表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第1章:歴史の始まり
21/336

1-21:要塞司令官としての奮闘①

前話の要塞視点でお送りします。尚、1話で終わらなかった模様。

 当初の予定より30分強の遅れで共和国の追跡艦隊が第16コロニーへと姿を現した。宇宙港からの映像を中継して貰い、その様子を司令室で眺めている俺とシャンイン。予定通り、貨客船ディーシー号が目立つ様に彼らの目前を横切りつつ宇宙港から出港していく。その様子に気が付いたのだろう、共和国艦隊側に動きが見えた。


 「さて、何隻釣れるか……」

 「……どうやら2隻だけの様ですわ」


 残念ながら、物事と言うのは上手くは行かないようだ。でも、2隻だけでも減らせたのならば儲けものと考えるべきだろう。第2、第3分艦隊の負担が増えるが、そこは上手くやるしかない。こうなったら、第1からイースキーを増援として向かわせても良いな。それに合わせて残ったカンターク級巡洋艦も予定地点より前進させるとしよう。ついでに、万が一を想定して、巡洋艦を後詰としてコロニー宙域へ送り込んだ方が良いかもしれない。


 「少しプランを変更しよう。第2と第3は同時では無く時間差を付けて攻撃、第1のイースキーは追撃の駆逐艦をデブリ帯で躱してコロニー側の増援に向かわせる。カンターク級は所定よりも前進して迎撃態勢を取らせる」

 『了解しました。各艦隊の作戦行動を変更します』

 「ソフィー。アイザフ艦長に作戦変更を伝えてくれ。合流は巡洋艦1隻のみだと」

 「了解ですわ」


 ソフィーがアイザフ艦長に状況の変更を伝える中、俺は正面のディスプレイに映し出される第16コロニーを中心とした宙域図へと目を凝らしていた。ディーシー号の追跡に向かった駆逐艦2隻を除き、敵勢力は補給艦も含めると19隻。6隻の補給艦は宇宙港に入港するだろうから、残り13隻か。巡洋艦1隻に駆逐艦4隻の艦隊が2個と、巡洋艦1隻に駆逐艦2隻の艦隊が1個。どの艦隊がどのポジションに付くだろうか?


 「上陸部隊の護衛に定数の艦隊。周辺警戒に残りの混成艦隊か? 或いは、残りの艦隊もそれぞれ警戒行動に移るのか……」


 補給艦の数からして、定数を満たしている艦隊が護衛に付くのは間違い無いとは思う。残りの2個艦隊の動きだな。定数を満たしていない艦隊がどう動くか。指揮権の問題も有るだろうから、どうにも読めない。


 「戦闘AI。敵3艦隊の内、コロニー寄りの艦隊をボギーα。定数を満たすもう片方の艦隊をボギーβ。艦数が減少している艦隊をボギーγと呼称する」

 『指令、受託しました。以降、敵艦隊をボギーα、β、γと呼称します』

 「敵の各艦隊の行動に注意。第2、第3分艦隊は敵レーダー網に入らない様に適宜移動させてくれ」

 『指令、受託しました。各艦隊、探知予防の為に移動を開始します』


 宙域図上で、友軍と敵軍を表示するそれぞれの△マークが細々と絶えず動く。共和国側は、周辺を警戒しつつ、補給艦を宇宙港へ入港させる手続きを進めている様だ。一方で、此方の艦隊はコロニー表面の様々な突起物によって出来る死角を巧みに利用しながらゆっくりと配置転換を行っている。第1分艦隊は、もう間もなく、変更後の迎撃ポイントへと到着するな。ディーシー号も現在の所は無事に追撃から逃げられている様だ。


 「司令官様。アイザフ艦長への連絡は完了ですわ」

 「ありがとう。此方は、共和国艦隊次第って所だね。入港に手間取っているみたいだ」

 「どうやら、必要以上にコロニー側が時間稼ぎをしている様ですね?」

 「参ったな。下手に時間掛かると、ディーシー号側が先に戦端を開く羽目になるぞ」

 「連絡を入れますか?」

 「そうだな。時間稼ぎは十分と送っておいてくれるかな?」

 「お任せ下さい」


 今度はコロニー側へと連絡を取るシャンインを横目に、再び思考の海へと飛び込む。

 まずは第1分艦隊側からだな。アイザフ艦長率いる貨客船ディーシー号は、予定通りのコースを駆逐艦2隻の追跡を受けながらも順調に航行している。既に停船命令及び警告射撃が有ったようだが被害の報告は無し。迎撃を担当するカンターク級巡洋艦は配置に付いた。誘引された共和国の駆逐艦が射程に入り込むまで、後30分強と言った所だろう。イースキーは駆逐艦のレーダーを掻い潜る様にデブリ帯を飛行している為に、コロニー宙域到着まではまだ時間が掛かる。現状の予定だと現場宙域到着は夜9時より少し前と予想されている。

