4.5-7:束の間の平穏⑦
まだまだ続くよ、日常編。
もう少ししたら、他の勢力の話も少しだけ。
祝・通算200話!
ドクターとの愉快な打ち合わせの後、シャンインから呼び出しを受けミーティングルームへと本日2度目の入室を果たした。で、何故こうなった?
「第1回システム音声担当者は誰だオーディションですわ!」
「……はい?」
「「ヒュー、ヒュー!」」
何故か、ミーティングルームにヘンテコな会場設営が為され、マイクを持ったシャンインが訳の分からないイベントの開催を高らかに宣言した。後、ヘイスァとバイスァは多分良く分かってないだけだと思う。
「いや、シャンイン。これは、一体?」
「オーディションですわ!」
「いや、何の?」
「ドクターから、一馬様の専用機向けのシステム音声が必要とされているお聞きしましたの。それで、私が是非にとも立候補しようとしたら、皆もやりたいと言い出しましたので、協議の結果としてオーディションになりましたわ!」
「意味不明だわ」
取り合えず、ドクターが皆にシステム音声の件で連絡を入れたのは知っている。オッサンも、その場にいたしね。で、それがどうしてオーディションなんてものに繋がったのかは理解に苦しむのだが。
「いや、普通に誰でも良かったんだけどさ。何なら、皆で録っても良いしね?」
「甘いですわ、一馬様! コーヒーに角砂糖100個溶かし込んだモノより甘いですの!」
「……」
1杯のコーヒーに角砂糖100個。それは、流石に溶けきらないと思う。むしろ、マグカップに入らない定期。いや、今はそんな事を突っ込んでいる時では無いな。
「良いですの? 専用機のシステム音声を任されるともなれば、大任ですの! 誰でも良いなんて、甘過ぎますの!」
「そ、そうかな……?」
圧が凄い。何がシャンインをそこまでさせているかは知らないけれども、とにかく圧が凄い。お互いの間にはそこそこの距離がある筈なのに、物凄いプレッシャーを感じてます。で、シャンインばかり目立っている様だけど、実際には室内にソフィー、サウサン、ヘイスァ、バイスァ、テトラ、ヤヴァナと補佐官及びその補佐役が勢ぞろいしている。いないのは、ドクターだけだな。
「サウサンはまだしも、ソフィーまでシャンインの騒ぎに乗るとは思わなかったよ」
「どういう意味だ、一馬?」
「そのまんまだよ」
「納得できん!」
ブーたれるサウサンを後目に、この手の騒ぎには出来るだけ関わらない様にしているソフィーが居た事に些か驚きを隠せない。どちらかと言うと、彼女はシャンインの暴走を止めるか諫めるなりする側だからね。
「シャンインが、良い機会だから皆で一緒に盛り上がるべきだと言い切りまして……」
「なるほど。まぁ、一緒に何かをするってのは、強ち悪い事では無いしな」
「はい。考えてみれば、この手のイベントごとは今までありませんでしたので。偶には、良いのではないかと?」
「そう言われると、返す言葉も無いな」
皆で参加するイベントやレクリエーションの類は、上手く活用すれば良い方向にチームを纏め上げる要素となり得る。無論、失敗すると余計な亀裂や軋轢が生じる要因となる事もあるけどね。まぁ、シャンインがそこまで考えて行動しているかは不明だが……。
「はぁ。まぁ、此処まで準備しちゃったのなら、仕方が無いか」
「流石は、一馬様ですの!」
「いや、ただ単に勢いに押し切られただけだと思うけどね……」
普段、使っているテーブル類は隅に移動されており、気軽に摘まめる軽食類と飲み物が用意されている。で、部屋の正面には一段高くなったステージが用意されており、中央にはマイク。両サイドには幕が張られており、此方側からは中が伺えなくなっている。
で、ステージの目の前に椅子と簡易式のテーブルが1組用意されており、どう考えてもオッサンが其処で審査する様だ。いや、審査員の数がどう考えても少なすぎるよね!?
「さぁ、さぁ、一馬様は此方に着席して下さいですの」
「ハイハイ。これで良い?」
「バッチリですわ! で、そこの用紙に点数を記入して下さいですの」
「シャンイン、……0点と」
「何でですの!?」
いや、何でかと聞かれたら、ノリでとしか答えようが無い。でも、シャンインの反応が中々に良いモノだったので、10点に書き直しておいた。床に両手と両膝をつき、打ちひしがれている彼女。まぁ、お遊びはこれ位にして、ちゃっちゃと先に進めようか?
「で、オーディションと言っても、何をするの?」
「自由ですわ!」
「……帰って良いかな?」
「ダメですの!」
システム音声の担当者を決めるオーディションの筈なのに、内容は自由ですって流石にフリーダム過ぎやしませんか? ガチで隠し芸とか披露された日には何をどう審査すれば良いのやら。普通、この手のオークションって、予め決められた文章を審査員の前で読むとかじゃないの? バカなの?
「では、早速始めますの! 先ずは、エントリナンバー1&2番! ヘイスァとバイスァですわ!」
出だしから不安でしかない! そもそも、ヘイスァとバイスァは2人で1エントリー扱いなのか? てか、彼女達がシステム音声を担当したら確実に喧しくなること間違いなしなんだか……。
「1ばーん!」
「2ばーん!」
「「2人合わせて、3ばーん!!」」
「……」
もう、何を何処から突っ込めば良いのか、オッサンには分かりません。これ、オーディションに託けて、皆で騒ぎたいだけじゃね? いや、まぁ何事も息抜きは大事だけどさ。その方向性を、著しく間違えている気がしてならない。
「ヘイスァと!」
「バイスァの!」
「「わくわくランドロッサ~」」
わくわくランドロッサ? 軍事要塞に、わくわくする様な要素があっただろうか?
「流れるプール!」
「どんぶらこっこ」
「波のプール!」
「ザッバァー」
「ウォータースライダー!」
「シャンイン、ビビッてるー!」
「それは聞き捨てならないですわ!?」
敢えて、言わせてもらうが。ランドロッサ要塞に、流れるプールも波のプールも、ましてやウォータースライダーなんて設置されておりません。トレーニング用のプールがあるだけです。取り合えず、シャンインは落ち着こうか?
「バイキング!」
「わくわく!」
「闇鍋!」
「どきどき!」
「シャンイン!」
「ビビッてる!」
「フッシャァー!!」
「「シャンイン激オコ~!」」
……。
「次、行こうか?」
「……そうですね」
取り合えず、ヘイスァとバイスァは0点だな。あの独特の掛け合いを、システム音声でやられたら悲惨な事になりそうだから……。戦闘中に、「右?」「左?」「上?」「下?」「「右斜め45度!」」とか言いそうだし。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!