4.5-6:束の間の平穏⑥
開発編、漸く終わり。今までで一番長くなったのは木の精。
前回は、推進剤燃焼効率改善に注力して貰う為に、新規での研究開発は依頼していなかった。そのお陰という訳でも無いが、大方の既存開発品が落ち着いた事もあり、新しい依頼を出しても良いかなとなった訳だ。
「して、何を望まれますかな?」
「先ずは、拠点艦の後継艦を開発して欲しいかな? 修理・補給を同時に行える艦艇数の増加、それらに必要となる資源の積載量の増加、後は艦速の向上。今後を見据えると、この辺は欲しいね」
「なるほど。現行艦の、純粋な能力向上型と言うところですな?」
「そうだね。下手に新機軸を盛り込むよりか、既存の能力を底上げしていった方が良いかなと思う」
「承知しました」
元々、現行のラクラン級拠点艦は既存の工作艦をベースとした艦だ。現状でも特に能力的に問題がある訳では無いが、今後を見据えると各能力の向上は必要不可欠だろう。特に、艦速は是が非でも向上させておきたいところ。
次代の『スレイプニル』用に建造を開始したストランドヒル級戦艦は、艦速が前級であるバリーフェルター級に比べ20万km向上し、時速270万kmとなっている。これは、クロークヘイブン級も同様のこと。つまり、そう遠く無い将来、艦隊速度は現行の時速250万kmから時速270万kmへと上がる事となる。拠点艦も、これに追従出来る脚の速さが求められる訳だ。
「ちなみに、自衛用の兵装はどうされますかな?」
「あー、どうするかな。現行の艦は非武装だよね?」
「はい。まぁ、搭載するにしても対空砲や多用途ミサイルランチャー程度ではありますがな」
「んー。多用途のミサイルランチャーを何基か積もうか? ステルス技術を過信し過ぎるのも危ないしね」
「では、その様に設計を進めるとしましょう」
基本的に、拠点艦は前線より一歩下がった地点で護衛の艦艇と共に待機が原則。それに、ステルス技術もあるから、早々敵に見つかる可能性は低い。とは言え、絶対に見つからないって保障は無いし、万が一攻撃された場合に何も出来ないってのもね。最低限、加速して後方に退避する時間稼ぎが出来る位の兵装は用意しておいた方が良いだろう。
「次は、潜航母艦だな。複数の潜航艦を内包して補給・整備が行えるドックと、それらに必要な資源を貯蓄しておく倉庫、それから潜航艦の乗組員達が休憩・宿泊出来るエリアが欲しい。謂わば、諜報部隊の簡易的な根拠地になり得る艦と言えば良いかな?」
「なるほど。コンセプトは理解しました。武装はどうされますかな?」
「基本的には、潜航艦同様に空間の隙間での運用が前提だから、自衛用の兵装を最低限で良いと思う。後は、外装部にダミーバルーンを装着して、デブリや貨客船辺りに偽装させるのもありかな」
「ふむ。では、基本設計に合わせて、幾つかの武装パターンを試してみるとしましょう。ダミーバルーンは、既存の物を基本的には流用すればよろしいかと思われます」
「その線で頼むよ」
新規開発の2番目は、潜航母艦。元の世界で言えば、潜水母艦と呼ばれていた艦種だな。潜航艦への支援を主目的とした支援艦であり、今後も彼方此方へと行って貰おう事になるであろうサウサン達の第2の拠点となる事を期待している艦だ。小型の潜航艦では、長期の航行ともなると居住空間の狭さで中々大変だからな。
「同時収容は何隻程度をお考えですかな?」
「4隻位じゃないかな? 余り大きくし過ぎてもね」
「では、先ずはそのサイズで開発を進め、後々必要であれば収容数を増やした改良型の開発を進めるとしましょう」
「そうだね、それで頼むよ。それと、開発に当たってはサウサン達からの意見も欲しいね」
「ですな」
メインで利用するのはサウサン達になる。となれば、彼女達の意見を前もって取り入れておいた方が、後々で色々と不備が出てくる事も減らせるだろう。
「取り合えず、初期案を纏めてくれるかな。サウサンにも声を掛けて、何処かで打ち合わせをするとしよう」
「承知しました」
さて、これで2つ新規開発を依頼した訳だが……。ぶっちゃけ、現状だとこれ位かな? 後は……。
「あぁ、そうだ。ドクター、『オグマ』とかのシステム音声だけどさ、機械による合成音声だと味気ないから、要塞メンバーの声を録音して利用するとか出来るかな?」
「可能ですぞ? 誰に依頼するかは決めておりますかな?」
「いや? まぁ、誰か手が空いているメンバーで良いかなって思ってるんだけどさ」
「……なるほど」
機械音声じゃなければ、此方としては問題無いからね。ドクターでも良いんだよ?
「取り合えず、皆に連絡を入れておきましょう。1人でも良いですし、複数人でも問題ありませんからな」
「そうだね。まぁ、そこまで収録する量も無いだろうから、直ぐに終わるよ」
「……だと良いですな」
「ん?」
「いえ。ちなみに、他に新規開発のご依頼は何かありますかな?」
歯切れの悪いドクターも珍しいな。それに、何て言うか話題を無理矢理変えた様な気もするし? まぁ、何かあれば言ってくるだろうから、今は気にする必要はないかな。
「んー、これ以上は今のところ特に無いんだよな。逆に、ドクターから何か開発提案とかある?」
「そうですな。現行の要塞で足りていないモノですか……」
これまでは、割とポンポンとアイディアが思い付いていたのだが、ぶっちゃけスランプ気味です。艦艇は開発ツリーをアンロックしていけば、自然と強化にも繋がるしな。後は、光学兵器へと換装していけば火力も向上するな。兵器類も同様だし……。
「……」
「……」
「やはり、合体なのでは?」
「合体か……」
合体。それは、漢の浪漫。
合体。それは、漢の青春。
合体。それは、漢の本望。
合体。それは、漢の有様。
合体。それは、漢の本懐。
やはり、合体しかないか。合体だ!
「『オグマ』5機で可変合体かな?」
「そうですな。機動合体『オグ・マー』ですかな?」
「いや、どうしてヘイスァとバイスァ風になるんだよ!?」
そんな愉快なやり取りをドクターとしている間に、あんな事が起こるなんてこの時のオッサンには知る由も無かったのである。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!