 第2分艦隊は宇宙港周辺で補給艦を警護する艦隊への奇襲を担当するが、現時点で敵艦隊の動きが流動的なので標的の固定が出来ていない。何となく、コロニーに最も近いボギーαがそうなるのでは無いかとは思っているが、勘だけで行動させるのは危険だな。

 第3分艦隊は最も臨機応変の行動を求められる事になりそうだ。ボギーβとγが共に行動するならば、それぞれの巡洋艦を最初の奇襲で狙い撃ちさせる必要があるし、両艦隊が別々に行動する状況ならば単艦でそれぞれと交戦させる事も十分に考えられる。此方としては奇襲によって、戦闘序盤において敵艦隊に自由な艦隊行動を取らせない様にするのが重要になる。勿論、最初の混乱から立ち直った敵艦隊は組織だった抵抗をしてくるだろう。でも、艦隊の纏め役たる巡洋艦を先に沈めておければ、立ち直るまでの時間も掛かるだろうし、その後の艦隊行動にも何らかの影響は出る筈だ。


 「とにかく、巡洋艦を潰して敵に混乱を与える事が最優先……」

 「司令官様。コロニー側が共和国補給艦の宇宙港への受け入れを開始しましたわ」

 「了解。良し、後はタイミング次第だな。少し様子を見よう」

 「了解ですわ。コーヒーのお替りでも入れましょうか?」

 「あぁ、頼むよ」

 「はいっ!」


 鼻歌を歌いながらコーヒーのお替りを取りに行くシャンイン。何て言うか、彼女からは緊張が感じられないな。凄く自然体って言うか、何時もと変わらないその様子に思わず笑いがこみ上げてくる。何て言うか、自分だけ緊張して馬鹿みたいだなと。少しだけ、肩の力を抜くとしよう。




 『敵駆逐艦、轟沈を確認。続いてもう1隻も被弾による被害甚大な模様』

 「良し、確実に止めを刺せ! それから、ディーシー号はどうだ?」

 『ディーシー号は、予定通りのコースで此方へと航行中です。駆逐艦2隻以外の追跡は確認出来ません』

 「了解。カンターク級巡洋艦は残存する敵駆逐艦を撃沈次第、第16コロニー宙域まで前進、友軍艦隊と共に敵残勢力を排除させろ」

 『指令、受託しました』


 共和国の陸戦隊改め海兵隊が第16コロニーへと上陸し始めてから20分程が経過したタイミングで、貨客船ディーシー号を追跡していた共和国の駆逐艦2隻がカンターク級巡洋艦の射程へと飛び込んできた。追跡に夢中になる余り、周囲への警戒が疎かになっていたのだろう。デブリの影から姿を現した此方の巡洋艦に対して有効的な対処を、彼らは何もする事が出来なかったのには同情するよ。

 カンターク級巡洋艦の主砲たる連装150㎜投射砲2門から放たれた4発の砲弾は寸分の狂いも無く、2隻の内で先頭を行く駆逐艦の艦橋と船体後方をそれぞれ見事に撃ち抜いた。思わず、手を叩いて喝采したくなる程に見事な結果だった。船体の重要部を撃ち抜かれた駆逐艦は、閃光と共に大爆発を起こし轟沈する。あの光の中でどれだけの命が失われたのだろうか? いや、今はその様な感傷に浸るべきではないな。戦って勝つ、それが俺に求められているたった1つの事だ。


 「お見事です、司令官様!」

 「いや、戦闘AIが優秀なだけだよ。俺は命令してるだけさ」

 「だとしても、命令が的確だったからの戦果ですわ。誇るべきです!」

 「ありがとう、シャンイン」

 「続いて、もう1隻も撃沈! 追跡してきた艦はこれで全て撃破。初戦は私達の完勝ですわね?」

 「あぁ、でも本番は此処からだ。第2、第3分艦隊が勝利してはじめて今回の戦闘に勝てたと言える」

 「勝って兜の緒を締めよですわ!」

 「その通り。シャンイン、戦闘AI。次も勝つぞ?」

 『「了解です(わ)」』


 フォルトリア星系歴524年5月27日。後に、第16コロニー本来の名を取って【ガルメデアコロニー攻防戦】と呼ばれる戦いの序盤戦が、ランドロッサ要塞側の完全勝利で終結したのである。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