1-20:第16コロニー攻防戦
戦闘の様子を客観的に描きたかったので、この話は三人称になります。
次話は何時も通り。
※何だかんだで、9月2日の投降開始から一月が経過しました。
色々と足りていない私の作品を読んで下さる皆様、評価して頂いた方々、ブックマークして頂いた方々、皆様のお陰です。この場を借りてお礼申し上げます。これからも、拙作を宜しくお願い致します。
臨時編成された第151任務部隊。巡洋艦3隻、駆逐艦12隻、補給艦6隻から構成される151隊は、この様な辺境に派遣されるにしては規模の大きい艦隊だった。彼らに与えられたのは、逃亡を図ったフォラフ自治国家首相の娘、ナターシャ・ムル・モルゴフを捜索し連れ帰るだけの簡単な任務だった。過酷な前線から休暇の為に下がったものの、直ちに出撃準備をさせられた上で、流刑に使われた辺境の地まで派遣される事になった乗組員達の間には当初は不満の声も有った。
しかし、任務の内容が分かると一転して任務を取り止めになった休暇の延長として考える様な者まで続々と出る始末。確かに、辺境の地での多少の出来事など誰も気にもしないだろう。捜索を邪魔する現地人をどうしようが、本国は気にもしない。前線で溜まった鬱憤を晴らす格好の場所と認識する者もいた。だが、彼らの思いとは裏腹に、第16コロニー周辺宙域は狩人達が手ぐすねを引いて待つ、狩場となっていたのである。
「巡洋艦アーミント撃沈! シンクレア大佐以下151隊司令部要員、総員戦死! 駆逐艦アルゴーバ大破! 航行不能!」
「上陸中の海兵隊、宇宙港内地側出入口付近にて現地武装勢力と交戦! 支援戦闘車2両大破!」
「駆逐艦ボールダー撃沈! 巡洋艦ハムスフォークに総員退艦命令! あっ……、駆逐艦コークビル被弾! 速力低下!」
「海兵隊より支援要請! 我、武装勢力の激しい抵抗に会い、前進困難!」
「駆逐艦コークビル大破! 退艦命令発令!」
「何が、起こっているのだ……?」
「艦長! 駆逐艦リライアンスより通信! 貴艦の武運を祈ると! ……駆逐艦リライアンス爆沈!」
「何故、この様な事が……⁉」
第16コロニーの宇宙港に6隻の補給艦が入港し、乗艦していた陸戦要員たる共和国海兵隊600名が支援戦闘車12両と共に上陸を開始したのは、フォルトリア星系歴5月27日午後7時半頃の事だった。第16コロニーに派遣された3個艦隊からなる151隊は、上陸作業中の補給艦護衛の為に1個艦隊、到着直前にコロニーから出港した不審船の追跡に駆逐艦2隻、そしてコロニー周辺の警戒に1個艦隊及び巡洋艦1隻、駆逐艦2隻を充てていた。事態が動いたのは、上陸開始から30分程が過ぎた頃の事。
「レーダーに影? ……艦影!?」
最初に異変に気が付いたのは、151隊の旗艦を務めていた151-α艦隊の巡洋艦アーミントだった。彼らは上陸部隊警護の為に宇宙港から少しだけ距離を取り、艦隊を編成する駆逐艦4隻と共に周辺警戒に当たっていた。駆逐艦に比べてより強力なレーダーを搭載していたアーミントは、コロニーの影から真っ直ぐに高速で接近してくる艦影に気が付いたのである。しかし、既に時遅しで有った。
完全に死角からの奇襲攻撃となった所属不明艦からの艦砲射撃によって、アーミントは艦橋とエンジンを正確に撃ち抜かれ、止めとばかりに2発の対艦魚雷の直撃を受けた為に抵抗する間も無く轟沈する事になった。更に、行き掛けの駄賃とばかりに艦隊最後方に位置していた駆逐艦アルゴーバもまた、複数発の対艦魚雷によって大破へと追い込まれた。
151α隊の状況に気が付いた151β隊及び151γ隊が救援の為に動き出したが、彼らもまた別方向からの攻撃を受け被害を出す事となる。151β及びγ隊で最初の犠牲となったのは、γ隊の旗艦である巡洋艦ハムスフォークと、β隊の駆逐艦ボールダーであった。因みに、本来ならばβ隊の最初の犠牲は巡洋艦フリーダムとなる筈であった。しかし、駆逐艦ボールダーがフリーダムと所属不明艦との間に艦体を滑り込ませてしまった為に、身代わりの様な形で犠牲となっていた。
