送り、再びお姉さんの映るモニターの前へと進み出る。
「さて、姉妹のお別れも済んだようで?」
『妹が世話になったみたいね』
「別に、此方の都合で助けたに過ぎない」
『そう。それで、用件は?』
良いね、余計なお喋り無しにズバッと本題に切り込んで来てくれる人は。グダグダとお話したところで、何かが変わる訳でも無いしね。それもコミュニケーションって言う人もいるだろうけど、オッサンは無駄は極力削るタイプです。
「では、単刀直入に。滅びるか、廃業するか。好きな方を選べ」
『……』
「廃業するならば、次の仕事と住処は準備しよう。まぁ、端的に言えば傘下に入れって事だな?」
『拒否すれば、撃つと?』
「当然」
ぶっちゃけ、宙賊をどうしようか当初の予定とか既に忘れてます。確か、過激派を潰して穏健派を取り込むとかだったっけ? まぁ、使える駒は活かして、後は消せば良いよねって感じだった筈。いや、全部潰すって話だったか? その為に、シャンインに宙賊艦隊を率いさせていた様な気もする。
取り合えず、パメラ嬢の実家に関しては選択肢を与えるって方向でいきたいと思います。一応、過激派には属していない様だからね。まぁ、宙賊の時点で過激も穏健も無いとは思うけどさ。やってる事に、大差は無いからな。
『……なら、答えは1つだ』
「そうか。で、答えは?」
『くたばれ!』
モニター越しに、中指を立て先の言葉を言い切った上で此方を睨むパメラ嬢のお姉さん。良いね、好きだよこのタイプの人は。バッサリと、撃つのが惜しくなるほどだ。でも、まぁ……。
「……残念だよ。良い関係を築けたかもしれないが」
『誰かの下につくなんぞ、御免だ』
「そうか。では、1時間だけ待つ。それまでに、仕掛けてくるも良し。好きにしろ」
『その余裕。後で後悔するなよ?』
「怖い、怖い。では、良き戦いを期待するよ」
『……』
最後に、此方をひと睨みして通信が切れた。それにしても、最後のお姉さんのあの口の動き。オッサンの勘違いで無ければ……。
―妹を頼む―
だよな? ……やれやれ。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!