4.5-2:束の間の平穏②
一馬が悪いのか、ドクターが悪いのか。
彼らは留まるところを知らない。
後、最後のは完全にネタにはしった。
作中でも衝撃の強いシーンの1つを、ただのグダグダ時空で汚染する本作品。
本当に、作者はバカです。
「ドクターはいるかな?」
「これは、香月司令。ドクター・ラクランでしたら、下のファクトリーにおられます」
「ファクトリー? 了解。行ってみるよ」
つゆだく牛丼に生卵、サラダにお新香、豚汁も付けて。そんなワクワク昼食を済ませた午後一番、ドクターを訪ねてラボへと足を運んだのだった。で、顔馴染みの研究アンドロイドに尋ねたら、どうやらドクターは下の階層にいるらしい。
ファクトリーって言うのは、拡張に継ぐ拡張によって上下2層で構成されてる様になった研究開発ラボの内、下層にある各種研究開発品等の生産・製造拠点を示す名称だ。今いる上層は、主に端末を使用しての基礎研究や設計などがメインとなる開発フロアになっている。下層には、ファクトリーを始め、実証実験施設や、開発された品々を保管する倉庫等が設けられている。
初期のラボから比べれば、桁違いの広さになった研究開発ラボ。ちなみに、システムポイントを消費する事で、更に多種多様な研究開発も可能な施設へと拡張する事が出来る。まぁ、そこまで手を出すかはドクターと要相談だけどね。
壁際に設けられた螺旋階段を下りていく。直ぐ横にエレベーターもあるのだけど、運動代わりです。階段での昇降運動は、気軽に出来る健康増進法なのですよ。一説では、階段の上りよりも下りの方が、運動になるとかならないとか。
一般的な建物で言えば、3階だか4階分はあるであろう階段。下りきった先には、広大なスペースを有するファクトリーが広がっている。各種生産マシンが大都会のビル群の如く多数並び立ち、多くのアンドロイド達が作業している。
「ようこそ、香月司令官。お待ちしておりました」
「やぁ、ドクター。朝ぶりだね」
既に連絡がいっていたのだろう、ドクターが穏やかな笑みを浮かべながら出迎えてくれた。さて、ドクターが是非見せたいモノってのは何だろうかね? 艦艇用のビーム兵装かな?
「お疲れのところ、申し訳ございません」
「いや、母艦の部屋でノンビリしていただけだからね。気にしないでくれ。で、見せたいモノって?」
「奥の組み立てフロアにございますぞ。此方ですな」
「了解」
ドクターに案内され、ファクトリーの奥へと歩ていく。ファクトリーを含む研究開発ラボは、機密エリアに指定されているので、関係者以外は立ち入り禁止になっている。とは言え、万が一があるので彼方此方に武装した戦闘アンドロイド達が配置されている。
彼らを横目に、更に奥へと進むと生産マシン群が消え、広いスペースが現れる。両側には、人員が移動や作業に使用するキャットウォークをコの字型に配置した、幾つものハンガーが設けられている。左側の一番手前にあるハンガー内に、何処となく見覚えのある機体が据え付けられ、多数のメカニックアンドロイド達が作業している様子が見える。大部分の装甲が無く、内部フレームが露出し各部の配線が丸見えになっている。これは、解体中なのか?