「所属不明艦……、いや、敵艦は何隻だ!?」
「艦影からして、駆逐艦クラスが4隻です! 2方向から奇襲を掛けてきた模様!」
「残存艦に通達! 本艦を軸に迎撃陣形! 弾幕を張り近づけさせるな! 不審船の追跡に向かわせた2隻も急ぎ呼び戻せ! 急げ!」
「りょ、了解!」
巡洋艦フリーダムの艦橋では、艦長のローガン中佐が奇襲による動揺から復帰し151隊の立て直しを始めていた。この時点でコロニー周辺にいた13隻(巡洋艦3隻、駆逐艦10隻)の内、6隻(巡洋艦2隻、駆逐艦4隻)が撃沈乃至退艦命令が出ている状態であった。残存戦力は巡洋艦フリーダムと駆逐艦6隻。
所属不明艦改め敵勢力の追撃を受けつつ、どうにか合流を果たす7隻の残存艦。元々の所属艦隊の壁を越えた臨時編成の艦隊。しかし、今は生き残る事が彼らの最優先だった。そして、彼らの様子を確認した敵対勢力もまた、それに応じて艦隊運用を変化させるのであった。死闘はまだ続く。
「敵艦、4方向から来ます!」
「正面下方及び、2時方向上方より接近する敵艦は本艦と駆逐艦エトナ、スムートで応戦! 5時方向は駆逐艦ハーマンとモーガン! 9時方向は駆逐艦ケルトンとハイラムだ!」
「了解!」
「各艦、撃ちまくれ! 砲身が壊れようと気にするな! ここが正念場だぞ!」
「「「了解!」」」
奇襲で艦隊の総戦力は瞬く間に半減したものの、優秀な指揮官の元で冷静さを取り戻した彼らは積み重ねた経験によってどうにか猛攻を耐えていた。とは言え、それは僅かばかりの時間を稼いだに過ぎなかったのだ。
「駆逐艦ハーマン被弾! 速力低下! 艦隊下方より新たな敵影4!」
「増援だと!?」
「これは、小型の戦闘機タイプです!」
「まさか空母がこの宙域にいると言うのか!? 帝国か、いや連邦か!? まだ敵が増えるのか……!!」
脚の速さを活かした高機動戦を仕掛けられ、ジリジリと神経を擦り減らされる激しい戦闘の中、更に空母を含めた大規模な増援の影はローマン達の士気を挫くには十分であった。勿論、実際には空母等がこの宙域に迫っている事実は無い。
当初の予想よりも貨客船ディーシー号の追尾に当たる共和国艦の数が減った事で、イースキーを迎撃戦からコロニー側の救援に向かわせた結果に過ぎない。しかし、ランドロッサ要塞の存在を知らない彼らは、コロニーとは逆方向から戦闘機が飛来した事で空母の存在を幻視してしまったのである。
「クソッ……!」
手すりに拳を振り下ろすローマン中佐。彼の脳裏に浮かぶのは、艦載機に翻弄され、敵駆逐艦の砲撃で沈む僚艦の姿。そして、艦橋で閃光と共に消えていく自身の姿だった。
「駆逐艦スムート被弾! 通信途絶!」
「駆逐艦ハイラム被弾! 速力低下!」
「追跡に向かった駆逐艦コーディー、ダンベル何れも音信不通!」
彼が悩む間にも次々と駆逐艦が被弾し戦線から離脱していく。まとも艦隊行動が取れるのは残り4隻のみ。一方で、敵勢力は初期からいる駆逐艦4隻に艦載機が4機も加わっている。共和国側の攻撃は敵艦に命中しても未だに有効打には程遠い状況であった。実際は、敵側もギリギリの戦いであるが、彼らがそれを知る由は無い。そして……、彼らは決断した。
「艦長、このままでは……!」
「……副長。発光信号準備」
「内容は?」
「……降伏だ」
「了解……しました」
肩を落とし、艦長席から離れる副長。命令通り発光信号を撃つように部下へと指示を出すが、その表情は暗かった。そんな彼を嘲笑うかのように、強力な加速を与えられた事で真っ赤に加熱された砲弾が、フリーダムの艦橋を掠めていく。軍人として、副長はローマン中佐と同様に戦場で戦死する覚悟は持っていた。しかし、一方的に叩きのめされた上での降伏など、一度たりとも考えた事が無かったのだ。いや、本当はその様な屈辱的な想定など考えたくも無かったのだ。怒りに震えながらも振り下ろす先の無い、握り締めた拳が静かに揺れていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。
次回は、今回のお話の要塞側視点をお送りします。