4.5-4:束の間の平穏④
専用機と言う名のバケモノが宙に放たれます。
相対するであろう者達に、合掌。
「次は背面のメインスラスターですな」
「……何て言うか、もう何でも来いって心境だわ」
ドクターと共に、機体が見やすいようにとキャットウォーク上までやって来た訳だが。何て言うか、此処までの説明でオッサン的にはお腹一杯になった気がします。いや、既に色々と盛り過ぎなのよ。まぁ、機体に求めるコンセプト的に避けられない部分が多々あるとは思うのだが……、ね?
「メインスラスターには、2モードございます」
「はい?」
「単純に説明しますと、機動性を重視するモードと運動性を重視するモードですな。現在は、機動性を重視した形態となっております」
「えっと……」
パッと見る限りだと、背面から上方左右と下方左右へとそれなりの太さの円柱形のパーツが付いているだけだが。これが、スラスターなのか? って、確かに先端部分には『オグマ』でも見慣れた、推力偏向ノズルが付いているな。ぶっといスラスター?
「機動性を重視した形態では、全ての推力を1つのノズルへと集中させます。一方で、運動性を重視したモードでは。……すまぬが、メインスラスターの形態変更を頼むめるかの!」
「了解です!」
「モードチェンジ?」
「フフフッ。ご覧くだされ! これぞ唯一無二の可変式スラスターですぞ!」
右手を大きく掲げ、そう語るドクター。凄く生き生きとしています。で、肝心のスラスターの変化だが、確かに中々の吃驚メカではある。ノズルが内側に折りたたまれる様に収納され、円柱形のスラスター自体が中央から割れて、ハの字ないしV字へと変形していく。……取り合えず、ノズルが内側に折りたたまれるってどんな技術なの!?
胴体背面から見てV字に分かれたメインスラスターの内部から姿を現したのは、幾つもの小型スラスターだ。それぞれが推力偏向ノズルの様なので、恐らくこれが運動モードだかの肝となるのだろう。
「メインスラスターの内部には、サブスラスターが上下2基ずつ格納してあります。合計4基のメインスラスターですので、サブスラスターの総数は16基となりますな。機動モードでは1つのメインスラスターに全推力を、運動モードでは各サブスラスターへと適切な推力を状況に応じて送り込みます」
「100の推力を集中するか、適宜分散させるかって事か」
「はい。これまで香月司令官は可変機構を利用した不規則な回避機動を好んで使われてましたな?」
「そうだよって、……これでも似たような事が出来るのか?」
これまでは、可変中の不安定な機体バランスを利用した不可測回避機動だったが、これらのサブスラスターを使えば同様の事を再現可能だろう。いや、むしろ更に予測され難くなるかもしれないな。
「サブスラスターの推力は4基で合計100までの範囲で調整が可能です。25ずつ均等に振り分ける事も可能ですし、100を1つのサブスラスターに集中させる事もまた可能です」
「16基のサブスラスターに、意図的に不均等な推力バランスを与えれば、機体は無茶苦茶な動きをする訳か。その特性さえ把握出来れば、十分武器になるな……。ちなみに、メインスラスターだけどさ。機動モード2基と、運動モード2基とかも可能?」
「香月司令官であれば、そう仰られると思いまして、手動操作で任意にモード切替え数を変更可能な様にシステムを変えております」
「流石は、ドクターだわ~」
その辺りも抜かり無く準備してくれるドクターは、流石としか言いようが無いな。オッサンの思考を、キッチリと先読みしていただけて、何よりですぞ!
「また、運動モード時のメインスラスター本体の開閉角度や方向も任意に調整可能ですので、ご活用くだされ。とは言っても、メイン4基の可動域が完全に干渉しない訳ではございませんので、その辺りの注意は必要ですな」
「まぁ、その辺はシミュレーターなり実機で慣れるしか無いかな。一応、ソフトである程度の制御してあるんでしょ?」
「勿論です。……まぁ、それも手動で解除出来ますがな?」
「あはは……」
多分、その内に解除すると思う。ドクターもそれを分かった上で言っているだろうしね。これまでの機体のリミッターもそうだけど、基本的にシステム的な制御は解除して戦いたい派の人間なのですよ、オッサンは。機械による緻密な計算では無く、人間の予測と経験と少々の勘でこそ活きるモノもあると信じております。
「まぁ、メインスラスターはこの辺りで良いでしょう。細かい点は追々テスト中にでもご説明いたしますので」
「了解。後は……、コレは位置づけとして一応は脚部なのかな?」
「香月司令官。最早、手や足などと言う既成概念は捨て去るべき時代が来たかと?」
「ドクターは、少しばかり未来に生き過ぎていると思うよ?」
現行の『オグマ』は、人間で言うところの上腿部は普通に存在していた。あくまでも、膝下がスラスターに取って代わられていただけだ。ところがどっこい、この機体はどうだろうか? 股関節部分は存在するが、脚部に相当する部分には……。
「……何て言うか、何処かで見た様な感じがするモノが付いているよね?」
「複合ユニットですな?」
「此処から見える限りだと、8基はありそうなんだけど?」
「その通りですぞ。ユニット接合部を兼ねた下部スラスター2基の両側面に、複合ユニットを2基ずつ搭載しておりますからな?」
「……」
ユニット結合部を兼ねると言う下部スラスターは、簡単に言ってしまうと頂点を下にした五角形の様な形状をしている。それで、機体前方の頂点と下側の頂点に、複合ユニットの砲身が前方を向く形で結合している感じだな。腕代わりの複合ユニットと異なり、脚部側の複合ユニットは構造的に横向きの形でしか配置出来ない様だ。
「機体そのものの操縦以外に、全部で10基の複合ユニットを同時に操れって事?」
「はっ? さ、流石に香月司令官とは言え、複合ユニット10基全ての同時操作は厳しいかと思いますがの?」
「でも、出来たら良いよね?」
「……それは」
200㎜ビームキャノン20門での、オールレンジ攻撃か……。使いこなせれば、夢があるよね?
全ユニットが本体へと結合状態ならば、メインスラスター4基に加えて、ミディール改クラスのスラスターが20基分になる。これは、『オグマ』の最大加速を遥かに上回る事だけは間違いようが無さそうだ。
「これは、久しぶりに機体に振り回されそうだなぁ」
「……お喜び頂けて何よりですが。出来れば、暫くはそのままだと助かりますな?」
「頑張ってモノにするさ! まぁ、習うより慣れろの精神だよ、ドクター」
これから、戦いは益々厳しくなるだろう。だからこそ、使いこなす為の時間は僅かしかない。オッサンがすべき事は、自分の操縦技量をこの機体に完全に適合させることだ。シミュレーターの完成が楽しみだな。
「……これは、機動艦隊単位で鎧袖一触になりかねませんな」
「ん? ドクター、何か言った?」
ドクターが何かボソッと言った様な気がしたが、気のせいだろうか?
「いえ、何も。さて、お見せしておきたかった開発中の機体に関しては以上ですな。後は、その他の開発状況と、香月司令官からの要望をお聞きするとしましょうぞ」
「そうだね。じゃ、その辺は上でしようか?」
「そうですな。少しばかり喉も渇きましたし、話がてら一服と致しましょうか」
「了解」
さて、楽しい楽しい夢を語る時間の到来だ!
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!