「ドクター。これって、……ミディールだよね?」
「おぉ、流石は香月司令官。お気づきになられましたな。仰る通り、この機体はミディール改をベースとして開発中の新型の機体ですぞ。これからお見せする機体の、言わば直掩機を任せる予定のものですな」
「なるほど、解体じゃなくて開発中の機体か。それにしても、何て言うか……何処となくだけど元のミディール改に比べて雰囲気が変化した?」
「そうですな。この機体は、軸となる基本フレームから見直しております。構成する材質は勿論のこと、各部を覆う装甲との組み合わせ方法も改良しておりますぞ。結果として、元となるミディール改に比べ3%程ですがサイズダウンを果たしております。後は、装甲も同様に材質から見直しておりますので、ベースとなったミディール改に比べ、それらの厚みが減っているのもまた変化した様に見える要因かと?」
3%程ってドクターは軽く言っているけど、それって凄まじい事だよな。ダウンサイジングって、そう易々と行えるものではないだろうに。いやはや、ドクターは本当にとんでもない人材だよ。どこぞのエレクトロニクス社も、機動兵器のダウンサイジングには苦労したと言うのに。
「機体強度も大幅に向上しましたので、今度こそ香月司令官が全力で機動させても問題無いかと?」
「……『オグマ』の事、そんなに気にしてたんだ」
「当然ですぞ! 探究者として、何時までも空中分解する様な機体しか創れぬでは……」
「アハハッ……」
少なくとも新型の『オグマ』に関しては、実戦でもシミュレーターでも空中分解したという輝かしい実績は持ってないんだけどね。逆に言えば、それまでの全ての機体は空中分解した実績を持つとも言えるんだが……。
「機体自体の強度向上は勿論の事、直掩機としての火力と装甲。そして、何より香月司令官の専用機に追従出来るだけの、機動性及び運動性を追求した機体となります。完成まで、今しばらくのお時間をいただきますが、ご期待を裏切らない性能はお約束いたしますぞ?」
「それは楽しみだね? ってか、見せたい機体ってのは俺の専用機って事? 今の『オグマ』でも、この新型機の内部フレームを流用して改良すれば、実用性は十分だと思うんだけどさ?」
「確かに……。ですが、先の『ステッサ』での戦闘データを分析した限りでは、既に現行の『オグマ』ですら、香月司令官の操縦に対し機体の機動性及び運動性が追従し切れていない事実が浮かび上がっております」
「あー、でも、それって精々0.05から0.1秒程度の事でしょ? それ位なら自分でフォロー出来るよ? 現に、それで『ステッサ』では戦ったしさ」
そもそも、思考し操縦し実際に機体が動くまでのタイムラグはどうしようも無いしね。なので、その程度の事であれば自分の腕でカバー出来る。これまでも、それでやってきた訳だしね。。
「……確かに、香月司令官の技量であればカバーは出来るでしょうな。ですが、それでは我々探究者は納得出来ませぬ。機体の性能不足をパイロットに補わせるなど、言語道断ですからな」
「いや、気持ちは嬉しいけどね? それは、際限なく完璧を求め続ける事と同義だよ?」
「左様。決して達成出来ぬ不可能な領域かもしれませんが、それでも我々は求めるのです。探究者ですからな?」
「……」
何時の間にか、ドクターとオッサンの周囲で足を止めていた多くのアンドロイド達も、しきりに頷いている。いやいや、君達それは無茶だと思うよ? 理想と現実には大きな壁がある。それを、ただがむしゃらに超えんとしても、終わりの見えぬ戦いに囚われるだけだと思うんだけどね。
「香月司令官の仰ることも分かりますが、これは我々の我が儘ゆえの事。心配して下さるそのお気持ちだけで、我々には十分なのです」
「……」
反論したい気持ちは勿論あるが、ドクターがそこまで言う以上、オッサンがすべき事は1つしか残されてはいないじゃないか。全く、厄介な探究者達だよ。
「……はぁ。なら、トコトン追求してくれ。ただ、決して無茶はするなよ?」
「無論です。これだけの職場はそうありませんからな? 何処まで辿り着けるのか、実に楽しみですな」
これは、ソフィー辺りに後で話をしておくか。さり気無く、彼らが無茶しないか監督しないとね。要塞司令官として、職場がブラックになる事だけは避けねばならん。例え、当人達が望んだものだとしても、労働時間の管理は上位者としての責務です。
「では、香月司令官。現状で、我々が出せるコタエを是非見ていただきたい。彼方へどうぞ」
「ん? あっち?」
ドクターに言われるまま、何故か周囲のアンドロイド達を引き連れる形で、先ほどのハンガーから2つ先のハンガーの前へと進んだ。そこでも多くのアンドロイド達が地上と複層式のキャットウォーク上で作業しており、ハンガーの中央には……、ハ、ハンガーの中央には??。ナニコレ?
……どうやら、ドクターに問い質さなければならない様だ。
「……ドクター」
「何ですかな?」
「現行の『オグマ』初号機がロールアウトしたのって何時だっけ?」
「香月司令官が『ステッサ』へ向かわれる2週間ほど前ですから、ひと月程前ですかな?」
「予備機である筈の『オグマ』2号機の製造が始まったのは?」
「……ひと月程前ですな」
「もう1つ質問して良いかな?」
「腕と上腿部。……何処にいっちゃったのぉ!?」
「……香月司令官の様な、勘の良い方は嫌いですな」
「いや、小芝居は良いからね!?」
何処から、そのネタ仕入れたんだよ!?
ハンガーには、『オグマ』だったであろう筈の、謎のビックリ機体が鎮座してましたとさ!
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!