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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第4.5章:揺れる宙
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4.5-16:束の間の平穏⑯

Oorah!

 1月26日の朝にランドロッサ要塞を出発したオッサン達は、『ラーズグリーズ』と『ランドグリーズ』を護衛部隊として引き連れ、事前の計画通り3日間という短い宙の旅をへて第8コロニー『コンラッド』へと辿り着いた。


 別に隠す様な事でも無いので明かすが、今回の目的地の1つ目が『コンラッド』コロニーだ。本当ならば、用件としては第10コロニー『シャングリラ』へと足を運ぶべきなのだろうが、生憎と知り合いがいないからな。なので、一応は顔見知りである、コンラッド支部のバイセル・オルガ支部長に会う事にした訳だ。


 察しの良い人なら思い至るだろうが、訪問の目的はパメラ嬢の今後についてだ。まぁ、別に事前に彼女を助け出した事は知らせていない。オッサン達には、彼女についてパルメニア教団へと知らせる義理も義務も無いからな。彼女も、特にそれを要望していなかったしね。


 「一馬様。『コンラッド』コロニーの管制から、宇宙港外縁部への接舷許可が出ましたわ。……まぁ、1隻のみですけど」

 「了解。1隻でも接舷許可が出ただけ上出来だよ」

 「では、『スレイプニル』接舷準備に入ります」

 「よろしく。俺はパメラ嬢に声を掛けてくるよ」

 「了解しました」


 今回、艦隊を率いてオッサン達がコンラッドコロニーまで足を延ばしたのは、パメラ嬢からお願いされたからだ。先日の打ち合わせの後で漸く彼女と面と向かって話をすることが出来た。まぁ、彼女なりに覚悟が決まったって事だったんだろうな。で、その為には色々と片付けないとならない事がある訳で。


 それで、パメラ嬢を連れてパルメニア教団と、もう1つの目的地である彼女の実家を訪問することになったという訳だ。まぁ、職場に辞めますって報告と実家には絶縁状を叩き付けるだけの簡単なお使いレベルのお仕事だ。それにしては、過剰戦力だって? まぁ、何事も平和が一番だからね。




 「ようっ、調子はどうだ?」

 「……少しだけ、緊張してるわ」

 「そうか。まぁ、心配するな。俺とシャンインが同行するし、武装した護衛も君の周囲に展開する。もし、彼らが平和的な解決を望まないと言うならば……」

 「あのさ、気合が入ってるところ悪いんだが、出来れば平和的な解決を頼むぜ?」

 「俺もそう願うよ。……まぁ、狂信的な連中ってのは何をしでかすか分からないからな」


 パメラ嬢にあてがった一室で、彼女と言葉を交わす。緊張していると言っているが、その表情は言葉とは裏腹に凄く落ち着いている様にさえ思える。少なくとも、星女であった時の彼女とは、比較にならない位に今の彼女は明るくなった。女の子には笑顔が似合う、オッサンはそう思います。


 「……聖戦師団か」

 「あぁ。君が共和国に連れ去られた事で、奴らの歯止めが効かなくなっている。一応は、教団上層部が抑えに回った様だが……」

 「消えていた私がアンタと現れて、今度は星女を辞めるって言いだしたら大騒ぎだな」

 「教団も聖戦師団も、上から下まで蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろうな」


 勿論、そんな事はオッサンもパメラ嬢も、百も承知の上だ。もし、聖戦師団の一部だか全部だかが暴走する様であれば、ミディール隊をコロニー内部へと投入する事も辞さないつもりだ。あくまで、向こうが力でどうこうしようって動くのであればだがな。


 頼むから、コロニー内部での地上戦だけは避けたいのが本音だ。ただ祈るだけの信徒達まで、無益な争いに巻き込む訳にはいかないからな。まぁ、祈るべき相手が既にこの宙に居ないと知った場合、彼らの祈りは無意味だって事になる訳だが……。あれ? 結果的にそれを招いた俺は信徒達の敵か?


 「……でも、もう決めたんだ。だから、力を貸して欲しい、カズマ」


 そう言って、オッサンを見つめてくるパメラ嬢。その瞳には、決して揺るがぬ強い覚悟が秘められている。これに応えねば、漢が廃るってね。


 「任せろ、パメラ。君の人生は、君だけのモノだ。奪われたモノは、奪い返せば良い。俺はその手助けをするだけだ」

 「……」


 今代のパルメニア教団の星女リリィ・ホルトリッジ・パルメニア。本名はパメラ・シュティナ。宙賊の家に生まれ、星託を授かる力を得た事が彼女の人生を大きく変えてしまった。まぁ、正確には色々大人達の都合もそれに影響したけどな。そんな彼女も、漸く彼女だけの人生を取り戻せる。


 「さて、行こうか?」

 「あぁ……。カズマ?」

 「ん? ……へっ!?」


 ほんの一瞬、頬に柔らかい何かが触れた後、パメラ嬢はオッサンへと振り返りながらとびっきりの笑顔を浮かべながら言い放った。


 「しっかり、守ってくれよ?」

 「……了解。お姫様?」


 やれやれ、足枷から解放されるのだと分かるだけで、人ってのはこんなにも良い方向に変わるものなんかね? まぁ、かつてのパメラ嬢の様に全てを諦め、ただ求められるまま望まれるまま星女として過ごしていた時からすれば、今は大きく違うって事なのだろう。そして、その笑顔が再び曇る事が無いように、オッサン達はこれから交渉をしに行く訳だ。




 パメラ嬢を連れ、宇宙港と接舷している外周部のデッキへと降りると、既にソフィー達が集合していた。オッサンと外交を担うシャンイン、星女たるパメラ嬢、そして護衛の陸戦隊がコロニー内部へと足を踏み入れる。その間、ソフィーは護衛艦隊の指揮官代行として『スレイプニル』に残る。


 もし、コロニー内部で何か問題が起こった場合は、ソフィーの命令によって直ちに空母からミディール隊が発艦し、内部へと強攻突入を開始する手筈となっている。今回はガルメデアコロニーの時の様にコッソリと入り込むような真似はしない。大型の荷物搬入路から一気に内部へと突入する。その際に、コロニーの機能に少なくないダメージが入るだろうが、此方の知った事ではない。


 「一馬さん。護衛の陸戦隊。総員、準備完了です」

 「了解。陸戦隊、総員傾聴」

 『ハッ!!』


 指揮官クラスの戦闘アンドロイドを先頭に、50名ほどの部隊が同行する。今回は支援メカは要塞に置いて来た。まぁ、光学迷彩を用いれば持ち込めなくも無かったが、止めておいた。どうしても戦闘アンドロイド達に比べて、戦闘時の判断がシビアになりがちだからな。それに、火力面では支援メカを優に上回るミディール隊がいる。彼らの突入まで、護衛部隊と共に何処かで狂信者からの嫌がらせを凌げば良いだけだ。


 「既に説明してある通り、諸君らの任務は此処にいるパメラ嬢を、無事に『スレイプニル』へと連れ帰る事だ。往路は恐らく問題無いが、復路は戦闘になる可能性が高い。武器や、その他の兵装は各自の判断で自由使用とする。彼女の進む道を、邪魔する連中を徹底的に排除しろ。良いな!?」

 『Oorah!』


 誰だよ、陸戦隊にも感染させたヤツ!?

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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