4.5-31:束の間の平穏㉛
年内最後の更新です。
年明けは、1月7日(木)朝6時から再開します。
では、皆様。良い年をお迎えください。
さて、非殺傷兵器による凄惨な現場作りの後、何回か散発的な攻撃は受けたものの、何れも護衛の戦闘アンドロイド達によって難なく排除され、無事に揚陸艇を経て『スレイプニル』まで戻って来る事が出来た。
パメラ嬢を護り、母艦へ帰投せよ!→クリア!
ゲーム的な表現をするならば、この様な感じだろうか? まぁ、オッサンは道中ほとんど何もしてませんけどね? 最大の見せ場は、デルモート局長とオルガ支部長の脳天を吹き飛ばしたところでしたとさ。さて、件のパメラ嬢を伴って帰投したのは良いが、お仕事はまだ残っているのですよ。
お礼参りってヤツだな。まぁ、特段、オッサンとして何か世話になった訳でも無い。あくまで、今回の『コンラッド』コロニーと同様に、用があるのはパメラ嬢だ。訪問先は、彼女の実家たる宙賊『紅の蠍団』の根拠地。ネーミングセンスには耳を疑うが、まぁそれは置いておく。
場所は、『コンラッド』コロニーからさほど離れていない、小規模なデブリ宙域に浮かぶ廃棄された資源衛星。他の宙賊もそうだが、この手の廃棄衛星ってのは脛に傷を持つ連中からすれば格好の隠れ家になる様だ。
帰投後の報告と今後の予定の再確認と称して、艦内の喫茶スペースで茶を片手にソフィー達と談笑を楽しむ。何ていうか、こういったお茶を楽しむ心の余裕ってのは大事だよな。どれだけ厳しい戦いの渦中であろうとも、人として心の余裕は持ち続けたいと思う訳で。まぁ、流石に砲弾が飛び交う戦場のど真ん中でいきなりティータイムと洒落こむのは厳しいが……。
「さて、パメラ嬢の実家訪問と行こうか。場所は問題ないね?」
「勿論ですの! バッチリ、把握済みですわ」
「既に、艦隊の一部を先行させ周辺の封鎖を開始しています。後は、正面から乗り付けるだけかと?」
「了解。次はスムーズに終わると良いんだけど……」
「一馬様。それ、フラグですわ!」
「とは言え、相手は宙賊ですので。抵抗するならば、コロニーとは異なり根拠地ごと叩けば終わりかと」
「一応、パメラ嬢の実家だからな。問答無用で吹き飛ばすってのは、流石に不味いだろ」
今は確か、お姉さんがトップに就いているんだったかな? パメラ嬢を売ったクソ親がまだ生きているのかは聞いて無いから知らんが、それでも即座に吹き飛ばすってのは避けた方が無難だろう。先ずは、平和的かつ建設的な議論から始めないとね。吹き飛ばすのは、その後でも遅くは無い。
「……別に、構わないぞ?」
「……良いのかよ!?」
「まぁ、冗談だよ」
「ソイツは、なんともキツいジョークをありがとよ……」
艦へと帰投後に、自室へと戻っていたパメラ嬢だが、何時の間にやら喫茶スペースへと顔を出しに来ていた様だ。まぁ、場所柄とくに機密に関する様な話はしていないので、彼女が同席しても問題は無い。
「あくまで、姉さんに別れを告げるだけだ。それで突っかかって来るというならば、後はカズマが好きにして良いと思うぞ? 先に手を出した方が悪いからな」
「結果的に、実家が吹っ飛んでもか?」
「あぁ。あそこには良い思い出もあるけど、どう言い繕っても所詮は宙賊の拠点。後生大事に取っておくべきものでもないしな」
「そうか。まぁ、可能な限り平和的にいこう」
『コンラッド』の様な、まことに残念な結果は出来るだけ避けたいからね。あくまで、オッサンは平和を愛し平和に愛された、素晴らしい司令官でありたいのですよ。まぁ、血塗られた足跡を大量に残している現状からはそっと目を逸らしますがね。ラブアンドビーフの精神だぜ! 愛と牛? サーロインより、赤身肉が好きです。
そんな会話をしてから、暫くの後。オッサン達を乗せた『スレイプニル』率いる、『ラーズグリーズ』&『ランドグリーズ』艦隊は、パメラ嬢の実家たる『紅の蠍団』が根拠地とするデブリ宙域へと到着した訳ですよ。商用航路からは外れている事もあり、レーダーに見える範囲内には軍民問わず艦船は確認出来ない。
「流石は、歴史のある宙賊ってところかな? かなり注視して見ないと、廃棄された資源衛星にしか見えないな」
「それは、当然だ。宙賊ってのは、同業との縄張り争いも激しい稼業だからな。自分達の拠点を如何に上手く隠し通すか、嫌でも力を入れるんだよ」
「血で血を争う稼業か。因果なモノだな?」
「そもそも、賊だからな? 奪って、奪われての連続だ。まぁ、宙賊同士の場合は、相手の命までは奪わないって言う不文律があったりもするけどな」
賊の不文律ね。でも、その対象が自分達と同じ宙賊にしか適用されないってどうなんだろうね? 獲物として襲われる貨物船や貨客船、客船の人達は対象外って事だろ? まぁ、そもそも賊に義だの何だの求めるが間違いか。
「……まぁ、私も外に出る迄はそれが当たり前の世界だと思っていたんだけどな。星女になった事で、1つの世界しか知らない事が、どれほど恐ろしい事なのかって思い知らされたよ」
「それは、仕方が無いだろ。誰だって、最初に知る世界ってのは最も身近な大人達から与えられるモノだからな。それが正しいのか、間違っているのか。それは、他の世界を知ってからでないと比較出来んよ」
まぁ、パメラ嬢の場合は環境が特殊過ぎたってのもあるけどな。普通の人は、もっと早くに他の世界を知って、自分の世界と比較する機会を得られる。彼女の場合は、それが比較的だが遅かっただけだ。特に、色々と自身の中で決まって来る頃までに他の世界を知らないと、後から変えていくのは難儀する。
「そうだな。でも、外の世界を知っても、変わらないヤツらもいるけどな」
「変わらないのか、或いは変われないのか。何れにせよ、その選択は自分にかえるだけだ」
「あぁ。私は、選んだ。だから、その結果も私だけのモノだ。……姉さんも、理由はなんであれ宙賊の長を引き継いだ以上、その結果からは逃げられないさ」
「……」
そう言い切ったパメラ嬢の横顔に、ふと年甲斐もなく魅入られてしまった。星女を辞し、己の道をただ歩むと決めた彼女。その道は、決して平坦なものでは無いだろうが、それでも幸あれと願うばかりだ。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!